大学院を終了後、カタールやオーストラリアなど、世界を舞台に働く先輩のリアルなレポートとして、2011年工学研究科修了の内藤 明夫さんから寄稿を頂戴いたしました。

海外での仕事や生活について、府大での学びやこれまでの日本での経験をベースとして海外で感じる事、考えること。
そして、いまの経験を踏まえて、後輩に伝えたいこと。

実際にそこに立った方しか書けない、読み応えのあるレポートでした、どうぞご参考ください!

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-自己紹介-
内藤明夫さん01みなさん、はじめまして。2011年工学研究科修了の内藤と申します。

在学中は情報工学、経営工学を学び事業体の経営効率性分析の研究を行っていました。大学院では国際学会での発表、短期交換留学、海外からの研究者との交流等様々な機会をいただき、自分にとって未知の世界や考えに触れる楽しさを知ることができました。そのような経験から将来グローバルな環境で働きたいと思うようになり、就職活動ではその点を1つの軸として考えました。卒業後は千代田化工建設株式会社に入社し、日本での業務を経た後、2014年1月からオーストラリアのダーウィンという都市に赴任しています。

ここでは現在、日本企業主導でLNG(液化天然ガス)プロジェクトが進行中であり、エネルギーの安定供給実現のため世界中から集まったプロジェクトメンバーと共にLNGの生産、出荷設備の建設を進めています。ここから輸出されるLNGの大半は日本で消費される予定です。プロジェクト全体で何千人という人が働いているわけですが、建設現場では安全が何よりも優先されます。合言葉はSafety  Firstです。安全意識向上の啓蒙、作業開始前のリスクアセスメントなど、日々の取り組みを通じて全員が笑顔で家族のもとへ帰ることを目指しています。

私はスケジュールエンジニアとして担当エリアのスケジュール管理と進捗把握、そして各種レポート作成に従事しています。工事を円滑に進めるために必要な情報提供、今後予想される問題を早期につかみ対策を打つ、そして顧客、下請け企業、他エリアとのコーディネーションを密に行い計画通りにプロジェクトを進めることが主な任務です。

現在私の上司はベネズエラ出身の方で、これまで各国で仕事をしてきた経験から興味深い話をたくさん聞くことができます。日々の業務では英語が使われますが、各国から集まったメンバーで構成されるオフィスではその他様々な言語が飛び交い、ふと考えると非常に面白い環境で仕事ができているなと感じます。学生時代に思い描いていたグローバルな環境で働くこと、それをいま体感できていることがうれしくもあります。

 

-ダーウィンってどんなところ?-
オーストラリアといえばやはりシドニー、ゴールドコースト、ケアンズ等が人気の旅行先となっており、ここダーウィンに来たことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。そこで簡単にダーウィンという街を紹介したいと思います。

ダーウィンはオーストラリア北部準州の州都であり、人口約12万人で大阪羽曳野市と同じくらいです。あの有名なエアーズロックも北部準州に属しています。場所はオーストラリア北端に位置しているため直線距離では日本から一番近いオーストラリアの都市ですが、直行便はないのでシンガポール、マレーシア、もしくはオーストラリア国内各都市からの乗り継ぎとなります。

ダーウィンという名前は、進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンに由来します。この地を発見した英国軍艦ビーグル号の船長がダーウィンと友達だったことから発見した入り江にダーウィンの名前を付けたことが始まりと言われています。ちなみに大阪府立大学と同じ公立大学として、ここにはチャールズ・ダーウィン大学があります。

気候は乾季と雨季に分かれており、特に12月から3月は激しい雷雨が発生します。ダーウィンは世界で最も雷が多い場所といわれており、これまでも地響きがして建物が揺れるくらいのものすごい落雷を経験しました。そのため、雷の発生を即座に検知する警報システムが確立されています。先ほど述べたように、ダーウィンはアジア各国に近いこともあり多文化な都市となっており先住民族の方もたくさん住んでいます。街中ではアジア各国の方も多く見受けられます。

ダーウィン近郊にはオーストラリア最初の世界遺産となったカカドゥ国立公園があり、広大な面積の中に豊かな自然が広がっています。北部準州には写真のようなクロコダイルがたくさん生息しており、その凶暴な性格から人が飲み込まれてしまう事件も時折発生しています。街のレストランではクロコダイルの肉を食べることができ、味は鶏肉に似ていておいしいです。ダーウィンでは豊かな自然を存分に楽しむ余暇の過ごし方が一般的で、キャンプ、ゴルフ、サイクリング、釣りなどが人気です。

内藤明夫さん02クロコダイル 内藤明夫さん03フィッシング

 

