10/4、社会で活躍するOG取材として、公立大学法人 大阪府立大学の会計担当理事を務める井出 久美さんにお時間をいただきました。井出理事は1988年に大阪府立大学経済学部を卒業され、1991年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)に入所。2011年に独立し、井出久美公認会計士事務所を立ち上げられました。

IMG_2460◆井出 久美(いで くみ)
1988年大阪府立大学経済学部卒業。1991年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入所。1995年公認会計士登録。2011年有限責任監査法人トーマツ退所。同年10月井出久美公認会計士事務所開業。2011年税理士登録。公認会計士、税理士。2016年4月大阪府立大学会計担当理事に就任。

インタビューでは、学生時代に打ち込んだバンド活動のお話や、20年間会計の世界で働いてこられた井出理事ならではのお話を伺うことができました。インタビューには、広報担当者のほかに公認会計士をめざす現代システム科学域 マネジメント学類の4名の学生たちも参加。学生たちは普段聞くことができない会計現場の生の声に触れ、たくさんのことを学びとったようです。

集合写真

 

【在学中の思い出 編】

IMG_2495(広)―府大で、どのような学生生活を送られていましたか?(井出)―学生時代は軽音楽部に所属し、白鷺祭や友好祭にもバンドで参加しました。ステージに立った時の興奮はもちろん、本番までの準備も本当に楽しかった。当時、アルバイトをして購入したYAMAHAのシンセサイザーを、今も事務所に置いています。これを見ると当時を思い出し、力が沸いてきます。

(広)―青春ですね。井出理事は在学中から公認会計士をめざされていたのですか?

(井出)―私の場合は卒業してから勉強を始めました。学生の時は部活に夢中でした。真剣に自分の将来のことを考えたのが卒業のタイミング。もう二度と机に向かって勉強することがないかもしれないと考えた時、自分の中にある「もっと勉強しておけば良かった」という後悔に気づきました。就職先も決まっていましたが「今しか勉強するときはない」と考え直して公認会計士をめざすことにしました。

(広)―なぜ公認会計士をめざそうと思われたのですか?

(井出)―「会計研究会」というサークルに所属する友人がいたので、公認会計士という資格があることは知っていました。本に載っていることを単純に暗記するのではなく、身に付けた知識を用いて企業経営に携わることに魅力を感じました。将来について真剣に考え始めるのが遅かった自分と違い、すでに自分の夢を見つけ、大学だけでなく専門学校にも通いながら会計士をめざしている皆さんは立派だと思います。

【学生とのディスカッション 編】

(岩井)― 会計士になるからには監査をやりたいという気持ちがあります。井出理事はどのように思われますか?

IMG_2391(井出)―そうですね。会計士になったからには、監査をしないとおもしろくないと思います。ただ、以前と比べて監査手続は大きく変わってきている部分があります。エンロン事件やカネボウ事件などを機に、金融庁や会計士協会の締め付けが一層厳しくなり、特に大企業ではクライアントの方を向いて監査がしたいのに、金融庁を意識することが多くなった。「誰のための監査なんだろうか」という疑問が、私が独立を考えたきっかけです。

(M)―独立する時に迷いや葛藤はありましたか?

(井出)―もちろんです。監査法人を設立するには最低5名の会計士が必要ですが、人材を集めるのは難しかった。個人事務所の場合は大企業の監査ができなくなってしまう。それが独立に踏み切れない要因でした。一方で、中小企業との仕事にも魅力を感じていました。大企業の意思決定は組織的に決議されますが、中小企業の場合はオーナー企業が多いので社長一人に判断が委ねられます。社長は孤独な存在です。そんな社長の愚痴を聞きながら「こうするのはどうですか?」と提案することで役に立てればいいなと思い、独立しました。

(葭)―独立を視野にいれた時、会計士になってからどのようなことを勉強すれば良いと思いますか?

