2016年7月5日(火)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」にて、第24回アカデミックカフェが開催されました。カタリストは人間社会システム科学研究科の大形徹教授。テーマは「卑弥呼と鏡」です。

鏡といえば、言うまでもなく姿を映すもの。お化粧したり、身だしなみを整えたり…現代の生活では当たり前のように使われています。

鏡は中国から伝わり、祭祀などに使われていました。日本の神社には多く鏡が飾られており、鏡自体を御神体としているところもあります。中国の歴史書『三国志』「魏志倭人伝」には、魏の皇帝が卑弥呼に銅鏡百枚を下賜したとする記述があることから、三角縁神獣鏡がその鏡であるとする説があります。

鏡に映るのは鏡像、つまり左右逆の世界であり、左前(死者の服装)の姿を映します。また鏡には悪霊の正体が映し出されるため、魔除けにも使われていました。鏡を副葬品として墓に入れるのは、被葬者のあの世での復活再生を願い、かつ遺体に入り込もうとする悪霊を追い払う意味があると言います。

また死者の世界も映し出すと伝えられ、鏡の中に入ることにより、死者の魂は、死者の世界へと到達できたのかもしれないと言います。大形先生が次々とお話になる鏡の不思議な世界に、参加者の皆さんは引き込まれていました。

後半は古代の鬼道についてのお話。鬼道とは諸説ありますが、魏志倭人伝に「鬼道につかえ、妖をもって衆を惑わす」と卑弥呼のことが記され、鬼道によって人心を掌握したとされています。

鬼道は時代背景に応じてその立ち位置は異なり、人民を惑わす妖術として批判的に捉えられることもあれば、民衆にとっては病気治療の唯一の拠りどころという面もあったようです。

鏡や鬼道のお話を通して、古代における霊力や信仰などの世界が垣間見えた今回のアカデミックカフェ。日常では感じ得ないミステリアスな発見の連続に、古代史への興味が呼び起こされた講義でした。

▼大形先生からご紹介いただいた本
『魂のありかー中国古代の霊魂観ー』、角川選書、平成12年7月、全294頁、単著。
秘器のところに、鏡の使い方について書いています。

●鑑賞・中国の古典9『抱朴子・列仙伝』(小川環樹・本田済監修、角川書店)pp.145~345、pp.410~430頁(参考文献・索引)昭和63年7月(共著者、尾崎正治、平木康平、『列仙伝』部分を平木康平と共同執筆)。『列仙伝』は仙人の伝記です。巻下、負局仙人は鏡磨きを職業としていた仙人です。

●『不老不死-仙人の誕生と神仙術-』、講談社現代新書、全254頁、平成4年7月
仙人とは何かについて書いています。p108に破鏡、205頁に「漢仙人不老佳鏡」として「鏡」がみえます。

●『道教的・密教的辟邪呪物の調査研究』(大形徹・坂出祥伸・頼富本宏編、BNP、星雲社)平成17年2月、辟邪(魔除け)に関する調査報告書。「呪符と併用される辟邪呪物」のところに鏡。

●「鏡と太陽信仰―東アジアの鏡の図案より―」中国研究集刊大阪大学中国哲学研究室平成21年6月」、鏡が太陽をかたどり、鏡には太陽のもつ復活再生の観念が込められています。

●「四神考―前漢・後漢期の資料を中心に―」、「人文学論集」第15集、pp.127~141、平成9年1月、大阪府立大学人文学会。近つ飛鳥博物館の春期特別展歴史セミナー第2回(1995年5月14日)において「鏡にうつる神仙思想」として講演したもの。鏡の文様にみえる四神について考察している。

●「日本の女帝 古代日本の光と影」上田正昭著 講談社現代新書 今回は、発表の題目に「卑弥呼」のことをだしました。卑弥呼についてのわかりやすい解説がここにあります。

●「胎産書・雑禁方・天下至道談・合陰陽方・十問」大形徹
2000年前の前漢の墓である馬王堆から出土した資料の解読と解説です。胎教や房中術の話です。

 

【取材日:2016年7月5日】※所属は取材当時