-海外での仕事、生活で思うこと 郷に入っては郷に従う?-
2年ほどこちらで生活する中で、この質問を何度か考えることがありました。これまで旅行や留学で海外を訪れた際は「郷に入っては郷に従え」という言葉の通り、できる限り現地の習慣、考えに沿うことを心がけてきました。そうする事でその土地、人、文化を最大限理解できると思ったからで、実際にそれは正しかったと言えます。

ただし、今回始めて仕事で海外に長期滞在し、この考えを一部変える必要があるのではと感じています。自分と異なる背景、文化、言語を持つ人達と仕事を進めていくために必要なこと、それは「相互理解」だと思っています。お互いのことをどれだけ理解できるかで、相手の発言や真意、物事の考え方がわかり、仕事を進めるスピードが変わってくるからです。この相互理解を深めるためには郷に従う、つまり相手に合わせるだけでなく自分の意見や過去の経験を伝え、相手に自分を理解してもらう必要が出てきます。そういった意味で「郷に入っても郷に従わず」、つまり自己主張という部分も求められるのではと感じています。これが今回の海外赴任で気づかされた大きなことです。

日本での生活以上に相互理解の大切さを感じている最中ですが、オーストラリアでの実体験をもとに、「郷に従うべき」部分と「相互理解のための自己主張」についてもう少し詳しく書きたいと思います。

 

-Mate文化-
Hey mate, Thanks mate, Cheers mate. これらはオーストラリアでよく聞くフレーズでmateという言葉が頻繁に出てきます。仲間という意味の単語ですが、この言葉に代表されるようにオーストラリアは仲間意識を非常に大切に考える社会となっています。これは歴史的な背景が影響しているといわれており、初期の開拓時代イギリスからの移民が厳しい自然環境の中を生き抜くために仲間と助け合いながら生活を営んでいたことから、仲間を大切に思う意識が根底にあるようです。同様にオーストラリア人の気質を表すMateshipという言葉には、困っている人がいれば助けるという強い仲間意識が表れています。

日本では初対面の人に対しまずはある一定の距離を保ち相手を知ろうとするのが一般的だと思いますが、オーストラリアでは最初から距離感が近い中で仲間として付き合いが始まることが多いです。これはオーストラリアに外からやってきた人たちにとって、社会に溶け込みやすい環境といえ心地よく捉えることができるのではと思っています。実際、職場で初めて話をするオーストラリア人ともMateという関係性のもとにスムーズにコミュニケーションを図ることができ、非常に助かっています。このMate文化はまさに「郷に従う」べき部分であると思います。

このほかにも、こちらでは常に周りに目をむけ声をかけることが当たり前となっており、職場に限らず街中のスーパーやレストランではお客と店員という垣根を越えMate同士の会話が自然と交わされます。また、これはオーストラリアに限ったことではありませんが、パーティーなどのSocial Eventを通して自分のコミュニティーを広げていく方が多いように見受けられます。仕事仲間とのパーティーに家族、恋人を連れてくるのは当たり前ですし、友達の友達が一緒に飲み会にやってくることもあります。そういった場面で普段付き合いのある人の家族や友人と話をすることで新たな1面や普段見えない部分を知ることもあり、より多面的に相手を知ることができる有意義な機会となっています。そう考えると、Mate文化自体が相互理解のために重要な役割を果たしていると言えると思います。

内藤明夫さん04カンガルーステーキ

カンガルーステーキ

 

-言葉で伝える自己主張-
一方、相手に自分を理解してもらうための自己主張について考えると、2種類の方法があるのではないかと思うようになりました。その1つが言葉で直接伝えるものです。これは協調性を重んじる日本人にとって苦手と感じる部分かもしれませんが、海外では自分の意見を積極的に発言する人が多く、会議やグループディスカッションでは活発な議論が交わされます。

現在担当しているエリアの工事を行う下請け会社の担当とは日々コミュニケーションを密にとり業務を一緒に進めていますが、これまで担当者が3回も代わっています。ここで起きた問題は、前任者からの引継ぎがしっかりと行われなかったこと、またそれについて問題意識が低くあまり気にされていないことでした。海外では定年まで1つの会社で働くことは稀でキャリアアップとしての転職は多いため事情は理解できますが、それ故に人の入れ替りが多く、引継ぎ作業に対して日本ほど重きが置かれていないように感じます。

実際1回目と2回目の交代時には新任者にそれまでの情報がうまく引き継がれず、また前任者も既に会社を去っているため通常業務に遅れが生じてしまうことがありました。さらに、それまでの担当と合意した事項について新任者に事細かに私から説明する必要があり、事柄によっては再度ゼロから話して決めたいといわれたこともあり、余分な時間をかけざるを得ない状況になってしまいました。