IMG_2357(井出)―監査には会計監査と内部統制監査があります。中小企業の会計コンサルに必要なノウハウを身につけるためには、内部統制をしっかり勉強するのがいいでしょう。会計は法律や規則でルールが決まっていますが、内部統制は業種や規模によってさまざまなやり方があります。不正や誤謬を効率よくチェックする方法を助言するのが公認会計士の役割の一つ。監査法人に入所したらいろいろな業種を体験し、その違いやとポイントを勉強することが重要だと思います。まずは自分が担当した企業のことを深く知り、その分野を極める。誰よりも深くクライアントを理解することから始めるのが良いと思います。ひとつひとつの案件と真剣に向き合う中で、おのずと自分の得意分野が見えてきます。

(M)―何才くらいで次のステップを決めるのがいいと思いますか?

(井出)―監査法人に入所すると「スタッフ」という役職からスタートします。その後、シニアスタッフ、マネージャーなどを経て、ひと通りの仕事に携わったと言えるようになるのが入社後10年目あたり。私はその次のポジションである「シニアマネージャー」まで経験しましたが、結果的によかったと思いました。シニアスタッフで独立すると年齢が若いので、経営者や同業者からはかわいがられるでしょうが、経営的なアドバイスは経験が不足してできない。シニアマネジャーまで経験すると、監査法人自体の経営も深く考えるようになりましたし、企業の経営者や幹部とも年齢が近づくので話がしやすい。現在、その時のご縁で仕事をいただくことが多いですし、難易度が高い仕事がきます。
これは私の持論ですが単なる「思いつき」は存在しません。何事も常にアンテナを張って考えているからこそ、新たな気づきがあるのだと思います。今年の入学式で辻学長が流れ星への願い事の話をされた時、非常に共感したのを覚えています。自分の願いを常に考えているから咄嗟の時にも言葉に出る、常に考えているから思いつく。独立した当初は「何がしたいのだろうか?」ということを自分に問い続けていました。

辻学長 平成28年度入学式式辞

(広)―独立して良かったと思うことは?

(井出)―「こんなことも知らずに監査していたのか」という気づきが多くありました。例えば、小切手、手形の取扱いなどクライアントの実際の手続きの部分です。知らなくても支障はありませんでしたが、知ることでより一層現場感覚を持って改善提案ができるようになりました。またスピード面でも強みがあります。監査法人は組織。個人事務所に比べると何事にも時間を要します。スピード面を評価されて、前職の時の担当先から、仕事の依頼をいただくこともあります。ただし、すべてが自己責任となるのでリスクは非常に高いです。いまだに、誰かに再チェックしてもらいたいと思うこともあります。一方で、こちらがスピード感を持って答えを出すことで、企業もより迅速に次の手を打つことができます。リスクもありますが、やり甲斐がありますね。

(岩井)―クライアントとはどのような関係を築かれていますか?

IMG_2404(井出)―担当している企業では自由に発言させていただいています。会計に留まらず経営全般について企業にとって良いと思うことを進言するのが私の仕事です。ときには言いにくいことも社長に言わねばなりません。そのときに聞く耳をもってもらえるかどうかは日頃の人間関係が要です。頻繁に顔を出すようにして、社内で何が起きているか、社長や幹部が何で悩んでいるかを早くキャッチするようにしています。また、他社で起きていることは、どこの企業でも起きえること。勉強会や意見交換会に参加して積極的に他社の情報収集にもつとめています。

(M)―現在のお仕事について、もう少し詳しく教えていただけますか?

(井出)―会計相談や税務申告以外に会計コンサルが多いです。社長や親族の持つ株式を誰にどのタイミングで継いでいくか、そのスキームを考えたり、管理面を強化するために後継者や幹部に財務研修を行ったり、最近はIPOコンサルが増えてきました。前職でもIPOの案件にたくさん携わらせていただいたのですが、IPO案件のクライアントはこれから上場する企業が対象なので「共に作り上げていく」という醍醐味があります。苦楽を共にした企業が上場し、社長や幹部、従業員の喜ぶ姿を見ると、苦しかったことがふっとびます。何よりも嬉しい瞬間です。

※ 会計コンサル:財務内容やその他様々な経営ファクターから企業の課題を見出し、解決に導くコンサルティング業務
IPOコンサル:上場をめざす未上場企業に対し、財務面・経営面での指導を行うコンサルティング業務

(広)―学生時代に培ったことで現在の仕事に生きているなと感じることはありますか?

