2015年12月1日、攝津製油株式会社から「安全で簡便なウイルス対策 殺ノロウイルス組成物で特許取得 大阪府立大学との共同研究成果」というプレスリリースが発表されました。
http://www.settsu-seiyu.co.jp/

この研究に関わったのは本学 生命環境科学研究科 勢戸祥介 准教授。主に冬に猛威を奮い、下痢や嘔吐などの症状が出るノロウイルス。そんな怖いノロウイルスを食物由来の成分で予防できることが今回の画期的な成果です。その研究の中身について、先生に詳しく教えていただきました。

 

■勢戸 祥介

勢戸先生【プロフィール】
昭和61年 大阪府立大学大学院農学研究科獣医学専攻博士前期課程 修了、大阪市立環境化学研究所研究員、大阪市立大学大学院医学研究科助手を経て、平成17年より生命環境科学研究科助教授(現 准教授)。
各種感染症の疫学的解析および病原物質の分子レベルでの解析を行い、疾病の予防・診断に関する研究を行っている。

所属学会:日本獣医学会、日本ウイルス学会、日本臨床ウイルス学会、日本食品微生物学会、日本ウイルス性下痢症研究会

―今回の研究が始まったきっかけを教えてください―

おそらく2009年頃だったと思うのですが、日本食品微生物学会に攝津製油株式会社の方も参加されていました。そこで、何か新たな自社製品を開発したいと思っていると相談を受けました。私はノロウイルスを研究していましたので、調理場で安全に使用できる、ノロウイルス対策の製品を提案しました。もともと自分が取り組んでいた研究ですので、攝津製油さんから研究員を派遣していただくことを条件として共同研究に取り組みました。手を貸してもらうだけというよりも、研究員が技術を会社に持ち帰って活用できることを心がけていました。また、この研究は全てりんくうキャンパスで行いました。

―この殺ノロウイルス組成物は、食品由来の原料で、加熱が困難な物品に対しても安全・簡単に使用できることが画期的だと聞いています。それはどのような点ですか。―

厚生労働省が殺ウイルス消毒剤として使用を認めているのは次亜塩素酸のみですが、塩素ガスの発生や金属の腐食が問題となり、なかなか調理現場では使用しにくいという現状があります。今回は塩素を使用していないので、消毒剤ではなく、食品添加物として販売しています。アルコールもノロウイルス対策に有効ですが、5分ぐらい対象物を浸す必要があり、食品には使用できません。また、調理現場は水に濡れていることが通常だと思いますが、JIS規格によると、対象物とアルコールは1:9の分量が必要と定められていて、大量のアルコールが必要となります。そのため、対象物と1:1で有効に作用するというのも重要な観点です。原料の候補はたくさんありますが、そのような条件でふるいにかけていくと、今回の原料となったブドウ種子抽出物含有のエタノールが残りました。これはコストの面でも安価です。

また、殺ウイルス剤の効果を検証するために類似のウイルスを使用して実験することが一般的ですが、今回、実際にノロウイルスを使用して実験したことが画期的でした。

勢戸先生

―ブドウ種子抽出物含有のエタノールについて、もう少し詳しく教えてください。―

市販品では若干紫色を呈していますが、含まれている組成物は全て食品添加物であるというのがポイントです。食品添加物の種類は法律で決まっていて、添加可能な量も定められていて、過剰に摂取しない限りは安全性が担保されています。逆に言うと、食品に添加してよいものは法律で定められているものだけとも言えます。アメリカなどは別ですが、日本の法律では天然由来の成分のみ食品添加物と認められています。働きが同じだとわかっていても、合成物は認められていません。

―この共同研究で苦労されたことはありますか。―

数多くの食品添加物の中から、有用な物質を見つけ出すことに苦労しました。まずこれは水溶性だ、という風にカテゴリーごとに仕分けをして、地道に絞り込んでいきました。

―気が遠くなるような作業ですが、きっと見つかるという確信はあったのですか。―

種々の薬の成分も食品由来のものが多いので、きっと探していけば有用な物質がこの中にあるはずだと確信していました。

参考資料

―現在、他に取り組んでいる研究はありますか?―

ノロウイルスは培養できませんが、遺伝子組換え技術を応用して同じ形の疑似粒子を作ることができます。その粒子を使うと、インフルエンザでいうとA型B型というような、抗原性の違いを知ることができます。人にかかるノロウイルスで33種類もあり、それぞれの抗原性が異なるため、免疫が出来ず、何度もかかってしまうことがあります。

