I-siteなんば「まちライブラリー@大阪府立大学」で開催されているアカデミックカフェ。

2014年5月に開催された第2回アカデミックカフェでは、大学院工学研究科の黄瀬浩一教授とKai Kunze(カイ・クンツェ)特任助教をお招きし、コンピュータを活用した未来の読書をテーマに、黄瀬教授らが現在研究されていることをデモンストレーションを交えてお話いただきました。

<プロフィール>黄瀬先生プロフィール画像
黄瀬 浩一(きせ こういち)
大阪府立大学 大学院工学研究科 教授 博士(工学)

1986年 阪大・工・通信卒、1988年同大大学院博士前期課程了
同年 同大大学院博士後期課程入学
1991年 大阪府立大学・工・電気助手
2000年~2001年 ドイツ人工知能研究センター客員教授
2013年度より日本学術振興会学術システム研究センター研究員
文書画像解析,情報検索,画像認識などの研究に従事

2006年度 電子情報通信学会論文賞
2007年、2013年 IAPR/ICDAR Best Paper Award
2010年 IAPR Nakano Award、ICFHR Best Paper Award
2011年 ACPR Best Paper Award各受賞
現在、IAPR TC11(Reading Systems) Chair
IAPR Conferences & Meetings Committee 委員
International Journal of Document Analysis and Recognition (IJDAR) Editor-in-Chief.
電子情報通信学会、情報処理学会、人工知能学会、電気学会、IEEE、ACMなどの会員

<黄瀬研究室(知能メディア処理研究室)Webサイト>
http://imlab.jp/

会場全景

はじめに
今日は「コンピュータを活用した未来の読書を考えよう」ということで、我々の研究内容と我々が持参した新しいデバイスについてもいくつか紹介します。

※当日は以下のデバイスについて、解説とデモンストレーションが行われました。

①google社のグーグルグラス(メガネ型コンピュータ)
②JINSのMEME(目の動きを検知するセンサー付メガネ)
③SMI社のアイトラッカー(視線を捉える機械)
④黄瀬教授らが研究中のデバイス(ipadやiphone、グーグルグラスを応用した機器)

ウェアラブル装着

ライフログとは
ライフログとは、生活や体験をコンピュータでデジタルデータとして記録し、その後、いろんなものに生かそうという試みです。例えばどれくらい運動したか、あるいはどれくらい寝たかなどを記録し、スマートフォンで結果を見たり、いろんな情報が得られるので、どんどん普及しています。

ライフログの別の考え方として、皆さんが毎日見ている映像を全部記録することを考えた人がいました。映像記録にするには、100年生きたとして、例えばワンセグテレビの画質だと、50TBほどの容量が必要です。その辺のコンピュータ店に行くと、4TBという量は1.6万円で売られています。つまり、50TBは20万円です。値段は下がるので、そのうち、数万円、あるいは数千円で皆さんの一生が記録できるようになるでしょう。

 

リーディング・ライフログ
その一環で、我々は「リーディング・ライフログ」に取り組んでいます。それは読むことに特化したライフログとお考えください。
「あなたは何でできているか」と問われたら、物理的には「私が食べてきたものだ」と言えますが、知識という点で言えば、「読んできたもので形づくられている」と言えるでしょう。

東大のある教授が冗談で、「もし、過去に読んできたものが正確に記録できたら、東大は入試をやめてその記録を解析して入学できるかを決める」と仰っていました。それくらい、読んだものというのは重要なのです。

アカデミックカフェ講演中_黄瀬先生

読んで知った情報は「知識の源」です。我々は普段、自分のためだと思って多大な読む努力をしているのに、残念ながらその内容は記録も再利用もされていません。それはもったいないのではないかと考え、横にコンピュータを置いて読んだ内容を記録し、そして、いつどこで、どう読んだかを知ることが、我々の中に何が知識として詰まっているかを知る上で極めて重要だと思い、私は「読むこと」を研究し始めました。これがリーディング・ライフログです。

我々の研究アプローチ――相互解析
具体的に我々が行っている研究アプローチの話として、「相互解析」という考え方があります。1つめは「文書をみて人の行動を解析すること」。つまり、読んだものによって、その人の行動を解析しようとしています。もう1つは「文書がどのように読まれているのか」を解析するアプローチ。その本が誰にどう読まれているかを解析することで、この本が誰に好かれていて、どこがわかりにくいとか、付加的な情報を本に集積することができるんじゃないかと考えています。

人の行動解析という点で1番最初に試みたものの1つは「万語計」。これは知の万歩計みたいなもので、1日で何語読んだかをカウントするというものです。もう1つは生活の中で、いつからいつまで、どれくらい読んだかがわかる「読みの検出」のようなもの。それから、教科書や雑誌など「何を読んでいたか」も解析しています。

