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I-siteなんば「まちライブラリー@大阪府立大学」で8月22日(金)午後6時30分より開催されたアカデミックカフェ。第6回は大阪府立大学放射線研究センター長 奥田修一先生をお招きし、私たちの暮らしの中の幅広い分野で利用されている放射線、その真実と不思議の世界を楽しみます。

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<プロフィール>
奥田 修一(おくだ しゅういち)
大阪府立大学 大学院工学研究科 量子放射線系 教授
大阪府立大学放射線研究センター長

放射線や加速ビームなどの照射効果や、加速器の要素開発とビーム物理、遠赤外のコヒーレントな放射光源開発などを専門とし、放射線照射の効果や有機物への機能付与などにも造詣が深い。

 

放射線の不思議
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物質は原子でできていて、その原子の大きさは、人間を地球とすると蟻ぐらいです。原子の中心には、原子核というプラスの電気を持った重い粒子があります。その大きさは、原子を大きめの建物とすると、また蟻ぐらいです。その周りを軽くてずっと小さい、マイナスの電気を持った電子がいくつか回っているようなイメージです。
こんな風に見てみると、人間のからだは隙間だらけでほとんどが真空でできていますから、電気を持たない中性子などが入ってきても突き抜けてしまう。放射線は透過する力が大きいので、からだを透視するレントゲン撮影ができます。

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原子核が少し構成を変えると不安定になります。ここから放射線がエネルギーを持って飛び出して安定になります。このエネルギーは、物が燃えたりする反応などに比べると桁違いに大きいんです。
放射線には、ヘリウムの原子核のアルファ線、電子のベータ線、光の一種のガンマ線やエックス線などがあります。エックス線とガンマ線の違いは特にないんですが、原子核から出てくるのをガンマ線と呼びます。

放射線の健康影響
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放射線の健康影響には2種類あります。このうち、直接からだに変化があるのを確定的影響と呼びます。これには白内障や不妊、脱毛、皮膚炎などがあります。
われわれが受ける放射線の量(線量)がわずかだったら何も起こらないけれども、ある線量を超えると急に起こりだす。これがしきい線量です。放射線をさらに多く受けると、死に至ることもあります。
からだへの影響は、紫外線も同じようなものです。ただ紫外線は表面の皮膚だけに影響します。皮膚炎は紫外線による日焼けや水ぶくれのようなものです。その影響が長く残るようだったら皮膚がんにもなります。皮膚がんが危ないから日光にはできるだけ当たらないよう注意が必要ですが、皆さんは海で平気に日焼けしています。一方で、放射線ではわずかでも影響があると重大なこととみなされます。ちなみに普通は、からだにすぐ影響があるような量の放射線を受けることはまずありません。

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これに対し、今社会で問題になっているのは、このしきい線量よりもっと少ないところです。放射線によって遺伝子に傷がつく。遺伝子の傷はどんどん修復されますが、万一その中におかしなものが残ったとしてもその細胞を殺してしまうという働きがあって、私たちのからだは守られています。どういうメカニズムかは不明ですが、昔の放射線の影響で、長い年月を経てがんができる可能性があります。この確率が昔の線量にほぼ比例するので、これを確率的影響といいます。

この影響があるとわかっているのは、線量が非常に多い場合です。線量の単位の一つで示すと、100ミリシーベルトよりも多いところ。これは、原爆の影響などを調べた結果、明らかになりました。しかし、より少ない線量での影響については、あるかないか、よくわかっていません。あったとしても、ほかの原因によるがんの割合と比較すると小さすぎるからです。ただ、多くの人に対して必要な放射線防護の観点から、確率は低いけれども影響があると考えましょう、ということになっています。
今社会で問題になっている線量は、ほとんどが数ミリシーベルトかそれ以下です。確率的影響が明らかになっている100ミリシーベルトの線量で考えますと、日本では今およそ30パーセントの人が放射線とは別の原因によるがんで亡くなりますが、その割合が0.5ポイントほど増えますよ、というものです。
放射線は、がんの原因のほんの一部にすぎません。食事の偏り、ストレスや運動不足など、そういうものの影響が大きい。ですからトータルで考えないといけません。

