I-siteなんば「まちライブラリー@大阪府立大学」で開催されているアカデミックカフェ。

アカデミックカフェ(池田先生)全景

2014年8月に開催された第5回アカデミックカフェでは、日本クルーズ&フェリー学会の発起人でもある大学院工学研究科 海洋システム工学分野の池田 良穂 教授(※取材当時)をお招きし、船の安全性の技術史、クルーズの楽しみなどをテーマにお話いただきました

<プロフィール>ikeda001
池田 良穂(いけだ よしほ)
大阪府立大学 大学院工学研究科 教授 工学博士

1978(昭53)年 大阪府立大学 大学院工学研究科 博士課程 船舶工学専攻 単位修得退学
1978(昭53)年 大阪府立大学工学部助手
1983(昭58)年 ドイツ連邦共和国アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨学研究員
1985(昭60)年 大阪府立大学工学部講師
1989(平元)年 同 工学部助教授
1995(平7)年 同 工学部教授
2011(平23)年 同 工学研究科長・工学部長
※肩書きは取材当時のもので、2015年に大阪府立大学をご退職、名誉教授の称号を授与。2016年7月現在は大阪府立大学21世紀科学研究機構 特認教授としてご活躍されています。

 

船の安全性の担保と課題
タイタニック号の大事故は有名ですが、最近も韓国でセォールが沈没し、死者が出ました。悲惨な海難がまだあるんですね。特に沈没、転覆、火災は逃げ場がなく非常に怖いです。
この危険性をどう担保するかを、国連のIMO(国際海事機関)という専門機関で国際規則として制定します。例えば、日米でルールが違うと、両者を結ぶ船はどっちのルールに従えば良いかわからないので、基本的にIMOの国際規則を守ります。船の安全性についてはSOLAS条約と呼ばれる規則があり、これは海上における人命の安全性に関する条約で、全ての船の安全性を担保しています。

SOLAS条約の起源は、タイタニック沈没にあると言われます。
タイタニックは、船体が破れても沈まないように水密の壁で仕切っていたのですが、その壁の一部が上方から水が溢れる構造になっていて、氷山で船底を切り裂かれたとき、その5区画が破られて、次々と浸水が進んで沈没しました。現在の基準を満たした船でもこのように5区画も破られると確実に沈みます。
ただ、当時は、こんな大事故があっても人命が失われないよう、この世界共通のルールが作られ、これを損傷時復原性規則といいます。

池田先生講演中の様子1

一方で損傷していない状態の復原性規則もあります。復原性というのは転覆しないための性能ということで、波が無い時の復原性の理論はほぼ確立していたのですが、波の中での事故が相次ぎました。それで、日本の学者を総動員して、世界に類をみない非常に合理的な規則が作られ、後に国際規則になりました。

この国際規則も常に見直しがされています。新しい船が開発されると、また別の危険な状況が起こる可能性がでてくるためです。最近では、追い波を受けたときに、船の形によって復原力が低下する問題、パラメトリック横揺れというブランコのように次第に揺れが大きくなる問題、それからブローチングという波の上で舵が効かなく問題もわかってきました。これらを国際機関でルール化し、船をより安全にできないかと常に取り組んでいます。

池田先生講演中の様子2 参加者との懇談の様子

旅客定員の多い巨大客船については、今はライフボートで逃げるより、もし座礁して水が入っても、火事が起こっても、お客さんを全員乗せて、食事もできて、トイレも使えて、その状態で一番近い港に帰れる能力をつけなければならないという規則が最近できました。

最近では、4000人のお客さんを乗せるクルーズ客船があり、マイアミ港から週末の夕方に7、8隻がカリブ海へ出ています。キャビンは2人部屋で、シャワー、トイレ付きです。食事は1日8回食べられ、太ったら大きなジムもあります。安い部屋は一週間10万円です。食事、ソフトドリンク、ショーもついて、陸上のレジャーよりはるかに安いです。フリーダム・オブ・ザ・シーズという16トンの船は、約17階建てで、330メートルあり、海が多少荒れてもほとんど揺れません。船酔いも解消されるようになってます。こんな船が次々出てきて、一部が日本の近海にも現れ始めています。それでもヒューマンエラーはなくならない。一番は居眠りです。整備不良もあります。これらをどうやって解消するかが大きなテーマです。

 

現代クルーズのこれから
日本でクルーズと言えば超高級レジャーだと思われますが、アメリカでは子連れが結構います。日本では一生に一度でいいから世界一周に乗ってみたい、という方もいますが、今はそういう長期間のクルーズは非常に少なくなっています。今のブームは、安くて1週間以内のもので、週末3泊程度のクルーズにお客さんが殺到しています。
退屈なイメージもありますが、そんなことはありません。同時間に複数のラウンジで違う催しが行われます。もちろん、プールサイドで本を読んではうとうとする人もいます。気軽でお買い得で楽しくて便利な旅なので、世界で人気の的なんですね。

