◆木ノ本 裕 (Yutaka Kinomoto)
木ノ本伸線株式会社 代表取締役社長
――大阪府立大学との関わりや共同研究が始まったきっかけを教えてください。
元々、別の企業さんがマグネシウムの加工先を探しておられた時に、府の紹介で私が送られまして、その動きの中で「面白い先生がいらっしゃる」と言うことを聞いて、東健司先生(本学工学研究科教授、産学連携担当副学長)と出会ったのが最初の始まりでした。
そのマグネシウムの話だけならここまで色々とやって頂けなかっただろうけど、たまたま東先生がライフワークのようなもので、中小企業の後継人育成プロジェクトをやっておられまして。私もこの会社を継ぐか継いだかという時期でしたので、丁度いいタイミングだったみたいです。それから10年近い長いお付き合いとなっています。東先生との出会いの入り口にマグネシウムがあったからこそ、今回も2回目のサポインとして、このマグネシウム溶接ワイヤーのつながりを東研究室の瀧川先生(本学工学研究科准教授)と持たせていただいたと思っています。
ゼロからのスタートだとなかなか人が集まらないのですが、このような流れの中で研究が軌道に乗れば、新たな優秀な人材も得られる可能性も高まっていくと思います。
――今回の研究・開発で、もっとも苦労したポイントを教えてください。
挑戦しようとしていることがそもそも難しいという苦労もあるし、主に人の面に係る開発リソースがなかなか十分に揃わないという問題もありました。モノ(製品)について言っても、金属というものはなかなか思い通りに行かなくて、我々でも「何が起こってそうなっているのか」分からないことも多いです。
一方で、研究や開発におけるアプローチの仕方を実践の中で勉強できたことは非常に大きかったです。中小企業の開発案件ではデータ等を取ること自体がない事も多いので、まずはそのプロセスに慣れるための練習が必要になってきますが、データから根拠や原因を考察して、試行錯誤した結果を肌身で感じられるようになると、楽しくなってきますね。
また、自分たちが仮定・想定した要因ではない部分が実はまだ隠れていて、結果が変わっていることもあるかもしれないというのが、こういった開発や研究の難しいところです。マグネシウムの高速変形の部分などでは、もしかしたらまだ探しきれていない何かがあるかも知れないなと私は思っています。金属の塑性加工の先生も必要になってくるし、論点や考えるべきことが広くて多いのは非常に困難なことでしたね。学科や専門領域を跨いだ話になってくると、なかなか学生の協力も集めにくいと聞きますので、もっと学科を跨いだ研究や実験例が増えてくるといいですね。
――報道発表後の反響や今後の見通しなどはいかがでしょうか?
研究に関するあらゆる周辺状況が整ったところでの発表になったため、業界の中では皆すでにあらかたの動きを知っていたということもありましたので比較的静かな反響ではありました。ただ色々なところからの取材や講演依頼の問い合わせは増えました。
今後の見通しとしては、そもそもマグネシウムの市場自体がまだ非常に小さいものになので、爆発的に広がってくれるような流れやシステムの変化がないとなかなか期待するレベルに達するのはまだちょっと難しいかなと思います。
例えば、マグネシウムは車の部品としても使われ始めていますが、今回の新幹線ボディに向けた研究開発の動きもそうですし、今後は飛行機にも使われるのではないかという話も出てきております。現状の飛行機のボディにはカーボンを使用しているのですが、カーボンは1回使用してしまうと形を元に直せないので使いにくく、用途が非常に限られるものでもあります。また、破壊のコントロールができるというメリットがあるのがアルミですが、マグネシウムはそれに比較して破壊が突然来るという点、そして燃えやすい、加工し難いという点から、飛行機のボディにはなかなか使用し難い点が存在していました。ですがここ30年ほどの研究成果で、加工しやすく燃えにくいマグネシウム合金も作れるようになってきましたので、今後は活用の幅もぐんと広がっていくと思います。そういった流れで、徐々に多くの交通輸送機器にも使われて来ると良いなと思います。
――産学の共同研究において、大学側のスタッフ(研究者や学生、コーディネーターなど)に必要な視点だと感じることがあれば教えてください。
中小企業の特性として、何らかの形で実際にやってみたら幸いにも出来たという行き当たりばったりパターンも多いと思うので、大学の産学連携部門のみなさまには、一番効率的なやり方やスケジューリングを含めた大きな知識をつけたスタッフを一歩踏み込んで育成するという視点を持って関わっていただければありがたいと思います。
学生さんにも、今回のような事例で協力していただける機会がもっともっと増えれば、中小企業が挑戦的で楽しいことをやっているよということを自分の目で見てもらう良いきっかけ(機会)にもなります。外部の企業人や行政関係者たちと接する中で、学生の意欲や関心などもきっと向上してくるし、研究の質もよくなってくるでしょうね。
――大阪府立大学に期待することやご注文があればぜひ教えてください。
先ほどの話と前後しますが、中小企業の動きや技術などにも社会や学生から目を向けていただけるように、大学側からも情報発信していただけたら大変ありがたいと思います。なんだかんだ言っても日本の土台、基礎を支えている部分は中小企業の技術です。大企業ばかりではないよということもやはり知っていただきたいですね。共同研究をやらせてもらっているきっかけ(機会)を縁に、大学の研究に絡めてそういった情報をより広く多く流してもらえたらと思います。
また、国や大阪府の制度やプロジェクトをうまく活用していく際には、企業側にもメリットが生まれるし、府大側にもメリットが、ひいては行政にもメリットがあるという話を相手に理解してもらわないといけないので、そこは大学側にぜひとも協力していただきたい点ですね。
大阪府立大学は産学連携を比較的早い時期から始めていますけど、まだまだ気づくことはたくさんあるでしょうし、中小企業の育成、後継者問題等も含めて、ぜひ今後とも東先生たちと一緒にやっていただいて、色んなところに橋をつないでおくとこれからも色々な動きがしやすくなると思います。今回の製品開発や発表もそこからつながり、一目置かれるものとなっています。研究開発がはっきりとした実体として出来上がることは、社会の皆さんに分かりよく知っていただけるきっかけとなります。大阪のたくさんの企業の、その「きっかけづくり」に府大が一役買っていただければと期待いたします。
研究や開発に関わってきたみなさんから、エピソードや開発段階で苦労した事などをお伺いしました!
◆工学研究科瀧川 順庸 准教授
-組み合わせや仮説は無限。難しいけど奥深い分野。-
◆博士前期課程1年 松下遼さん
-実際に試験をしてみて分かるという事の難しさ-
◆マグネ合金溶接ワイヤー開発レポ/マテリアル工学分野
「世の中の車輌をもっと軽く!」
【取材:皆藤 昌利(広報課)】
【取材日:2014年12月12日】