くらしの中の放射線ひばく
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われわれは日常、あらゆる場所で自然に放射線を受けています。年間、日本で約2.1ミリシーベルト。これは宇宙や大地などからくる放射線が原因です。また自然界には放射線を出す物質があり、それは地球ができた時からあって、からだの中にもあります。ある物質が放射線を出しているパワーをベクレルで表します。人間のからだでは、数1000ベクレルです。
日本で起きた原子力発電所の事故では、広い地域が人工的に作られた放射線を出す物質で汚染されました。エネルギーの確保や地球温暖化の問題も踏まえて、原子力の将来を考えなおさなければなりません。

くらしの中の放射線利用
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放射線は、身の回りのあらゆるものに利用されています。ラジアルタイヤのゴムは、ゴムの状態で照射して強くします。タイヤのゴムは硬くなってなかなか減らない。それは放射線の作用のおかげです。
真珠に放射線を照射するとブルー真珠ができますが、われわれの先輩が熱心に研究ました。合成繊維の三味線の糸は切れにくく、これに放射線を照射すると、伸びにくくて非常に通りの良い音になります。テニスのガットも強くなります。これらは、放射線利用のほんの一例です。放射線は、品種改良にも役に立ちます。先輩がアメリカフヨウの品種を改良して、「しらさぎの夢」と名前をつけました。滅菌は、特に医療器具などで必要とされていますが、放射線で滅菌すると、化学物質を使わないので安全です。袋に入っていてもそのまま照射できるので広く使われています。

日本は最初に食品照射を始めた国です。ジャガイモの芽止めのために照射をすると長く保存できます。しかしその後、社会からの厳しい意見によって、他には利用していない。国際的には線量の基準が決められていて、食品の殺虫、殺菌などにも世界の多くの国で使われているのに、日本は今、遅れた国になってしまっています。このようなことに対する科学的な目を、一般の人たちも持たなければいけないのではと思います。

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診断や医療の分野では、放射線が欠かせません。からだの中の細かいところまで見えるし、小さながんもPETで三次元の像で見えたりしますので、早期発見の診断技術はすごく進歩しました。治療の方も、電子やイオンを加速する加速器が使われます。非常に高いエネルギーで、ガンの部分に集中的に照射をして、切らずにすむ治療法が確立されています。
放射線の研究で多くの研究者がノーベル賞を受賞しています。私の研究の分野が似ているので、ロシアのチェレンコフの生誕100年の記念シンポジウム(2004年)にモスクワに招待していただきました。これからも放射線に関係する研究で、時間の不思議、宇宙や原子核の不思議、古代史の不思議などいろいろな謎が明らかになることでしょう。

 

奥田先生のおすすめの本 

●『みんなのくらしと放射線』(大阪公立大学協同出版会) 「みんなのくらしと放射線」知識普及実行委員会 編
「みんなのくらしと放射線」知識普及実行委員会は大阪府立大学を中心とした関連9団体によって組織され、放射線の正しい知識を一般の人に身につけてもらう ための活動を30年以上にわたり続けてきました。毎年夏休みには、親子参加型イベント「みんなのくらしと放射線展」を開催し、多くの参加者でにぎわいます。この本はその活動の一部として、放射線を広く理解していただくためにまとめたものです。私たちがくらしの中でかかわる放射線について、基本的な事がらから、人体への影響、工業・農業・医療などへの利用、放射線の科学史までを、わかりやすく説明しています。

●『ぼくは12歳 岡真史詩集』(筑摩書房) 高史明・岡百合子編
この詩の作者は、私の恩師の座右の銘、「生きることの意味」の著者の息子です。少年にして、自然の真理を感得したような言葉を詩文に残して、自ら短い人生を終えました。長く生きている私が人生の不思議を真剣に考えていた昔を振り返るための本です。

●『てぶくろ』(福音館書店) エヴゲーニー・M・ラチョフ(イラスト)、うちだりさこ(翻訳)
雪の上に落ちていた手袋に次々と動物が入って一緒に仲良くしているだけの絵本です。古本屋で見つけたときに、あまりの楽しさにわれを忘れました。研究をするためには常識を忘れることも必要です。こんな昔話を作ることのできる国、民族はすばらしいと思いませんか。

●『アトムのひとりごと』(木村毅一先生文集出版事業会) 木村毅一
木村毅一先生は、私がいる放射線施設の前身である、大阪府立放射線中央研究所(大放研)の初代所長です。在職されていた1959年から1970年に書かれたエッセイを集めたもので、当時の放射線施設や研究の様子が良く分かります。私が挿絵を描かせてもらったことで、いろいろお話をうかがうことができました。

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【取材日:2014年8月22日】※所属等は取材当時