夢をつかんだ卒業生が、自身の経験や現在の仕事にまつわる興味深い話題を在学生に語る世代間交流会「夢こもんず」。

2017年1月14日のゲストスピーカーは、株式会社海遊館で生物の飼育展示に携わる棚田麻美さん。大学院在学中から海遊館で働き始め、幼い日からの夢だった「生き物たちを幸せにする仕事」に情熱を注ぐ棚田さんの姿は、「人生を素敵に生きる」ために何が必要か、学生時代をどうすごせばいいかを、生き生きと物語ってくれます。

棚田さんとカメレオン

 

◆棚田麻美さん
株式会社海遊館 魚類担当キュレーター(ニフレル事業部 展示計画チーム)

大阪府立大学 生命環境科学部
生命機能化学科卒業(平成22年3月)

 

■「ニフレル」でキュレーターとして活躍中!

現在の私は、株式会社海遊館(大阪市港区)に籍を置き、生き物の飼育にキュレーターとして携わっています。

約620種3万点の生物を展示する「世界最大規模の水族館」海遊館でラッコやアザラシ、イルカといった海獣類の飼育と展示に数年間携わった後、万博記念公園の複合商業施設エキスポシティにできた新施設「ニフレル」へ2015年11月の開業準備段階から関わっています。魚類や両生類、は虫類の飼育を担当しています。

棚田さんとラッコ

■飼育員が「人生の目標」になるまで

幼い頃、テレビに登場する野生動物を観ながら「この子たちのお医者さんになりたい」と強く憧れ、獣医の道を夢見たものの、大学進学時点でつまずいてしまい…。獣医の講義がある点に惹かれて大阪府立大学の生命環境科学部・生命機能化学科で学びながらも、捨て鉢な気持ちになった時期もありました。

そんなとき、学生課の掲示板で見つけたのが、天王寺動物園のアルバイト募集。運命のようなものを感じ、餌を売るバイトをしながら飼育員さんたちと交流を深めるなかで、人生の目標を獣医から飼育員へと切り替えたのです。

でも、調べてみると飼育員を定期採用する施設はほとんどなく、年に10件ほど出る欠員補充枠に潜り込むしかない。そのうえ、専門学校や畜産科、水産科の出身者の方が有利とあって、道は遠く感じられましたが、「あきらめたら一生後悔する」と自分を勇気づけ、募集があれば全国どこへでも受けに行きました。

 

■海遊館に採用してもらえたものの…

熱意が通じたのか、大学院へ進んで間もなく、海遊館に採用してもらえました。ただし、雇用形態は期間契約職員。3年間の契約期限終了後の保証はありません。それならば…とその日から掲げたのが、「いないと困る人になろう」という目標。スタンドプレーで目立つのではなく、かゆい所に手が届く細やかな努力を日々コツコツと積み重ね、職場の中で確かな存在感を得られるよう努めました。

さらに、農学部にあたる生命環境科学部で学んだ私は、畜産科や水産科出身者とは異質なので、その“異質さ”をかえって強みにできないかと考え、府立大で学んだ栄養学、教育分野等の知識を活かす形で、動物看護師をはじめとする複数の資格も取りました。

生来、「少し人と違う」ポジションに自分を置くのを好む私。海遊館では、意図的に「人と違う点」を見つめる発想を武器に、自分の存在をアピールできたと思います。

 

■「ニフレル」で働く魅力

水族館を新たに立ち上げる経験は、誰もが味わえるものではありません。「感性にふれる」をコンセプトとし、地球が育む多様な生命の魅力を、映像や音楽、空間構成すべてを動員した「インスタレーション」と呼ばれる展示法で表現するニフレル。そんな刺激的な新施設のスターティングメンバーに選ばれたことは、私の自信につながり、子どもの頃からの夢を叶えられた実感を持てました。

海遊館は巨大な水槽で海洋環境の忠実な再現を図った施設ですが、ニフレルは対照的で、人工的な演出の中で生物多様性の不思議さ、面白さとふれあえます。「いろ」「わざ」「うごき」「すがた」など7つのテーマの展示ゾーンで、1個体ずつが奏でる多様な個性を、ぜひ、楽しんでください!

