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◆瀧川 順庸 (Yorinobu Takigawa)

大阪府立大学大学院 工学研究科
物質・化学系専攻 マテリアル工学分野 准教授

 

――このワイヤーの研究が始まったきっかけを教えてください。

もともと木ノ本伸線さんは鉄のシャフトなどを作られていまして、「まっすぐ」加工するなど、難しい素材でも良質に加工できることに強みを持たれていた会社さんでした。

一方でマグネシウムはとても軽いのですが加工が難しい素材で、ある時、ある企業の方が「そんな木ノ本さんでもマグネシウムを加工することは難しいでしょう」とお話を持ちかけたところ、「いえいえ、できますよ」という流れになり、2007年にマグネシウム製のねじを作るプロジェクトが始まりました。その頃からのお付き合いの中で、まずはマグネシウム製の溶接棒を作り(すでに実用化)、それが発展してさらに細くまっすぐ伸ばすというこのマグネシウムワイヤーの研究につながっています。

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――完成までの間、ご苦労された事を教えてください。

実用化に向けてもっとも苦労したのは、長く伸ばすにあたっての「組織の均一化」です。

たとえば、新幹線の車両1両をこのワイヤーで溶接しようと思うと、それだけでも300mくらいの長さのワイヤーが必要になります。何車両も作るためのものなので、実際に問われる長さはもっとですね。その長さすべてにおいて均一な(直径はもちろん、中の微細組織まで)ものを作らないと実用化には進めないということで、本当にいろいろな試行錯誤を重ねました。

具体的には、どういう条件でどういう加工をすると、組織がどう変わったという比較を繰り返します。変えた条件の中でも、どの条件がその組織変化に対して一番影響を与えているかという事を比較と検証の中で分析し、それに基づいて「こうすると、きっとこうなるだろう」という仮説をたて、さらにそれを実証するためにまた実験と検証を積み重ねて…というトライの繰り返しでした。

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――金属工学分野の魅力や難しさを教えてください。

原子レベルの並びから、マイクロメートル単位での微細組織制御、さらにマクロなミリメートル単位での構造制御など、さまざまなスケール感で組織などを見つめたり制御したりして、その結果良いものができあがる。その奥深さは非常におもしろいところです。

たとえば、どの原子が素材内のどこにあるか、それだけでも特性は変わります。温度を上げた後、それをどのように冷やすかでも原子の位置は変わり、特性も変わる。昔は錬金術とも呼ばれていましたが、そういった事にもひとつひとつにちゃんと理論があり、理論と実験、実証で新たな特性を持った金属が作りあがる。ちょっとした組み合わせでとんでもなく良いものができる可能性もある。そこがこの分野の魅力的な部分です。

一方で難しい部分ですが、ちいさいもの、原子ひとつひとつの挙動を制御する必要もでてきますので、そういったことはやはり難しいなと感じます。

また、いま世の中にある金属となると、すでに完全に純粋なものはなく、たとえば不純物や他の元素がいろいろと合わさっています。たとえば「純粋なアルミニウムの中にひとつだけ違う元素が入ってくる。その元素がどうなりますか?」というのは理論的に説明もしやすいのですが、そんな条件の素材は現実世界にはなかなか無く、いろんなものが入っていると原子同士の相互作用やお互いの条件を変えた際の関係はなかなか読めない。予測が難しい部分です。

でも制御はしなければならない。そして組み合わせや仮説は無限にある。そこが難しいし、やはりかつ面白い部分ですね(笑)。

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――金属工学分野を目指す受験生にメッセージをお願いします。

受験生(高校生)の方ですと、ロケットや鉄道や自動車など、実際に目に見えるものに興味を持つ人も多いかと思います。実はいま、そういった分野での技術発展が少しゆっくりになっていると言われています。

なぜかというと、いまよりも良い物を作ろうと思うと、すごく良い素材に変えるところまで立ち戻らないともう進まないくらい、設計やシステムでの革新は限界まで進んでいます。ここをブレイクスルーしようと思うと、素材までの話になってきているのです。

そこで、我々が日夜研究を進めている材料工学、マテリアル工学、金属工学などが一番の基礎になってくる。この分野で良いものができれば、さまざまな「目に見える」ところでもとんでもなく良いものができる。そういった可能性を持った、とても期待の持てる分野だと私は感じています。そこに面白さを感じる方と、ぜひ一緒に頑張っていけたら良いなと思います。

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研究や開発に関わってきたみなさんから、エピソードや開発段階で苦労した事などをお伺いしました!

◆博士前期課程1年 松下遼さん
-実際に試験をしてみて分かるという事の難しさ-
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◆木ノ本伸線株式会社 木ノ本 裕 社長
-大阪の企業の、たくさんの「きっかけづくり」を-
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◆マグネ合金溶接ワイヤー開発レポ/マテリアル工学分野
「世の中の車輌をもっと軽く!」

【取材:皆藤 昌利(広報課)】※所属は取材当時
【取材日:2014年12月12日】