先日、ユーグレナ(ミドリムシ)が細胞内に蓄積する油脂(ワックスエステル)合成系の代謝改変に世界で初めて成功し、大学からプレスリリースを発信 しました。このユーグレナの代謝改変は、ワックスエステルを原料としたバイオ燃料の凝固点を下げることにつながり、バイオ燃料生産技術への進歩につながる 重要な成果となります。

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□プレスリリース内容はこちらから(大阪府立大学Webサイト)
http://www.osakafu-u.ac.jp/info/publicity/release/2015/pr20150410.html

□環境ビジネスオンラインでも掲載されました。
http://www.kankyo-business.jp/news/010284.php

この研究を行ったのは大学院 生命環境科学研究科の中澤 昌美先生。府大OGでもある、笑顔の素敵な先生です。今回、ミチテイク・プラスのOB・OG、教職員取材として、ミチテイクメンバーの岩井麻美さんとともに中澤先生にいろいろなお話をお伺いしました。

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◆中澤 昌美(なかざわ まさみ)

IMG_2690-300x285【プロフィール】
平成7年 大阪府立大学農学部応用生物化学科入学、平成13年より大阪府立大学大学院農学生命科学研究科(現・生命環境科学研究科)助手(現・助教)
生物資源、遺伝子資源としての藻類の活用を目指し原生動物のユーグレナ(ミドリムシ)を用いた研究を行っている。現在担当する主なテーマは、ユーグレナのミトコンドリアに存在する非常にユニークな酵素の性質解明・遺伝子取得を通じた有効利用法の探索と、さらなるユーグレナの活用を目指すための遺伝子組換え系の開発について。また近年ではバイオ燃料生産生物としてのユーグレナの利用研究や、糖質分解関連酵素についても研究をはじめている。

所属学会:日本農芸化学会・日本生物工学会・日本生化学会・日本ビタミン学会・ユーグレナ研究会

<Theme1:府大入学&在学中の思い出について>
ー受験の際、なぜ府大を選ばれましたか?ー
小学生高学年の頃から理科の実験が好きで、「バイオテクノロジー」を勉強したいという気持ちがありました。調べてみると、「農芸化学」がどうやらバイオテクノロジーに近いらしい、ということが分かってきて。農芸化学を学ぶことができる大学を調べてみてそこに府大も入っていたんですけど、わたし堺生まれ堺育ちなんで、電車の窓からいつもこの大学の馬術部のお馬さんを見ていたんですね(笑)そこで初めて、ずっと何気なく見てきた場所の「名前」と「やっていること」がリンクして、身近でかつやりたい分野ができるという理由で府大への進学を選びました。

 

ー府大で過ごした学部生、院生生活で、印象に残っていることを教えてください。ー
研究室に入る前の学部生時代と、院生になって研究室に配属された後とで、「学生生活」の印象がまったく別のものになったことに驚きました。学部生時代はハンドボール部に所属していたので部活と講義を中心に、院生時代はまさに「1日中研究漬け」、そんなまったく違う2つの生活を楽しんで過ごせたのは貴重な経験だったなと思います。

ー岩)同じ学生生活と言っても確かにまったく違いますね!そんな忙しい毎日の中で、ストレスはどうやって解消していましたか?ー
もともと、ストレスはあまりたまらない性格のようです(笑)学部時代も院生時代も楽しくやっていたのもあって、それほどストレスだと感じたことはなかったですね。

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ー学内で好きだった場所ってありますか?ー
農場(教育研究フィールド)には府民の方も自由に通れる道があるんですけど、そこの道沿いが昔から好きですね。季節によってはレンゲやコスモスなどがたくさん咲いていて、農場の作物以外でも季節感を感じられます。
あと、今は立ち入り禁止になっている所が多いですが、以前は建物の屋上が開放されている所もありましたので、研究の合間にそこに出てリフレッシュするのも好きでした。PLの花火大会を屋上で見ている人がたくさんいましたね。

 

ーハンドボールは大学以前からされていたんですか?ー
いえ、ハンドボールは大学に入ってから始めました。実は高校までは「球技と団体競技はムリ」という苦手意識を勝手に持ってまして(笑)。しかし動くことは好きだったので、スポーツ系に入りたいなと思っていろいろと見ているうちに、先輩方がとても楽しそうに練習してまして、ハンドボール部に入ることにしました。ハンドボールは「球技&団体競技」という苦手要素ど真ん中のスポーツでしたが、やってみると楽しくて。最終的には主将をさせて頂きました。「苦手だと思っていても、実際に挑戦して見ることの大切さ」をそこで学んだ気がします。引退後も10年ほどはクラブチームに入ってプレーしていましたが、最近は学科内の対抗戦もあるのでもっぱらソフトボールです(笑)。