船の模型

私はこの気軽に乗れるものを現代クルーズ、それ以外をトラディショナルクルーズと呼んでいます。現代クルーズは、1960年代の後半にカリブ海で誕生した全く新しいビジネスモデルで、定点定期、同じ港から同じ曜日に出るのが特徴です。例えばカリブ海をクルーズする場合、観光スポットの少ないところは飛行機で飛べば、1週間の休暇でゆっくりとカリブ海の船旅が楽しめます。これはフライ&クルーズと言われ、全米のクルーズのマーケットを広げました。それからオールインクルーシィブ・プライス(食事代やショーなどが料金に含まれる)で短期。そして超大型船は集客率が高いので、コストが下がって料金を安くできます。そして、船内の楽しみが多様化したので、CS(顧客満足度)も上がりました。

今やクルーズ産業は、全世界で約2100万人に利用され、13兆円規模に成長し、国家保護産業から自立産業へ脱皮しました。現代クルーズの世界展開が始まって、最初は欧州で一気に成長。その後の成長度合いも鰻上りです。その後、ようやく東アジアに進出しました。コスタクルーズ、ロイヤル・カリビアン・インターナショナル、プリンセス・クルーズですね。

日本籍船は3隻あり、高級船でおもてなしの粋を集めた船です。特ににっぽん丸の食事は抜群です。そして、1泊3万程度。ホテルに泊まって、朝昼晩、夜食も食べて、毎日いろんなイベントあって、と考えると、決して高くないと思います。しかし、海外船の現代クルーズははるかにお買い得なのです。現代クルーズがやってきた中国では、4年前0だったクルーズ人口が今では113万人です。

池田先生講演中の様子3

2020年ごろのクルーズ人口予測では、アジア全体で300万から500万人になるそうです。欧米並みのクルーズマーケットができて、クルーズ客船が毎年日本で2、3隻は建造されるようになり、赤字にならない造船所が1社でも増えればと期待を寄せています。

2014年度版のアジア発のクルーズ白書では、西洋人と東洋人で随分海に関する意識が違うことが読み取れます。日本船の名旅館に近い高級なサービスはビジネスモデルとして悪くないと思うんですが、ただ欧米や中国のようにマーケットは広がらないと思います。なので、ぜひ日本にも、マイアミみたいに気軽に毎週土曜に神戸や大阪からクルーズ乗れる、というような体制を作りたい、というのが私の願いです。

 

おすすめの本 今回のテーマ:「船、クルーズに関する本」

『みんなが知りたい船の疑問100』 (SBクリエイティブ) 著者/池田良穂
「コンテナ船は、荒れた海でもなぜ荷崩れしないんだろう?」「巨大な船はどんなところで造られるんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか? 本書では、エンジン、船体、種類、造船・整備・解体、運航、海難の疑問まで、美麗写真とカラーイラストで、思わず「そうだったんだ!」と膝を打つ解説をしていきます。

『造船の技術』 (SBクリエイティブ) 著者/池田良穂
原油には「タンカー」、鉄鉱石には「鉄鉱石運搬船」、穀物には「バラ積み船」、天然ガスには「LNG船」、細かい荷物には「コンテナ船」など、さまざまな種類の船が必要です。そのため、わが国では昔から造船が盛んで、現在も最先端の造船技術を誇ります。本書では、知られざる造船の技術に迫ります。

おススメの本

『図解雑学 船のしくみ』 (ナツメ社) 著者/池田良穂
使われている技術はどれも伝統的なものばかりで、業界も過去のもの、船に対して、そんなイメージを持っていませんでしたか。じつは、造船業界も海運業界も日本は世界のトップクラスにあり、需要が伸び続けている成長産業でもあります。さらに、船に関する技術の面でも日本は、いまなお最先端にあります。本書は、そうした船について、歴史的で伝統的な技術と用語をしっかり解説するとともに、現代の船に驚くほどたくさん利用されている、最先端の科学技術の数々 を、平易な文章と丁寧な図版でわかりやすく解説しました。

『フェリー活用読本』 (中央書院) 著者/谷川一巳
「車なし」で乗れる国内航路(総トン数500トン以上の船)の特徴や船内でのノウハウなど、役立つ情報満載。

『世界の船旅』 (海事プレス社)
客船史上、空前のスケールと常識を覆すユニークなアイデア。ロイヤル・カリビアン・インターナショナル(RCI)の「フリーダム・クラス」(ウルトラ・ボ イジャー・クラス)の魅力を、美しいカリブ海クルーズの映像とともにご紹介。ブックレットでは、常に大型客船のトップランナーとして君臨してきたRCIの 歩み、ポリシー、巨大船の仕組みなどを解説します。

 

【取材日:2014年8月19日】※所属等は取材当時