そのため3度目の交代があると聞いたときには、彼らが抱く引継ぎに対する考えや意識に従うのではなく、引継書をきちんと作ったうえで十分な引継ぎ期間を設けることを強く主張しました。また、これまで合意した事柄とその過程がわかる情報をまとめ、新担当者に渡すよう要求しました。結果として、それまで2回の交代時よりも適切な引継ぎとなり、新任者ともスムーズに業務を開始することができました。3回目はさすがに大丈夫だろうと勝手な期待をするのではなく、きちんとこちらの懸念と要望を伝えることで相手の担当者に私の意図、今回で言えば担当者交代に伴う業務の滞りをなくすことを理解してもらえ、郷に入った際の自己主張の必要性も再認識できました

 

-行動で伝える自己主張-
物事に取り組む姿勢、または普段の何気ない行動にも実は相手に対する自己主張が含まれることがあると感じたことがあります。どちらかというと日本人的な自己主張であるかもしれませんが、直接というよりは間接的に自分の意図を伝えようとするものかもしれません。

これまた下請け会社担当とのやり取りで気づかされたことですが、私が時間に対して重きを置いていることを相手が理解してくれた例です。毎週決まった時間に相手方のオフィスでミーティングを行っているのですが、私はたいがい約束の時間よりも早めに着くようにしています。それは多忙な担当者を確実につかまえることが大切で、そのタイミングを逃すとその日全く話ができないことも多々あるからです。ある時、1つ前のミーティングが長引き私が約束の時間に10分ほど遅れてしまったことがありました。急いで次のミーティングに向かうと相手担当者から冗談交じりにToo late!と言われたことがあり、これは私にとって驚きでした。10分でも遅いと相手が感じているということは裏を返せば私が時間通りに来ることが当たり前だと思われていることであり、時間を守るという意識が相手の担当者にも自ずと伝わっていたことになるからです。

実際、定例ミーティングを始めた当初よりも開始時間を気にするようになってくれましたし、毎週のレポートにおいても何らかの理由で提出が遅れるときは事前に連絡をくれるようになりました。この時間に対する考えを相手と共有できたことは私にとってはすごくうれしい驚きであり、自分の行動から相手が私を理解してくれたことは、自己主張とは言葉だけではないということを気づかせてくれるきっかけとなりました。同様に私も相手の行動に表れるメッセージを感じ取る努力や意識を持たなければならないと思いました。こういう形での相互理解はお互いが相手を理解しようとする気持ちが根底にある、自発的で理想的なものであると考えています。

内藤明夫さん05エアーズロックにて

エアーズロック周辺でラクダに出会う

 

-学生のみなさまへ-
これまで相互理解について色々と述べてきましたが、相手を知る、そして自分を知ってもらうためには必ず人と人とのやり取りで互いの理解を深めていくことになりコミュニケーション力が求められます。このときたくさんの話題や経験を持った人ほどそれを武器にしてコミュニケーションをうまく進める状況を作りやすいはずです。私自身、コミュニケーション力の必要性を日々感じていますが、今になって考えると私にとって大阪府立大学での6年間は自分のネタ(引き出し)を大いに増やすことができた大切な期間であったと感じています。

いろいろな地域から異なる環境で育ってきた学生が集まる大学はそれだけでもネタの宝庫だと思いますし、部活動やサークル活動、アルバイトなど様々なコミュニティーに同時に属して生活ができることは学生の特権と言えます。それぞれの場面で得ることができる経験を通じて自分のネタをたくさん増やすことは、必ず将来の糧になるはずです。

垣根のない大学を掲げる大阪府立大学には地域とのつながり、産学官連携、国際交流など多様な経験を得るチャンスが存在していると思いますので、ぜひ興味のあるなし関わらず積極的に行動を起こし、自分らしいネタを集めてみてはいかがでしょうか。今ある各コミュニティーとのつながりを発展させそこから新たなつながりを作ることができれば、きっと無限にネタは広がっていくと思います。

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内藤さんは以前、辻学長に宛てた手紙で、「どんなに大きな配管でも、最後にそれをつなげるのは人の手であり、どんなに技術が発展しても、人を無視して物事は進まないのだと感じました。」という所感を寄せられたそうです。

技術を知り、世界を知り、その上で大切なことは「人を見つめること」だと語る内藤さん。これから世界にはばたくたくさんの府大生たちにこのレポートが届けば良いと、広報担当者は強く願います。

内藤さん、ご多忙のなか、本当にありがとうございました!

【取材:皆藤 昌利(広報課)】
【寄稿日:2016年2月22日】