2016年10月4日(火)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」にて第28回アカデミックカフェが開催されました。カタリストは生命環境科学研究科の北宅善昭教授。テーマは「人が生きていくための生態系について考える」です。

前半は生物多様性とマングローブ林について、後半は「宇宙農業の実現」についてお話くださいました。

地球上には多様な生物が存在し、その関わりのありようを、広い意味での「生物多様性」と呼びます。食料や水の供給、安定した気候など、生物多様性を基盤にした生態系から得られる恵みにより、私たちは初めて生きることができます。

そのような生態系から得られる恵みを「生態系サービス」と呼びますが、前半講義では「マングローブ林を生態系サービスとして見ること」を中心としたお話でした。

熱帯や亜熱帯地域に自生するマングローブは、陸と海の境に位置する、満潮になると潮が満ちてくる水域に生える植物です。マングローブ林やその周辺は、上流から運ばれる有機物や無機物が堆積する栄養豊富な水域になります。また周辺住民にとっては大切な漁業の場でもあり、野生動物を保護する役割も持っています。

このように多くの利点を持つマングローブですが、エビ養殖場開発などの目的で乱伐や無秩序な伐採が続き世界各地で減少、生態系の破壊だけではなく、海岸線の侵食や高潮による洪水など環境破壊や災害につながることも懸念されています。

とはいえ、マングローブを守るためにエビの養殖場を止めると、今度は住民が生活できなくなります。マングローブの生態系を保全するには、住民の生活とマングローブ保護が両立できる方策が必要だと先生はおっしゃいます。

後半テーマの「宇宙農業の実現」は、北宅先生が現在取り組んでいる研究として、大阪府立大学が認定しているキープロジェクトにも関連する研究です。
https://www.osakafu-u.ac.jp/news/nws20160701/

将来、宇宙空間で人が生活する場合、人の生存に不可欠な食料の生産、空気や水の浄化などを、完全に閉鎖された環境下で行なうシステムが必要です。

これを閉鎖空間内で自給自足できる生存環境を創るシステムを「閉鎖生態系生命維持システム」と呼んでいます。

現在、国際宇宙ステーションでは微小重力環境を利用して、あらゆる研究や実験が行われています。

こういった成果も宇宙での植物栽培技術の開発や閉鎖生態系生命維持システムの研究に活かされていくだろうし、地球上や宇宙空間で様々な研究が進められているとのお話がありました。

先生のお話は地球上の生態系のお話から、宇宙での農業開発・研究まで幅広くつながります。

しかし改めて感じたのは、全ての生き物は、直接、間接にかかわらずつながり合うことで初めて生きていくことができること。

そしてその生態系を壊さず、いかに共存・保全できるかは、私たちの身近なところから考える必要があると感じました。

 

▼北宅先生がおすすめされた本
●閉鎖生態系・生態工学ハンドブック(アドスリー)
http://www.adthree.com/publish/2016/03/Ecology-engineering-handbook.html

宇宙開発、とくに有人宇宙活動におけるさまざまな生態工学的な取り組み、地球環境問題の解決のための陸域環境や水圏環境での取り組み、農業やエネルギー問題についての生態工学的なアプローチ、センシングや光と生物の関係など、生態工学の基礎となる学問分野を網羅。

【取材日:2016年10月4日】※所属は取材当時