また、「難単語の推定」というアプローチも行っております。英文を読んでいるとき、難しい単語にさし当たると目の動きが止まったりします。こういった動きを読み取ると、ここが難しい単語ということがある程度推定できます。そこで、たとえばTOEICにチャレンジするときのモチベーションを上げるために、この技術を使って何かできないかを考えています。最初に行ったことは、目の動きからTOEICの点数を推定することでした。こういう目の動きをする人は大体これくらいの点数だと推定できれば、理解レベルと目の動きの相関性ができるので、その人にとっての「難しいところ」がどこかを他のユーザーに示せます。

グーグルグラスの映像

まとめ~「目は口ほどにものを言う」
結論として、人間の目はものすごく良いセンサーだということです。目の動きはいろんなことを教えてくれます。いろんな人の情報が集積できたらそれを1つに集め、自動的に記録して参照できるサービスなどもできて面白いのではないかと考えています。そのためには身につけて目の動きを検出するようなデバイスが必要で、MEMEなどがあればいろんな情報がもらえ、与えることができます。それを後で見返したり、本なら誰が読んだか、どこでどういう風に感動したのか、というような話をみんなでシェアする時代がやってくるんじゃないかと思っています。

 

おすすめの3冊 今回のテーマ:「未来の○○をイメージさせる本」

(黄瀬先生)
『独創はひらめかない ――「素人発想、玄人実行の法則」』(日本経済新聞出版社)著者/金出武雄
「単純な発想を緻密に実現するのが真のイノベーション」「アイデアは人に盗まれない」「英語はうまくなりすぎるな」。ロボット研究の世界的権威となった著者が、その発想と問題解決、説得のスキルの全てを語る。
●黄瀬先生
カーネギーメロン大学の金出先生がお書きになった本です。「研究はこうすべき」「未来の研究はこうあるべき」ということを無理矢理今日のテーマにかこつけて持って来ました。標語は「素人発想・玄人実行」というもので、発想は素人のようにしてそれを実際に実現するのは玄人としてやりなさい、というメッセージがいっぱい入っています。結構面白くて、全然技術に関係ない方でも楽しめると思います。

『アフォーダンス入門 ――知性はどこに生まれるか』(講談社学術文庫)著者/佐々木正人
アフォーダンスとは環境が動物に提供するもの。身の周りに潜む「意味」であり、行為の「資源」となるもの。地面は立つことをアフォードし、水は泳ぐことをアフォードする。世界に内属する人間は外界からどんな意味を探り出すのか。そして知性とは何なのか。20世紀後半に生態心理学者ギブソンが提唱し衝撃を与えた革命的理論を易しく紹介する。
●黄瀬先生
90年代とか2000年代にデザインの言語としても注目された「アフォーダンス」の研究を行っている第一人者、東大の佐々木正人先生が書かれました。モノを認識することがどういうことなのかを、アフォーダンスと呼ばれる新しい立場から説明したものです。

『知るということ 認識学序説』(ちくま学芸文庫)著者/渡辺慧
時の流れを知るとはどういうこと? 「エントロピー」「因果律」「パターン認識」などを手掛かりに、知覚の謎に迫る科学哲学入門。
●黄瀬先生
「認識学序説」という本なんですけれど、いくつか面白いことが書いています。その中でも1つ面白いのが、「みにくいアヒルの子の定理」です。数学的にはみにくいアヒルの子と普通の子を見分けることができないことを証明するものです。そんなことできるんじゃないかと皆さん思われるかも知れませんが、それができる理由は「皆さんは経験を持っているからだ」というようなことが書かれている大変面白い本です。

アカデミックカフェ講演中_カイ先生

(カイ先生)
『ダイヤモンドエイジ』(早川書房)著者/ニール・スティーヴンスン
近未来、人工ダイヤモンドがふんだんに造られ、人体にナノマシンを埋め込むことが当たり前となった世界で、疑似知能教育マシンをめぐって展開される冒険SF。ヒューゴー賞、ローカス賞受賞作。
●カイ先生
皆さんがナノテクを使う時代の話です。この中に出てくる本が皆さんを見ていて、「この人だったらこういう風に教えた方がいい」とか、中身を変えたりとか、未来に存在するような本の話です。あるとき貧困層の女の子が別の人たちのその教えてくれる本に出会って、どんどん生活を改善していき、ハイクラスになっていくというような話が書いてあります。女の子がどんどん成長していく様をテクノロジーとの関連性なども含まれていて、それの内容が我々がやっていることに近いのではないかと私は考えています。

 

【取材日:2014年5月15日】※所属等は取材当時