今までは抗体を取るために人と同じ哺乳類のマウスにノロウイルスの擬似粒子を免疫していましたが、哺乳類と抗原認識機構が異なるニワトリであれば、特異的でない抗体あるいはかなり特異な抗体ができるのではないかと思いました。そこで、ある企業の実験施設で産卵鶏にこの粒子を免疫してもらい、鶏卵から卵黄抗体を採取しました。そのニワトリの抗体でノロウイルスの感染を阻止できる可能性があることがわかりました。

その企業と、もう一つの企業と埼玉県医師会も加わって、現在その抗体を使ったノロウイルス予防剤を関東の介護老人保健施設に置いて予防できるかどうかを実験しています。介護施設は人の出入りがあまり多くないので、施設内に入ってくる人に集中的にこの予防剤を使ってもらえれば、ノロウイルスの侵入をブロックできるはずです。現在のところ、この方法でノロウイルスの感染を防げていることが実証されています。

ニワトリは毎日卵を産むので抗体を量産できますが、商品化に向けて、現在は生物の多様性に関するカタルへナ議定書に抵触しないように、ニワトリの飼育方法等を検討してもらっているところです。

勢戸先生3

―12/1の攝津製油さんのプレスリリース以降、反響はありましたか?―

商品の売買に関する話は攝津製油さんにお任せしているのでわかりませんが、「現場に導入したいので、効能を教えて欲しい」というような問合せは幾つかあります。

―先生がこれから研究活動を通じて実現していきたいことはありますか?―

なぜノロウイルスを研究することになったかという経緯をお話しますと、私はもともと大阪市の研究所に勤めている前に抗がん剤の研究をしていました。HIVに抗がん剤を使うとどうなるかという研究を始めた頃、原因のわからない食中毒がある、ということが問題になりました。当時、胃酸で溶かされないウイルスはないとされ、ウイルスで食中毒になるという考えはありませんでした。そこから徐々に、ノロウイルスが患者さんから見つかるようになりましたが、検査方法が確立されていませんでしたので、まず検査法を考えなくてはいけませんでした。検査を進めていくと原因不明の食中毒の大多数がノロウイルスによるものであるという、とんでもない実態がわかってきました。

その後、大阪市立大学医学部のウイルス学教室に移り、麻疹ウイルスの研究に携わりました。麻疹ウィルスは遅発性ウィルスの一種で、幼い頃ウィルスに感染した後、20歳頃に亜急性硬化性全脳炎を発症するという事例がありました。当時私は、発症する前にウイルスを発見し早期治療するための研究を行っていました。今はもう日本では麻疹は排除された(土着株が存在しない)と言われていますね。

ノロウイルスの研究にも取り組みましたが、最初はHIVの検査法を真似ていました。今は便からノロウイルスを検出するキットがあります。一般的に病院で使用しているキットはウイルスの量はわかりませんが、ノロウイルスは発症後24時間くらいで、キットで検出できないくらいまでウイルスが減少しますが、キットで陰性になった患者便に容易に感染源となりうる量のウイルスが含まれていることもあります。そんなことも実験を通じてたまたまわかりました。

ノロウイルスの研究者は少ないので、データの提供依頼などもよくありますが、そのような内容はそれを専門とする企業にお願いして、研究に集中して時間を使うようにしています。

―ノロウイルスはカキなどの二枚貝を食べて感染するとも言いますが―

養殖海域に流れ込んだノロウイルスが二枚貝に蓄積されているためと考えられています。下水処理はウイルスを除去することを目的としていないので、ノロウイルスが河川に流れ込んで、その下流の海域を汚染しているのだと思います。

―ノロウイルスの感染を防ぐためにはどうしたらよいでしょう。―

現状でも、手洗いなど一般的に知られている方法でノロウイルスの予防は出来ていると思います。まずは手洗いの徹底などの衛生管理が重要です。

研究機器

食物由来の安心・安全な成分でノロウイルスを予防できるという画期的なニュースを聞きつけて、勢戸先生を取材した広報担当者でしたが、他にも食品添加物の話や食中毒がウイルスのしわざだと判っていなかった時代の話など、勉強になるお話をたくさん聞くことができました!小さいお子さんや高齢者の方には特に怖いノロウイルス。これからも勢戸先生の研究が進み、ノロウイルスに苦しむ人が減っていけば良いですね。

【取材:玉城舞、下山陽子(広報課)】

【取材日:2015年12月18日】