ー「府大で学生生活を送って良かったなあ」と思う点は何かありますか?ー
一生の良い仲間ができたことですね。うちの学科には当時1学年48人の同級生がいて、男女の比率もほぼ半々だったんですけど、1年生のころからほぼ毎日実験があって、2年生で週3回、3年生に上がると週4回の学生実験があったりと、非常に実験主体の学科でした。そのおかげで自然に仲が良くなって、団結力もついてきた気がします。いまだに1学年単位で20人も集まったりしますし、とても良い親交が続いています。
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IMG_2666-300x139ー先生が感じる「府大生のいいところ」はどんな点でしょう?ー
学生時代も教員になってからも、共通して私が感じる府大生のパーソナリティは、素朴で素直で率直で、「一生懸命やること」を周りが馬鹿にしないところ。そこがすごく素敵だなと思う点です。
高校生まではちょっととがってみたり、一生懸命やっていることを素直に表現することを良しとしないところが多少あったりしますが、この大学では頑張っていることをきちんと認めてくれるし、過剰にアピールしなくても自然にまわりに伝わります。素直に前向きに取り組むところが「府大生の気質」。同期や卒業生を見ていると、社会に出てからもそういった面が良い方向に働いているんじゃないかなと思える部分がたくさんあります。

ー岩)私もそうだなと思います。通っている近所の美容院のマスターが、これまでは違う土地で大学生をたくさん見てきたけど、この近所で開業して府大生に接して、初めて「大学生らしい大学生」と出会えたって言っていました。ー

 

<Theme2:研究テーマ決定、進路決定、研究生活について>
ー現在の研究テーマを選ばれたきっかけは何ですか?ー
初めて「ユーグレナ」に出逢ったのは3年生の授業の時です。「すごく変わった生き物がいる」、「微生物を食べ物(栄養源)として使うアプローチが過去にあった」などの話を聞いて、「そんな面白い生き物があるんだ」と興味を持ったのがきっかけです。その後、ユーグレナに関わる研究室に配属され、研究室でも ともと伝統的に進められている研究テーマに関わりながら、その中からさらに自分が面白いと思う方向にアレンジしながら研究を進めています。将来的にやってみたいなと思うテーマもありますが、無から有はいきなり生まれませんので、やはりいまある研究を基本として違う方向にも発展していけばいいなと思って取り組んでいます。

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ー研究者へと進む選択をされたきっかけは何ですか?ー
学部生の時など、その時々で研究職を軸とした就職を考えた時期もありました。今の道を一番深く考えたのは、やはり博士後期課程に残る時でした。研究にたずさわる事自身はとても面白く感じていたので、「企業で研究すること」と「大学で研究すること」を比較して考えました。
当然のこととして、企業の研究員はその企業の利益につながる研究をすることになります。自己責任の覚悟と責任が付いて回りますが、自分が面白いと思うテーマに愚直に向き合い、自分の手で明らかにしていくというプロセスはやはりアカデミアの世界でしかできないと思い、大学で研究を続けることを決めました。

 

ー今は1日をどのようなスケジュールで過ごされてらっしゃいますか?ー
だいたい9時ごろに出勤します。1日を通して研究室にいることが多くて、調べ物をしたり、学生と一緒に研究したりします。毎日、気づけばけっこうな時間になっていることが多くて、電波時計の時間合わせ設定(針がぐるっと回って時間を合わせる)が毎日16時でして、たいがいそこでハッとなって「おお、もう16時か」となったりしている毎日です。帰宅は21時、22時くらいになることが多いですね。

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ー研究室に集まってくる学生はいかがですか?ー
やはりみんな何らかの興味を持って集まってくれていますね。例えば、高校生の時のオープンキャンパスでうちの先代の教授がラボ案内をしてくれて、そこでユーグレナに興味を持ちましたという研究室学生も居てくれましたし、課程配属された2年生が、「高2のオープンキャンパスの時に、楽しそうに坂口フラスコを振りながらユーグレナの話をしている中澤先生を見て、実験や研究っていいなと思ってここにきました。」という嬉しい声も聞きました。
オープンキャンパスで偶然出会って話をしたのがきっかけになって、その後府大に入学して、しかも自分の分野に入って来てくれるというのはもうすごい確率です。そんな目に見えた反応も返ってきますし、研究にたずさわっている我々が楽しく自分の研究の話をすることは、とっても良いことなんだなと思いました。