 

■いま、力を注いでいること

水族館や動物園は教育、レクリエーション、調査研究、自然保護の4つの役割を担うとされています。いまの日本の施設ではレクリエーションの比重が大きく、他の役割に割くエネルギーが小さいように感じます。

私は特に教育機能である「生き物たちの魅力を伝える」役割に力を注ぎたいと考え、海外の教育プログラムなども参考に、来館者の皆さまへ伝わりやすくアピールしたり、確かなコンセプトに基づくイベントを考えることなどに力を注ごうと思っています。ニフレルで生物の多様性に感動し、さらにお伝えするお話で生き物が大好きな子ども、生命を尊ぶ子どもが増えていくなら素敵ですね。

■生き物の「幸福」について

最近、人間の幸福の指標であるQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を生き物にも適用する考え方が広がっています。それに関わる概念のひとつが「環境エンリッチメント」で、選択肢をなるべく増やすことで動物たちの生息環境を豊かにしようという発想です。ここでいう選択肢はたとえば餌の種類。捕食行動を中心に生きる野生動物に比べて、動物園等の生き物は捕食のために命を賭ける必要がない分、生活にハリがなくなり、ストレスが生じる場合もあるので、いつもと違う餌を与えるなどで刺激を与え、活気づかせてやる。それがエンリッチメントです。

例えば、ニフレルのホワイトタイガーにも、虎のぬいぐるみをおもちゃにするなどで刺激を与えています。気をつけたいのは、「檻に閉じこめられてかわいそう」といった人間の価値観で考えてはいけないということ。彼らには彼らなりの「幸福」があり、個体ごとに異なるそれを細やかに感じとってやるのが、飼育員の役割だと考えます。

 

■動物園や水族館で飼われる生き物が「かわいそう」だという声に対して

先述のように、「かわいそう」という感情はあくまでも人間の尺度によるものです。日々生き物と向きあう専門家は感傷に流されない学術的な立場から「動物の幸福」を見つめています。

私は飼育環境で暮らす生き物を見て「かわいそう」という人がいたら、具体的にどこをそう思うかをお聞きし、改善すべきであれば改善していますが、人間の尺度とは異なる「幸福」が生き物たちにはあるというお話をしています。広い空間があったとしても、狭い空間に入り込むことを好む生き物もいるのですから。

 

■生き物をめぐる文化差について

府大生の中には動物実験に心を痛めた経験をお持ちの方もいるでしょうが、たとえば大切に育てたコオロギを動物の餌にする場合は、それを自然の営みの一部と考え、受け入れるほかない。ある生き物が食べられることで他の生き物の命をつなぐ尊さ。魚を食べものと考える日本人は「動物」の中に魚を含まないことが多いですが、欧米で「アニマル(動物)」というと当たり前のように魚も含まれます。

このような文化の違いが時には、国際的な問題に発展することもあります。生き物をめぐる意識の差を埋めるうえで重要なのは教育。だからこそ、私は幅広い知識を得る、多様な考え方を知るという意味での教育を重視したいのです。

 

■大阪府立大学で学んだ知識で、特に役立った「専門性」

私は微生物学研究室で、人間に有益なカビについての研究を経験しました。その知識を「生き物たちの腸内環境を整える餌」に活かそうとしています。食物や環境への配慮で病気を未然に防ぐ。この行為は、獣医になって治療をする以上に、生き物たちを幸福にできるだろうと考えます。その意味でも、夢を飼育員に切り替える機会を与えてくれた大阪府立大学には大いに感謝しています。

 

■選択肢が多いことの幸福

動物園の動物が同じ場所をグルグル回るようなストレス行動を示した場合、いつもと違うオモチャを与えて刺激するなど、選択肢を増やすことで生き物の「幸福感」を高められるだろうと考えられています。

動物たちよりもずっと多くの選択肢を持つ人間。選択肢の多さにかえって不自由さを感じる人もいるでしょうが、生き方を自由に選べることはやはり幸福です。数多い選択肢の中から、飼育員という夢を見つけた私は、それを全力でつかみとったからこそ、充実した日々と出会えました。皆さんにも、大学在籍中に夢を見つけて、意義深い学生生活を過ごしてもらえたら素敵ですね。

夢こもんずの様子

【取材日:2017年1月14日】

 

棚田さんの勤務するニフレルの取材記事はこちら!


開館前のニフレルにMICHITAKERsと獣医学類生が潜入!(棚田さんもちょこっと登場!)
http://michitake.osakafu-u.ac.jp/2016/12/28/nifrel/


「自然に触れ合う喜びを」ニフレル館長 小畑 洋さん
http://michitake.osakafu-u.ac.jp/2016/12/28/nifrel_obatahiroshi/