2016年2月、大阪で世界初の精神障がい者による世界初の国際フットサル大会「第1回ソーシャルフットボール国際大会」が行われました。これまで精神障がい者スポーツの国際大会は一度も行われていませんでしたが、大阪の精神科医らの働きかけで実現しました。この大会に実行委員会 副実行委員長として携わられたのが府大社会福祉学部卒OBの平山 惣一さんです。
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平山さんは、医療法人 杏和会 阪南病院で精神保健福祉士(PSW)として働きながら、2009年1月から南大阪ソーシャルフットボールチーム“Half Time”を立ち上げられました。年に6.7回堺市・大阪市・南河内・泉州で精神障がいの方向けの講習会を、年に1回ソーシャルフットボール大会を開催されています。

今回、府大時代の話や、精神保健福祉士(PSW)という職業、そしてソーシャルフットボールについてお話をお伺いしました。

<OBプロフィール>
◆平山 惣一(ひらやま そういち)
単独写真2002年 大阪府立大学 社会福祉学部(現 地域保健学域教育福祉学類)入学
2006年 大阪府立大学 社会福祉学部(現地域保健学域教育福祉学類)卒業
同年、精神保健福祉士・社会福祉士取得
2007年 医療法人杏和会 阪南病院 入職
2009年 南大阪ソーシャルフットボールチーム「Half Time」設立
2016年 第1回ソーシャルフットボール国際大会 実行委員会 副実行委員長
2016年 大阪ソーシャルフットボール協会 準備会立ち上げ

Theme1:大阪府立大学について
私が卒業した社会福祉学部は、国公立で最初に設立された歴史ある学部です。在学中は一学年の定員が80名前後。「少人数で丁寧に教えていく」という方針がありました。所属していたゼミも6名と少数で、高齢福祉分野を中心に、年金や終末ケアなどをテーマにしていました。現在も教鞭を振るっていらっしゃる中山先生・嵯峨先生には、路上生活者の調査研究、在日コリアンの生活実態調査など貴重な研究に携わらせて頂きました。そこで、調査論・インタビュー方法・分析方法などはもちろん、路上生活者の現状など歴史的かつ学術的な事象についても学びました。

12552636_561381804024199_606278203750174716_nまた、学外の活動にも積極的に参加していました。高齢者関連・知的障がい関連・精神障がい関連・身体障がい関連など多数のボランティアに参加し、週の半分以上はこのような活動に費やしていました。当時は、先生方だけでなく、学部の先輩・同期からもボランティアに関する情報を紹介してもらっていました。このネットワークは、地元に根付いた歴史ある大阪府立大学ならではだと思います。大学時代に学校内外で得た経験は、PSWとして働く現在でも自分の根幹となっていて、専門職として行き詰ったり悩んだりした時には、そこに立ち戻るようにしています。

ネットワークという点では、卒業後も同期をはじめ先輩・後輩と仕事で関わる機会が多いです。たくさんの府大OBが大阪府内の役所・病院・施設・NPOなどで活躍しています。今回ソーシャルフットボール国際大会開催にあたって、30名以上の卒業生にご協力頂きました。また、機会あるごとに中山先生・吉原先生・嵯峨先生に相談に乗って頂いたり、日々の活動にもご協力頂いています。

Theme2:精神保健福祉士(PSW)について
現在働いている阪南病院には、在学中に阪南病院系列の地域生活支援センターに実習で訪れた事や、その後のボランティア活動がきっかけで入職しました。阪南病院の医療福祉相談室で7年間勤務した後、地域医療連携室に異動し現在に至ります。病院での役割を分かりやすく表現すると“精神科病院の相談員”として働いています。大阪府立大学と同じ堺市中区にあり、690床の精神科救急治療・専門治療に特化している病院です。具体的な仕事内容は下記のとおりです。

1) 医療福祉相談室での仕事
①患者さん、そのご家族からの生活相談や受診相談の対応
患者さんやそのご家族は、生活面、入院や外来受診、障害年金や自立支援医療の制度などについて様々な悩みを抱えられています。このような相談は年間1万件以上寄せられます。

②他機関との連携
精神疾患・障がいの支援機関は医療機関だけではありません。役所、保健センター、障害者基幹相談支援センター、地域包括支援センター、就労支援事業所などの日中活動の場訪問看護・ヘルパーケアマネージャー、弁護士など、多種多様な機関との連携を図っています。このような機関との連携しながら、カンファレンスの実施やケースマネジメントを行い、支援の中核を担う事もあります。

