I-siteなんば「まちライブラリー@大阪府立大学」で2014年9月17日(水)に開催された第8回アカデミックカフェでは、大学院 生命環境科学研究科 緑地環境科学専攻の増田昇教授をお招きして、自分のまちがどうできていて、どう創っていけばいいのかなど、緑地計画を含めたまちづくりについてお話いただきました。

講演の全景

<プロフィール>
増田 昇(ますだ のぼる)増田先生プロフィール
大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 緑地環境科学専攻 教授

1952年大阪に生まれ、77年に大阪府立大学大学院修士課程を修了する。大学院修了後、77年から85年の間、民間コンサルタンツに勤務し、主にニュータウン開発に携わる。85年には同大学農学部の助手に転職し、97年に教授になり現在に至る。

専門はランドスケープ・アーキテクチャーで、主に都市や地域の文化的景観の保全や魅力的な景観形成とともに公園緑地を中心とした都市や大都市圏の緑地計画に係わる研究に従事している。また、日本造園学会会長や日本都市計画学会副会長等の学会活動に加え、地方自治体の各種の審議会委員を歴任し、都市問題や環境問題に取り組んでいる。

著書に「住環境の計画3・集住体を設計する(彰国社)」、「環境首都関西のデザイン(学芸出版社)」、「ランドスケープ大系3(技報堂出版)」、「河川文化その三十三」などの共著あり。

 

今日は、どのように人が係わり、どのように緑を作っていくのかについてお話ししたいと思います。成長型から成熟型への変革、パラダイムシフトが求められる中で、緑が担うべき役割とは一体なんだろうか。ランドスケープや緑化にどんな事ができるかなどをお話しし、そこから人々が具体的にどのように参加できるのかについて話を進めたいと思います。

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成熟型社会におけるみどりに求められる役割
いまは環境重視型社会が求められています。それは、循環型社会であり、生物多様性の保全であり、低炭素型都市であり、持続可能なエネルギーのことです。また、「ヒューマンルネッサンス」という視点でみていくと、健康、安心、歩いて暮らせる、というのがキーワードになります。

次に「協働の視点」。そして、「地域のブランド化」や「シビックプライド」。もうひとつは、「生活」。日本の都市はこれまで「そこで生活すること」に対してあまり意識されずに計画されてきました。また、日本はいまだにイニシャルコスト型。イニシャルコスト+ランニングコスト+廃棄コストを足して、トータルとしてのコストをどのように低減できるのか、という視点で予算化されていません。それはとても無駄なことです。以上のような変革を求めるのが、成熟型社会だろうと思います。

講演中の全景

 

こうした背景の中で、みどりに求められる役割とは何か。都市域のコンパクト化と田園・自然地域の保全・再生であり、都市の環境インフラの構築といった静脈型との呼べる都市基盤をつくらないといけません。

自然環境との調和を図り、負荷への軽減を図った緑づくりを本当に考えていかないといけません。緑化することが目的ではなくて、緑化を通じてそこで皆が幸せにとか、のんびりとか、ゆとりを持って暮らせるというのが大事で、生活環境の創出や歴史・文化を背景とした個性ある景観をつくっていかないといけません。(図1参照)

図1

図1:ランドスケープに求められる役割

 

安全・安心に暮らしたい-震災からの復興まちづくり-
次に、安全・安心という視点から緑づくりをどのようにするのかという話をします。江戸時代では火除け堤という植栽帯とともに広小路を併設して、延焼防止のための街づくりをやってきました。

近代に入って、木造から煉瓦などの耐火建築物に変わっていきましたが、大正12年に関東大震災が発生し、公園に逃げ込んで157万人の命が助かりました。その時に耐火建築への転換も大事だが、公園をつくることも非常に重要なことだという議論になりました。

増田先生講演中

平成7年には阪神淡路大震災が起こります。その時公園は、震災直後では緊急避難場所に、その後は瓦礫処理置き場に、さらにその後には給水車を停めるなどの救援活動や避難生活の支援拠点となり、また、ボランティア受け入れの場ともなりました。「公園(広場)の機能は時間と共に変化する」という概念がここで発見され、これを設計の中にどう組み入れるのか。当時、こんな議論をかなり国政担当者としました。

そして東日本大震災です。この時、日本造園学会の副会長、次いで会長になりましたが、学会の基本方針として「ランドスケープの再生を通じた震災復興」を提言しました。震災から残った自然や文化的景観を手がかりに復興計画が展開できないかを問いました。若い世代にも入ってもらって議論したり、本としてまとめています。(図2参照)

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図2:復興の時空スケール

基本的な安心、安全を意識してみた時の緑というのは、都市の基礎体力といえるでしょう。都市の基礎体力としてどれだけ余裕のある空間を持っているのか、どれだけ余裕のあるスペースを持っているのかということが回復力(レジリエント)につながりますし、都市の体力向上につながります。

増田先生講演中の客席

 

環境インフラとしてのみどり
環境インフラとは、道路や鉄道といったいわゆる「動脈型」のものではなく、川がどこに流下し、どこにどんな植物や生物が生息しているかなど、自然と共生する「静脈型」の構造を持った新たな都市基盤のことです。これをどうやって構築すれば良いのかを国政担当者と議論し、「山・里・海を繋ぐ人と自然のネットワーク」を検討会議として提言しました。(図3参照)

