2017年7月14日、現代システム科学域の3つの学類の垣根を超えた学域共通科目、「環境とサステイナビリティ」がUホール白鷺にて行われました。

取材したこの回は、大塚耕司教授が担当する「環境共生科学の視点」の一環として、ゲストスピーカーに株式会社ユーズの代表取締役、またTOKYO油田プロジェクトリーダーを務める染谷ゆみさんをお迎えした講義でした。

染谷さんは東京に眠る1万トンの廃食用油を燃料としてよみがえらせ、東京を油田にするという活動をされており、アメリカのTIME紙が2009年に特集した「世界の環境の英雄たち」の一人にも紹介された方です。

それでは、実際に授業をのぞいてみましょう。

“街を油田に! 眠れる資源を発掘中!!”のコピーを掲げた「TOKYO油田プロジェクト」は、2007年から10年間のプロジェクトとして行ってきました。このプロジェクトを通して、環境のこと、未来のエネルギーのことをお伝えしたい、そこからみなさんが将来へのヒントを得て欲しい、と思ってお話させていただきます。

私がTOKYO油田プロジェクトを進めるモチベーションは、環境問題の解決にあります。環境破壊が進む現代において、私の実家は油屋を営んでおりましたので、「油」を通して環境問題を解決するという思いを掲げ活動しています。

東京に眠る1万トンの油田。そう、「TOKYO油田」とは、使用済み天ぷら油のことです。全国の使用済み天ぷら油の量は、飲食店などで出る産業用油は年間約20万トン、家庭から出る家庭用油は年間約10万トンです。昔は約20万トンとも言われていましたが、家庭での揚げ物が減っていることと、高齢化が進み高齢者はあまり油物を食べないということが影響して減少しています。

産業用油には回収義務がありますが、実は家庭用油には回収義務がないため、この使用済み油のほとんどが廃棄されています。全国約10万トンの家庭用油のうち、東京都のそれは約1万トン。この、廃棄されてしまう1万トンの油を回収・再利用し、資源化することを目標に、私は「TOKYO油田」プロジェクトを立ち上げました。その先にあるミッションは、油のリサイクルを通して環境問題の解決につとめ、維持可能な資源循環型社会をつくることです。

使い終わった植物油で車が走るということは皆さんも知っていると思いますが、実は油で石鹸も作ることが出来ます。最近は合成洗剤が主流になっていますが、石油系の合成洗剤は分解されにくいという環境に対するリスクがあり、環境に優しい石鹸を使おうという動きが活発になりつつあります。

また、油でキャンドルもつくることもできます。キャンドルは、ワークショップやキャンドルナイトなどの形で油リサイクルの周知に役立つアイテムですが、災害時などの電気がない状態でも、植物油(天ぷら油)があればロウソクを作って灯りを確保できます。使い方によってはお湯をわかすこともできます。植物油は防災の備えにも有効なのです。

私たちの活動が注目されるようになったきっかけは、1993年に世界で初めて使用済みの天ぷら油を使ったバイオ燃料で車を走らせることに成功したことです。その流れで、軽油代替燃料として天ぷら油リサイクル燃料:VDF(Vegetable Diesel Fuel)を開発・販売しました。このVDFは軽油代替燃料として非常に優秀で、メリットとして軽油使用時と比較して1リットルあたり2.62kgのCO2を削減できる、酸性雨の原因となる硫黄酸化物が発生しない、黒煙が1/3から1/2に減る、車の改造は必要ない等があり、今ではバスなどの公用車の燃料に多く使われています。

また、家庭で廃棄されてしまう膨大な使用済み天ぷら油を少しでもロス無く回収するために、行政や民間とタイアップして回収ステーションを設置しつづけています。ペットボトルは1997年当時、ほぼリサイクルされていませんでしたが、現在のリサイクル率は9割を超え、使用済みのペットボトルを回収することはもはや当たり前になってきました。そのように、使用済み天ぷら油も回収することが当たり前、身近に回収ステーションがあることも当たり前の社会にしていきたいと考えています。2008年4月の活動開始以降、今では首都圏内に約500箇所設置されています。とはいえ、私の目標は東京中の油を一滴残らず回収して資源化することですので、まだまだ増やして行きたいなと思っています。

また最近ではイベントなどで発電機燃料としてそのバイオ燃料が使われることが増えています。たとえば「目黒川みんなのイルミネーション2016」では11/21から1/9までの約50日間、全長2.3kmのイルミネーションにかかる電気を地域から出た使用済み天ぷら油から全てまかなうことができました。

発電への用途が増える中、墨田区に9.9kw/hの実験用発電所を作って24時間365日発電を続け、課題や問題点などを研究し、改良を重ねました。その結果、今までは精製加工が必要であった使用済み天ぷら油をそのままの状態で燃料にできる新たな発電機の開発に成功しました。この発電機はいま、145kw/hの発電所として群馬県で稼働しています。そして、この電力を皆さんにお分けしたいという思いから「株式会社TOKYO油電力」も立ち上げ、電気の販売も始めました。

私の当面の目標は「油田王」になること、そして2020年の東京オリンピックでは選手村から出た油でバスを走らせたいなと思っています。

とはいえ、天ぷら油で車を走らせたり、発電したりするのはあくまで時代のワンステップであって、学生のみなさんが高齢になった頃、いやもっと早いかもしれませんが、将来には全く違うエネルギーができていると思います。それはきっと、受け身の状態で与えられるものではなく、自分たちで選択するからこそ生まれていくものだと私は思います。

自分たちが何を選択するかで自分たちの未来が決まる。自分で選ぶことで社会がそちらに進んで行く。それが環境をとりまく「これからの世界」です。

まだ若いみなさんは、ぜひ「選択すること」の重要さも考えながら、学びを進めていってください。本日はありがとうございました。

【取材日:2017年7月14日】 ※所属は取材当時