(井出)―軽音でステージに立っていたからか、人前で話すことは苦手ではありません。会計士は人前に立って話す機会が多いです。例えば棚卸しの時にクライアントを訪れると、大勢の従業員の方々の前であいさつや講評を求められます。批判するだけでは皆さんのやる気を削いでしまうので、良いところはちゃんと評価した上で改善点を伝えるようにしています。

(葭)―監査法人に入所して、まず気をつけるべきことは何ですか?

IMG_2456(井出)―監査法人に限らず、社会人1年目が一番大切な時期だと思います。知らないことが当然で、何でも質問できるのは1年目だけです。その「知ろうとする姿勢」を上司は評価します。自分が質問している時、周りの先輩たちが聞き耳をたてているように感じることがあっても、それは「何かあったら助けてあげよう」「分からないことを教えてあげよう」という気持ちの表れ。ピントを外した質問をしたら恥ずかしいとか、そんなことも知らないのかと思われたら嫌だとか、気にせずいろいろなことに好奇心を持って質問してほしいです。ただし、「これは何ですか?」というような丸投げの質問はだめ。自分で調べて、自分なりの考えや答えを示したうえで、それでいいかどうかを質問してください。

(広)―最後に学生の皆さんへメッセージをお願いします。

(井出)―失敗恐れず、常に「評価される環境」に自分を置いてほしいです。資格にチャレンジするもよし、科学のコンテストに応募するのもよし、歌のコンクールに出たり、出版社に書き物を持ち込むのもいいと思います。悪い評価が多いでしょうが、そんなことで負けていてはだめ。どこがだめなのかがわかるのだから、それを改善することで成長していけばいいし、繰り返すうちにほんとに自分のやりたいことも見えてきます。臆することなく、さまざまなことにチャレンジしてほしいです。

取材風景の写真

【参加した学生たちの感想】

■貴重なお話をたくさん聞くことができました。自分も井出理事のようなかっこいい会計士になりたいと本当に思いました。この思いを糧に、まずは試験合格に向けて頑張ります。ありがとうございました!
(マネジメント学類2年 葭 良介)

■井出理事の話を聞いて、とても 有意義な時間を過ごすことができました。自分の仕事に自信や誇りを持っている井出理事にすごく憧れました。僕も少しでも近づけるよう頑張りたいと思います。
(マネジメント学類2年 陳 健人)

■なかなか個人事務所に訪問させていただく機会はないので、貴重な経験でした。井出理事のお話から学んだことを、自分の将来を考える糧としたいです。
(マネジメント学類3年 岩井 萌)

■私は現在、論文式試験の合格発表待ちで監査法人の説明会に参加していますが、公認会計士の個人事務所に伺ったのは今回が初めてです。これまで個人事務所の主な業務は税務だと思っていましたが、井出理事のお話を伺い、その幅広い業務内容に驚きました。最も驚いたのは、井出理事が事務所設立後5年間一度も営業をしてこなかったということです。「知り合いが仕事を紹介してくれて、現在に至っている」とおっしゃっていましたが、井出理事の豊富な知識と人柄に惹かれ、多くの方が「井出理事と一緒に仕事がしたい」と感じ、自然と次の仕事につながっているのだと感じました。私も色々なことに関心を持ち、様々な方と交流できるように心がけようと思いました。そのほかにも様々なことを学ばせて頂き、非常に有意義な時間になりました。本当にありがとうございました。
(マネジメント学類4年 M)

【取材:皆藤 昌利、西野 寛子(広報課)】
【取材日:2016年10月4日】