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ー気持ちが折れそうな時は、どう乗り越えたり、リフレッシュされていますか?ー
気持ちが折れそうになること自体が少ないのですが、落ちる時はガンッと落ちて、次の日になったらケロッと忘れている感じです。落ち込むことはその先につながることでもあるので、それ自体は悪くないという考えでいます。また、パートナーもこの研究分野の理解がある人ですので、話をすることもリフレッシュの1つの方法です。
学部生時代にはゼミ配属の調整役を務めたことがあって、全員が満足する答えがない中での調整の大変さに、また研究者時代では、ある研究プロジェクトに関わっていた時に他の先生方と徹底議論する機会があって、「真剣に考え込む」ということの大切さについて、自分の至らなさや未熟さを痛感した出来事がありました。前向きに落ち込んだ経験としてとても印象に残っています。

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ー日常生活の中で「職業病だなー」と感じた時はありますか?ー
食べ物のレシピのことを「プロトコル」といってしまうことですね。(※プロトコルとは実験用語で、基本的な実験方法や概要などを記したコンテンツのことです)あとは長い実験生活の積み重ねのおかげで、粉ものの量や容積が目分量でだいたい分かってしまうことも特技でもあるし職業病でもあります。

 

<Theme3:人生哲学的なことや、後輩へのメッセージ!>
ー学生の時と今とで、勉強の「量」や「質」や「学び方」に何か違いは出ましたか?ー
学部生時代は、「何に活かすために」いまこれを学んでいるかということをあまり意識せずに、教養項目など広い範囲の事柄を学ぶ機会が多かった気がします。しかし研究室配属後や、特に今は目的や必要性がまず先にあって学ぶといったプロセスをとることが多くなりました。質という意味ではそこが大きな変化です ね。

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ー大学生におススメの本があれば、ぜひ教えてください。ー
個人的には対談本とかが好きですね。例えばiPS細胞を発見された山中伸弥先生とノーベル賞をとられた益川敏英先生の『「大発見」の思考法』という対談本があります。研究者ってこういうことを考えていて、こんなことをやっているんだ、研究って面白いなーと思わせていただいた1冊でした。ほかにも研究に関わ る本は結構好きで、思い立ったら買って、順番待ちの本であふれています。あと、伊坂幸太郎も好きで、ふとした時にふらっと読み返したりして、「あら、こんなところに伏線があったんだ。」みたいな楽しみ方をしています。「魔王」や「モダンタイムス」などがおススメですね。

 

ー大学在学中に、ぜひやっておいた方が良いことはありますか?ー
実際に手を出したことはないんだけど、もし自分で苦手だと思っていることがあったら、学生時代にこそ積極的に挑戦していくと良いと思います。あとはやはり今のうちに海外を見ておくことですね。自分は学生時代の海外経験はできなかったのですが、周囲を見ていて後悔とともに実感します。そういった「自分の変化」を感じられる経験をしておくことは、ぜひお勧めしたいと思います。
あとはチャンスに対してアンテナを立てておくこと。チャンスの数は人それぞれ同じだけあって、それを掴むことができるかどうかはその人次第だと思います。普段見すごしてしまうような景色にも興味をもって眺めてみたり、意識してアンテナを立ててみることで「偶然」や「チャンス」を拾い上げることができるんだと思います。

 

ー最近は”理系女子”が増えてきてはいますが、まだまだ少数だと思います。これから社会に出る理系女子に、最後にエールをお願いします!ー
私自身「理系女子」、つまり「リケジョ」を自ら推進している立場ではあるんですが、実は「リケジョ」という言葉なんて早く無くなってしまえばいいとも思っているんです。
「言葉」があるってことは「区別」があるということですので、あまり好きではないなと。「少ないから」とか「特殊だから」ということで、括られてしまっている言葉なんだと思います。最終的には「理系女子」という言葉がなくなるくらいに当たり前になることを目指してみんなで頑張ろうねって思います。とはいえ、あまり気負わずに自然体で、10年後は今よりももっとみんながいきいき働けるような世の中になるように、みんなで頑張っていきたいですね。

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終始、笑いのたえない穏やかな取材となりました。
普段ミドリムシとは縁のない生活をしてる私にとって、中澤先生の貴重なお話をお伺いできる貴重な経験となりました!先生、本当にありがとうございました。

 

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【取材:岩井 麻美 (MICHITAKERs/人間社会学部 社会福祉学科 4年)】
【取材日:2015年4月17日】※所属・学年は取材当時