バイオサイエンスの基礎となる「タンパク質」を学んで、
社会に笑顔を増やすバイオ創薬分野で活躍して欲しい。

藤井 郁雄 教授
大学院理学系研究科 生物化学専攻、薬学博士、大阪府立大学キーパーソン教授大阪府立大学ケミカルバイオロジー研究所所長

 

自然現象の本質を解明し、その理解を学ぶ自然科学類(2018年4月からは理学類)。将来は科学者や研究職として活躍し、社会に役立つことを夢見る学生たちが大勢学んでいます。

今回ご紹介する授業は、3年生が対象の「タンパク質化学」。生物の重要な構成成分であるタンパク質の化学構造や働きを分かりやすく学べます。

最初に、この授業を受け持つ藤井郁雄教授(大学院 理学系研究科 生物化学専攻)に、授業の目標や全体像をお伺いしました。

 

分子やDNAのレベルで生物学を考える「基礎力」を育てます。

生物学と聞いて、葉っぱの色や形の違いなどを研究する形態学や博物学を連想するかも知れませんが、タンパク質にスポットをあてて生命現象を解明する分子生物学が1960年代に盛んになってから、生物学の概念は大きく変わりました。遺伝子工学やコンピューターの進歩がそれに拍車をかけ、現代の生物学はタンパク質やアミノ酸、分子構造といった言葉で語られるものになっています。

この授業は、そんな現代の生物学(バイオサイエンス)を学び、研究するうえで基礎となる「タンパク質の化学構造や分子構造」を理解してもらうためのもの。分子やDNAのレベルで生物学を考えられる力を身につけてもらえます。

生物専攻の学生は1年生で化学を、2年生で有機化学を学んでもらえるカリキュラム構成になっていて、その締めくくりにあたるのが、この「タンパク質化学」です。

注目されるバイオ医薬品につながる知識も教えます。

生物がつくる細胞やタンパク質などを利用する薬をバイオ医薬品と呼びます。人体がつくる分子の構造と似ているため、高い治療効果を持ち、従来の医薬品で改善できなかった病気にも効果が期待できます。

タンパク質を学ぶことは、人類に恩恵をもたらすバイオ創薬に役立ちますし、大阪府立大学は高い薬効と安い製造コストを併せ持つ「中分子医薬」の研究で成果をあげるなど、バイオメディカル分野で先進的な姿勢を持つ大学ですから、医薬品メーカーの研究職を志望される皆さんには、本学でタンパク質を学んで、社会に笑顔を増やすバイオ創薬の基礎力にしてもらえれば、うれしいですね。

そんな想いを込めて、この授業では免疫システムや抗体などバイオメディカルの基礎となるようなテーマに重点を置いています。「免疫とはなにか」から始まり、抗体ができるプロセス、その化学的性質などを段階的に学んでもらい、最後には抗体医薬品やインフルエンザウィルス検出で活躍する微量検出法など、「抗体を応用するバイオメディカルの世界」へとご案内します。

 

府大は「生物学で誰かの幸せに貢献したい」の夢に応えられる大学。

バイオ創薬を詳しく学べる大学は、大阪府立大学だけではないでしょうか。医薬品売上の上位をバイオ医薬品が占める現在、医薬品メーカーもタンパク質構造を対象に薬を創れる人材を求めています。遺伝子解析・タンパク質解析の最新設備など、バイオサイエンス分野の充実ぶりを誇る本学は、「生物学を誰かの幸福のために役立てたい」と夢見る皆さんの、その夢にお応えできることでしょう。

 

では、実際に授業をのぞいてみましょう。とある日の「タンパク質化学」講義内容を、ご紹介します。

1億種もの抗体が私たちを守っています。

抗体には多様な抗原(細菌やウィルス等)と結合できるよう、アミノ酸配列を変化させる可変領域と、変化が少ない定常領域があります。可変領域はとても多彩な遺伝子を持ち、その乗数から、私たちは1億種類もの抗体を体内に持っているとされます。

以前は体内にウィルス等が侵入すると、それに応じた抗体が生みだされると考えられていましたが、ウィルス学者のバーネットが「きわめて多様な抗体が最初から用意されていて、侵入したウィルスに応じて選ばれる」との説を1957年に提唱。侵入した抗体に応じたB細胞(免疫応答に関与するリンパ球)が選ばれて増殖し、抗原に対抗できる抗体を生産するという考え方で、現在、この「クローン選択説」は基本的に正しいとされています。

また、膨大な種類の抗体が存在する「抗体多様性」の謎を解明した利根川進先生は、この研究で1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

 

免疫力が次第に高まる理由とは?

免疫システムには、もうひとつの絶妙な仕組みがあります。侵入した抗原が最初に出会う抗体の防衛力(抗原と結合して除去する力)はけっこう弱いのですが、抗原と結合するとB細胞が増殖。増殖を繰り返す中で生じる突然変異によって防衛力の高いB細胞が次第に増えていくことで、私たちの健康は守られるのです。この仕組みを「親和性成熟」と呼びます。インフルエンザが流行するひと月前にワクチンを接種しておくと有効なのも、このためです。

 

抗体の働きを応用した医薬品が急成長中。

抗体の働きを病気の予防や治療に応用する「抗体医薬品」への期待が高まっています。2014年の医薬品売上の世界ランキングには6種もの抗体医薬品がトップ10にランクイン。従来の低分子医薬品では効果が得にくかった疾患への効果が認められるなど、抗体医薬品には豊かな可能性があります。
ほとんどの薬学部は低分子医薬品が中心。バイオ医薬品を本格的に学べるのは本学だけだと思いますので、ぜひ、抗体医薬の基礎となるタンパク質化学をこの授業でしっかり学んでいただき、この中からバイオメディカル分野で活躍する人材が現れることを心から期待しています。

 

抗体医療を見いだしたのは日本人!

抗体医療を最初に見いだしたのが日本人だったことを、ご存知でしょうか。その人の名は北里柴三郎。1885年にドイツへ留学し、細菌医学の祖であるコッホに師事。「破傷風にかかったウサギの血を別の健康なウサギに注射すると、そのウサギは破傷風にかからない」ことを発見しました。

彼はさらに、医学者のベーリングと共同で「ジフテリアに対する血清療法」を研究。加熱して弱毒化したジフテリア毒素をウサギに打つことで抗体を生産させるという、現在のワクチン療法の基礎を確立しました。ちなみに、ベーリングはこれで第1回ノーベル生理学・医学賞を受賞しましたが、東洋人である北里はその栄誉に浴せませんでした。でも、いまでは世界中の医療関係者が「抗体医療の生みの親は北里である」と、その功績を認めています。

北里が発見した抗体医療。それが安全なバイオ医薬品に応用されるには、タンパク質工学の発達を待つ必要がありました。それが「いま」なのです。抗体をどのように薬に応用するかは、次の授業でお話しましょう。

 

【取材日:2017年6月7日】 ※所属は取材当時