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図3:近畿圏の都市環境インフラの計画図

 

私はいつも「都市は持続しますか?」と問います。残念ながら、答えは「都市は持続しません」ということです。なぜかというと、生命活動を支える側面は全て消費要素であって、供給要素を持たないのが都市だからです。水、食料、そして酸素。そういった生命活動に必要なものを供給できない都市は消費拠点なのです。背景にある自然地域を供給源として需要と供給のバランスを取らない限り都市は持続しません。

本当の都市のインフラ、本当の都市の環境をどう考えたら良いのか。それは地形の構造であり、流域の構造であり、植生の分布です。これが環境インフラとしてのみどりです。環境インフラは静脈型の構造も持っておかないといけない、全てが動脈型だけでは持続しません。トータルに考えましょう、というのが私の話です。

増田先生講演中

参加するみどりのまちづくりの事例
最後に、「参加するみどり」とは具体的にどう進めていったら良いのか。私自身、20年近くこれに没頭していると言っても良いかもしれません。

-箕面市山麓保全-
ひとつは箕面市の山麓保全の取り組みです。里山や自然を守るために、市民の方々や地権者と一緒に3年かけて「山麓保全アクションプログラム」という仕組みづくりをしました。経済の仕組みが成立して初めてサスティナビリティ(持続性)は担保できます。その視点で環境管理主体となるNPOを作り、「公益信託みのお山麓保全ファンド」という経営的仕組みを作り、各種プログラムが回っています。(図4参照)

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図4:「みのお山麓ファンド」のしくみ

-堺自然ふれあいの森-
堺市が墓地の事業用地から自然環境保全へと方針を転換した際に、どんな形で参加型の森づくりをしていけば良いのか公募が実施されました。その結果、市民、地元の大阪府立大学、専門家、行政が協働した「森の学校」という案が採用されました。(図5参照)

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図5:堺自然ふれあいの森イメージプラン

公費で整備したのはビジターセンターだけで、それ以外の園路や広場は全て市民の力で整備し、都市公園としてオープンしました。里地と里山の一体管理、環境学習、クラフト、動植物の図鑑の作成などを市民が行う「公共用地の中でのNPO(いっちんクラブ)参加型活動」として実行されています。10数年かけて森の東側半分の整備が進み、これから10年かけて西側半分の整備をしていくという、息の長い活動をしています。

-高槻市安満遺跡公園-
弥生期の環濠集落跡地でもある元京大農学部の演習農場跡地を高槻市が取得し、この公園整備では市民参加型で一からスタートして、今年で3年目です。最終的なビジョンは、高槻市版の「市民が育てる公園づくり」です。(図6参照)

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図6:高槻市安満遺跡公園計画図

初期は基盤整備に留め、市民が造りつつ、仕上げていきます。平成31年の開園目標ですが、26年から活動を試行しています。市民が市民にサービスをするという仕組みや運営の仕組みが構築され、新たな公共空間がオープンします。これが箱物行政ではない、本来の公共空間のあり方です。

 

今日の「参加するみどりのまちづくり」の話は以上のような考え方です。新たな視点からの話題提供と思っていただければ幸いです。

講演後の歓談の様子

 

増田先生おすすめの本
いずれも、オープンスクール的な仕掛けを学会活動に組み入れ、次の世代が社会に対してどんな提案ができるのか、そのような活動のきっかけづくりをやってきました。それらをまとめた3冊を紹介しておきたいと思います。

『マゾヒスティック・ランドスケープ-獲得される場所をめざして』
LANDSCAPE EXPLORER 著(学芸出版社)

関西の造園界で若い人、次の世代をどう元気付けたら良いのかが問われました。そこで、6人の若い指導者にお願いして、オープンスクール的なワークショップを3年ほどしてもらい、まとめたのが、この『マゾヒスティック・ランドスケープ』です。公園というのはお上から与えられたものではなくて、パブリックスペースというのは、自分らが獲得するものであるという内容です。

『いま、都市をつくる仕事 未来を拓くもうひとつの関わり方』
日本都市計画学会関西支部 次世代の「都市をつくる仕事」研究会 編(学芸出版社)

日本都市計画学会の副会長、関西支部長をしている時に、建築系の若手一人と土木系の若手一人、造園系の若手一人の計3人にお願いし、彼らが共鳴できる若手研究者を集めて関西のオープンスクール的に大学生を公募したワークショップをしました。そしてまとめたのがこの本です。

『復興の風景像 ランドスケープの再生を通じた復興支援のためのコンセプトブック』
日本造園学会-東日本大震災復興支援調査委員会 編(マルモ出版)

日本造園学会で副会長をしている時に東日本大震災が発生し、これまでの土木・建築といった非常に堅い復興ではなくて、造園や緑、ランドスケープという視点からどんな復興像が描けるのか、学会内部で検討してもらいました。20大学ぐらいの先生に、学生も一緒にワークショップや現地調査をしてもらって、それを復興の風景像という形でまとめられたのがこの本です。

 

【取材日:2014年9月17日】※所属等は取材当時