大阪府立大学では2018年度に学士課程の改革を行い、これまでの生命環境科学域 自然科学類を募集停止とし、4月より新たに「理学類」が設置されます。自然科学類からの3課程(物理、分子、生物)を受け継ぎ、そして新たに「数理科学課程」が設置されます。
http://www.osakafu-u.ac.jp/academics/college/cleas/ss/cms/

数学とその応用を学び、表層の奥に潜む真理の探究に挑む学問、それが「数理科学」。

来年から始まる新たな学び舎の構築に向けて、担当する各教員も準備にいそしんでいます。

そんな教員の、数学への思いや受験生・学生への期待をお伺いしようと、数理科学課程を担当する入江教授の研究室にお邪魔し、お話をお伺いしました。

 

◆プロフィール
入江 幸右衛門(いりえ こうえもん)

研究分野:幾何学
研究テーマ:多面体積のトポロジー

滋賀県出身。京都大学理学部を経て、1980年大阪市立大学大学院理学研究科前期博士課程数学専攻修了。1982年同後期博士課程中途退学。同年より京都大学助手。大阪女子大学助教授・教授を経て、2005年より大阪府立大学理学系研究科教授。2015~2016年度理学系研究科長を務める。

 

– 数学に興味を持ったきっかけは何ですか?

きっかけは小学校の時に読んだ、算数がどれだけ役に立つかを説明した豊臣秀吉が主人公の本でした。米俵を早く数える方法(=n(n+1)/2)や、物が倍々に増えるとそのうちにいかに大きな数になるか(2n-1)など、刺激に溢れていました。物語や小説は全く読まなかったのですが、理系の本は当時から好きでした。

実家は酪農をしており、勉強せよと怒られた事はありませんでしたが、家の手伝いをせよとよく怒られたものです。畑に出たり、牛の乳しぼりをしていました。

数学の道を決めたのは高校の時です。私は数学・理科2科目・地理は出来ましたが、英語と国語がまるっきりダメで完全に理系だったんです。そのうちの物理や化学は自分にはどうも暗記物に感じたのですが、その点数学は思考を発展させて楽しめて、バリエーションも作れて…そんな、自分だけで遊べる世界に惹かれていきました。

 

 

– 先生の研究テーマは何ですか?

説明が難しいですね…。というのも、私の研究対象はこの世にないものだからです。

簡単に言うのであれば幾何学(図形を研究する学問分野)で、その中に柔らかい幾何学(トポロジー・位相幾何学)と呼ばれる分野があります。通常、2つの三角形があればピタッと重ならないと皆さんは同じものとは思わないでしょう(ユークリッド幾何)。しかし、トポロジーというのは「連続的に変形して移りあうものは同じものとみなして下さい」という考え方です。

例えばドーナツが連続的に変形してマグカップになる。これはトポロジー上では同じものと見なします。ではこのドーナツとマグカップは何が等しいのか。先ほどの三角形のケースのように、辺や角度が等しいなどの特徴付けが必要となります。このトポロジーの理論では、それは穴の数(ドーナツの穴とマグカップの取っ手)なんです。

さらに、この穴の数とは何かを、代数化を用いてきっちり意味する様に定義していきます。これは柔らかい幾何学の中の「代数的位相幾何学」の分野になるのですが、私はさらにこの代数的位相幾何学の中にある「ホモトピー論」という、図形の変形を直接的に扱う分野の研究をしています。

やはり説明が難しいですね(笑)

 

– 数学は社会のどんな場面で使われているのでしょうか?

数学の大切な役割は、理論・解析のための「言葉」と「道具」を諸科学に提供している事にあります。例えば、今みなさんが携帯電話等で位置情報を知るGPS。この機能を使うには正確な時間を知る必要があり、人工衛星と地上とでの時刻を補正する為にアインシュタインの相対性理論が用いられております。

ところが、もともとこの相対性理論ではリーマン幾何学を使っているのです。このように数学は諸科学の前を走り、諸科学は数学を応用していくのです。

また、理学と工学の違いは何か?私が思うに、工学とは先に「解決したい問題」がありそれを解き明かす学問ですが、理学は「自分たちが面白いと思った問題」を解き明かす学問です。これだけを聞くと「理学って世の中的に意味があるのか?」と思うかもしれません。しかし科学の歴史はそうやって進歩して来たのです。面白いと思って進めた研究が役立つものに繋がる、理学や数学にはそんな伝統があると思います。

– 2018年度から理学類 数理科学課程が新設されます

これは非常に意味のある事だと思います。理学と工学の違いについて前述しましたが、明治の、まだ日本が途上国と呼ばれていた頃は医学・工学・農学といった応用系学問が発展しました。理学などの基礎系はその後に進んできたこともあって、現在日本の研究者は理学よりも工学分野の人数がずっと多いのです。逆に、ヨーロッパやアメリカでは理学分野の研究者が多く工学が少ない。

また、アメリカの大学では「数学」という学問の中に純粋数学を扱う数学科と、統計学科、応用数学科の3つの学科が置かれていることが多いです。しかし日本では数学科のみの設置がメジャー。日本の伝統の中で統計学科や応用数学科はまだ弱く未開拓な分野なのです。
ですが、逆にこの分野はここ最近非常に需要が伸びてきています。そこに府大がチャレンジしていく事で今後日本の為になる動きが作れるのではないでしょうか。

 

また、数学を学ぶ事で論理的思考力が付きます。応用数学を学んだ学生は企業から見たら「即戦力」と映り、重宝される事でしょう。

数理科学課程には、数学が好きな、一日中数学の問題を考えていても飽きない学生にぜひ来てほしいものです。解けない問題を一日中考えて、でも解けなくて、それでもがんばり続けて。そういう状態が何日も続いて、あるときふっと解ける瞬間が訪れる。そんなプロセスを学生たちには存分に味わって欲しいと思います。

ペレルマンという数学者が、「ポアンカレ予想」という100万ドルの懸賞が掛かった問題を解きました。でもその賞金は辞退しました。その時に彼は、「ポアンカレ予想を解決する段階で十分な喜びを得ている。その上に金銭も名誉も要らない。」と言ったそうです。私達数学者の研究はまさにこの言葉に尽きるのではないかと思います。

 

 

– 高校生の皆さんにエールをお願いします

喜びも悲しみも、成功も失敗も、誇らしい事も恥ずかしい事も、全てを含めて青春で、長い人生の中で二度とは来ない貴重な瞬間です。それらはきっと皆さんの今後の人生を豊かにしてくれるはずです。

理学のそれではないですが、目的のある勉強だけが大学での学びではありません。「やりたいこと」と「しなくてはならないこと」は必ずしも揃える必要はなく、別々のものとして追求していても大学生のうちは構いません。いずれその二つが重なる時が訪れます。

社会に出て就職すると、自身のやりたい仕事ができる場面は予想よりも少ないと思います。しかし、皆さんが若いうちに経験したことが多様であればあるほど、他者とは違う目線で物事を見られるようになっているはずです。その中から自分のベストを探っていっていただきたいと思います。

 

【取材日:2017年7月12日】 ※所属は取材当時