③入院されている方への支援
入院生活から在宅生活への架け橋としての役割もあります。たとえば、心理教室・家族教室などの治療プログラムなどを担当し、専門機関と連携しながら、入院されている方やご家族と面談しています。相談室全体の面談件数は1日あたり約120~130件にのぼります。精神疾患・障がいを持たれている方は対人関係が苦手な場合もあるので、専門職として私たちが生活支援する事で、障がいとうまく付き合いながら、より良く生活できる事を目指しています。

その他にも、これまで院内で家族教室を立ち上げ、厚労省のモデル事業であった急性期ケアマネジメントの院内モデル作成、日本精神科医学会学術大会での研究発表などに携わってきました。仕事を継続しながら大学院に通っているスタッフもいます。「学びたい事があれば学ぶ機会を、ソーシャルアクションの必要性があればソーシャルアクションを認めて頂く」土壌がある病院です。

2) 地域医療連携室
地域のクリニックや病院との連携を担っています。医療機関からの受診・入院相談の対応、緊急で他病院へ受診する際の調整が日常的な役割です。病院間のネットワーク構築も担い、外部のネットワーク会議等にも参加しています。

Theme3:ソーシャルフットボールについて
聞き慣れない言葉かと思いますが、広義の意味はイタリアのcalciosociale(カルチョソシャーレ)に由来しており「障がいのあるなしに関わらず参加できるフットボール」を意味します。日本国内では「精神障がい者フットボール」を示す事が一般的です。

この取り組みは、2006年に大阪の高槻市にある新阿武山病院から始まりました。私自身がソーシャルフットボールに携わるようになったのは、2007年にガンバ大阪が「精神障がい者フットボール」の全国大会を開催した新聞記事を見たことがきっかけでした。病気・障がいとして向き合うのではなく、支援する・支援される立場ではない関係で、差異を排除するのではなくそのまま受け入れる“インクルーシブな観点”を持った活動をしたいと思いました。フットボールを通じて、偏見のない共生社会を実現できればと考えています。

そして、2009年1月に大阪府立大学同期の吉田匡孝・吉田沙織と共に地域で仲間を募り、南大阪ソーシャルフットボールチーム“Half Time”を立ち上げました。「誰でも、怪我なく、楽しく」をモットーに、毎回20人前後でフットサルを行っています。精神障害の有無に関わらず、誰でも一緒に楽しむ事を大切にしているため、子ども、女性などのサッカー未経験者や精神保健福祉に関係がない方にも多数参加頂いています。ボランティアとしてではなく、“一緒にフットサルをする”という感覚です。毎月の練習に加え、年に6.7回堺市・大阪市・南河内・泉州で精神障がいの方向けの講習会を、年に1回ソーシャルフットボール大会を自主開催しています。

ソーシャルフットボールチーム同士の交流が進む中、日本ソーシャルフットボール協会(JSFA)が設立され、2013年に東京で国際シンポジウム開催されました。その中で、2016年に大阪で世界初の精神障がい者フットボールの国際大会が行われる事が決まり、実行委員会の副実行委員長を引き受けました。身体障がい者スポーツはパラリンピック、知的障がい者スポーツはスペシャルオリンピックスが国際大会としてありますが、精神障がい者スポーツの国際大会は開催されていませんでした。大会はおろか、2011年に大阪のチームがイタリア遠征に行くまで国際交流自体が行われていませんでした。そのため、2016年の国際大会のインパクトは大きく、特に精神科治療で後進国とみられている日本で実施された事は、今後重要な意味を持ってくるかもしれません。

今回の大会は、イタリア・ペルー・日本・大阪選抜と3か国4チーム、合計1,200名以上が参加しました。国内外のマスメディア、多くの関連機関の来賓など戸惑う事ばかりでしたが、実行委員会の仲間をはじめ、所属機関、大学時代の友人、専門職仲間など多くの方のご協力頂きながら、なんとか開催に至ることができました。このような歴史の節目に関わることができ、国際化の一端を担えた事は非常に貴重な経験になりました。

□ 在学生への一言
とりあえず「なんでも経験してみる」という事が大学生活では大切だと思います。こんな事が?ということが後々の人生に生きてくることがあります。年齢を重ねると齢に縛られ、自分のために費やす時間は圧倒的に作りにくくなります。学生生活が最後の自由な時間です。やりたい事をやりつつ、多少しんどくても経験できるチャンスはつかんで頂きたいです。積極性が“気が付く力”につながり、多様な経験が可能性を育んでくれると思います。

今後もメンタルヘルスとフットボールをテーマとし、ソーシャルフットボールの活動を続けていきます。H28年度からは大阪ソーシャルフットボール協会を立ち上げ、大阪を盛り上げていきますので、ご興味がある方がいらっしゃいましたら、是非お気軽にお問い合わせください。

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【報告:平山 惣一さん(府大OB)】
【取材:玉城 舞(広報課)】
【取材日:2016年4月20日】