先生の研究室を訪問し、本棚を紹介する企画「センセイの本棚」。今回は、人間社会学研究科の田間泰子先生の研究室にうかがいました。(手にしたグラスは取材の直前に学生さんたちからいただいた贈り物)

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学生時代から「妊娠」や「命」をテーマに研究を続けられてきました。「社会と私たち皆にとって、妊娠や命の問題は普遍的なテーマ。時代は変わっても、根本的な解決がなされていない社会問題はたくさんあります」と話ながら、様々な本をご紹介いただきました。

研究を始められた当初、「家族社会学」において「妊娠」に関する研究が抜け落ちていることに気づかれたそうです。「妊娠」は非常にセンシティブでプライベートなテーマ。だからこそ、家族形成に大きなインパクトを与える出来事にもかかわらず、公の研究対象としては取り上げられていなかったのです。

田間先生は、「妊娠」を起点に「どの時点から人は人として認められるのか」「家族とは何か?」ということを歴史、宗教、倫理を含めて広く社会学視点から研究を進め、そこから派生した社会問題の解決に取り組んでこられました。

また、授業においては、時代ごとの社会問題との相関性や「妊娠」や「出産」をメディアがどのように取り上げるかなど、若者の関心の高いトピックや分かりやすい事例を取り入れることを意識されているそうです。例えば、鉄腕アトムやディズニーの絵本。これらは以前、担当されていたジェンダー論の授業で、「男らしさ女らしさ」の表現の差や、そのいびつさ、移り変わりなどの説明に用いられました。

女性の就労環境についての、日本の戦前の時代や諸外国の調査資料集もたくさんありました。「何が女性の家庭と仕事の両立を難しくさせてきたか、当時の女性が何を感じていたかが分かります」と田間先生。現代日本の調査結果や社会制度を比較することで、これからの社会保障や少子化問題を考えるヒントが隠されているように感じました。

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研究について、田間先生は「自分の身の回りで『これが大事だ』とか『これを解決しないと人生が進まない』と感じる出来事に出会ったら、それを研究対象にすればよいのだと思います」とおっしゃられました。

個人の経験として対峙していたことを、時代背景や政策など社会学的視点から捉えなおすことで、新たにたくさんのことが見えてきたそうです。そして、ひいてはそれが社会問題の解決につながるのではないかというお話が印象的でした。

最後に、田間先生は「身の回りで起こるさまざまな問題に関心を持ってほしい。これからの10年20年を見据えて、自分たちがこれからの社会を作るという気持ちで『考える力』をつけてもらいたい」と学生の皆さんに対してメッセージを送られていました。

 

〈センセイのお薦めの1冊〉
エミール・デュルケム著『社会学的方法の規準』宮島喬訳
出版社:岩波書店(岩波文庫)1978年(原著1895年)

デュルケムは社会学の創始者の1人です。この本は彼が「社会学とはどのような学問か」を宣言したものです。社会は誰もが経験しているので、その研究に自らの「常識」が潜みやすいのですが、社会学者は「常識」とたもとを分かち、勇気をもって「通念に逆らい、これを戸惑わせる」ような社会学的発見をせねばなりません。人間は社会なくしては生きられない存在です。その不思議を解き明かすことの醍醐味を本書は実例をもって示し、100年以上経った現代でも社会学の指針となっています。

 

【取材:西野 寛子、大槻 由佳(広報課)】※所属は取材当時
【取材日:2016年5月17日】

 


 

『センセイの本棚』とは
誰もが一度は覗き見してみたい、「大学の先生」の本棚。先生の研究室にお邪魔するたびに、それぞれの先生の魅力が凝縮されたような素敵な本棚に出会うことからこの企画はスタートしました。先生の研究活動のルーツとなる本から、一見専門から遠いようでも大切な学びを得ることができる本まで、先生の本棚には様々なドラマが隠れています。みなさんも少し覗き見してみませんか?