5月15日、羽曳野キャンパスで「がん看護学IB演習」を取材しました。
この講義は大学院博士前期課程1年生のがん看護専門看護師(以下、CNS)をめざす学生を対象とし、これまで学んだ、がん看護学の知識や技術を用いて実践的なケアの場面を想定したシミュレーション演習を行います。大学院でシミュレーション演習に取り組んでいるケースは珍しく、本学の専門看護師教育としても新しい試みとなります。
この日は参加学生2名に対して4名の講師(うち1名はCNS)が参加し「痛みのあるがん患者への対応」をテーマに、対話を通じて患者や家族の援助に必要な知識、技術を獲得することを目的に実施されました。


一言でがんの「痛み」といっても、その原因はさまざまです。看護師は患者との対話(痛み、苦痛、悩みなど)から読み取れる「主観的情報」と、カルテなどから把握できる「客観的情報」の両方を用いて、痛みの増強因子・緩和因子を探る必要があります。
講義ではまず初めに、前提条件の確認を行います。患者の特性は年齢、家族構成、職業まで細かく設定されており、カルテには現在の治療内容・検査データ・処方されている薬などたくさんの情報がまとめられています。それらを制限時間内で読み込み、どのような質問をすれば痛みの要因をつき止めることができるかを考えます。

患者を想定した模型 残された昼食などの情報も活用し、質問を想定する

患者を想定した模型
残された昼食などの情報も活用し、質問を想定する

患者の声役の講師

患者の声役の講師

そして、病室に見立てた部屋に移動し、学生は患者の模型に話しかけ、患者の声役の講師は仕切りの裏から答えます。

〈会話例〉
看護師 「○○さん、お昼は食べられましたか?」
患者   「眠くて眠くて食べる気分にならないよ」
看護師 「痛みはましになりましたか?」
患者   「寝ている間は気にならないけど、起きたらやっぱり痛むね」
看護師 「どのあたりが痛みますか?」
患者   「腰のあたりが痛むね。仕事を病院に持ってきたんだけど、眠気と痛みで全然手がつけられないよ」

患者に話しかける学生

患者に話しかける学生

学生のシミュレーションの内容を確認する学生と講師陣

学生のシミュレーションの内容を確認する学生と講師陣

その後「何を観察していたか」「何を読み取ったか(推察したか)」を講師とともに振り返ります。
患者をとりまく環境は体の不調だけはありません。病気に対する恐怖、将来に対する不安、なぜ自分だけ病気を患わなければならないのかと憤り、それらたくさんの複雑な感情を抱えながら、闘病されています。それらの心のケアを行いながら、いかに情報を引き出すか、情報を引き出すための問いかけを投げかけることができるかが問われます。

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振り返りの中で、講師陣は「なぜそう思ったの?」「なぜその問いかけをしたの?」「その根拠は何?」と問いかけ、学生たちに考えさせます。より深く、より具体的に患者との対話をつき詰めることで、「もっと○○な質問をしたらいいのではないか」「あの対話には××な意味があったのではないか」という学生たちの気づきにつながるのです。今回の講義ではシミュレーション10分→振り返り20分の1セットを3回繰り返し、対話の質を高めました。

「看護師は判断しなければならない場面がたくさんある。そのためには情報を引き出さなくてはいけないし、状況を把握しなければならない。私たちの目的は患者さんの痛みをやわらげること。ただの情報収集は観察でしかなく、意味がない。何をするために、何を聞いて、どのようにジャッジするのかをイメージしなければならない」という講師の言葉が印象的でした。

カルテや患者の特性を読み込む学生

カルテや患者の特性を読み込む学生

患者とのやりとりを医師役の講師に報告する場面

患者とのやりとりを医師役の講師に報告する場面

学内トレーニングの経験を積んだ学生たちは、いよいよ臨床にでて実際の患者を対象にした看護を実践します。そこでのケアを振り返って、次は臨床実習へと進みます。講義で身につけた知識や技術を、より現場で生かせるよう励む学生たちの姿を見ることができた取材となりました。

【取材:西野 寛子(広報課)】
【取材日:2016年5月15日】※所属・学年は取材当時