2017年7月20日に中百舌鳥キャンパスで行われた公開講座「関西経済論ⅩⅩⅢ」に、本学の工学部経営工学科卒業で、金属熱処理の専門企業である株式会社東研サーモテックで代表取締役会長を務められている川嵜 修さんが登壇されました。

講演タイトルは『東研サーモテックの事業展開と海外戦略』。

20年以上にわたる社長業と海外戦略を通して得られた知見を語っていただきました。

◆プロフィール

川嵜 修(かわさき おさむ)
株式会社東研サーモテック 代表取締役会長

昭和20年大阪市生まれ
昭和44年3月 大阪府立大学 工学部経営工学科 卒業
平成27年11月 旭日小綬章 受章

冒頭の本学での思い出話では、4年間水泳部に所属し、授業では学べない先輩を敬う気持ちや、物事をやり切る気持ちを学んだと語ってくださった川嵜さん。

様々なお話をいただきましたが、ここではその中から特に厳選した3つのトピックスを紹介します。

関西経済論川嵜修さん01

■ 何事も成功するまでは不可能に思えるものである(南アフリカ共和国 指導者 ネルソン・マンデラ)

金属熱処理業界では高い地位を築いていた東研サーモテック。現状に満足することなく、新たな事業に選んだものはコーティング事業でした。
最先端技術であったコーティングは製品強度を高めるという点において熱処理と共通しており、是が非でも新規事業として成功させたい分野でした。

しかしながら最初は品質が安定せず、お金になるようなものではありませんでした。顧客の獲得が難しく、社員までもが見切りをつけ、一人、また一人と東研サーモテックを去っていきます。
「今の設備では品質が安定しない。背水の陣で臨むので、最新の設備を入れてほしい」という社員の熱意に動かされ、川嵜さんは経営者としての覚悟を持って投資を決めました。
この投資が功を奏し、品質が安定するようになり、様々な分野でお客さんにコーティング技術が採用され、危機を乗り越えることができました。

川嵜さんがこのチャレンジから得た教訓が、「何事も成功するまでは不可能に見えるものである」という言葉でした。

関西経済論川嵜修さん02

■ 疾風に勁草を知る(しっぷうにけいそうをしる)

事業の基本は小さく始めて大きく育てる。しかし、熱処理工場は初期投資額が大きく、事業を小さく始めることが困難な業態です。これこそが熱処理企業の海外進出を阻む大きなハードルになっていたのですが、それを乗り越えたのが東研サーモテック。
ただ、初期投資の問題以外にも各国で大きな問題が続発しました。
特にマレーシア工場は、設立直後にアジア通貨危機に襲われ大赤字。マレーシアから撤退することも頭によぎったそうです。しかしここで諦めなかったのが当時社長であった川嵜さん。
徹底的なコスト管理、営業を強化し、耐えに耐えて無事この危機を乗り切りました。
このときに川嵜さんが先輩経営者から教えられた言葉が、「疾風に勁草を知る」でした。

疾風に勁草を知る
激しい風が吹いて初めて強い草が見分けられること。
転じて、困難に遭ってはじめてその人間の本当の価値、本当の強さが分かるということ。

■ ブーメラン効果

ブーメラン効果とは川嵜さんが海外進出で得られた効果に名前をつけたものであり、事業面と人材面の二つの効果がありました。

事業面の効果は、海外進出先で知り合った日本企業に、日本国内の工場で新規取引を開始してもらえたことでした。
海外に進出する前は、顧客の大半が関西圏の企業でした。しかしながら、海外でビジネスを共にした人が日本に戻ってから、国内での仕事を発注してくれることによって顧客が全国に広がり、国内におけるシェアが高まりました。
これが海外進出をすることによって海外の売り上げだけでなく、国内の売り上げも上がるという、事業面のブーメラン効果です。

人材面の効果というのは、若いうちに海外で管理者として幅広い経験を積み、成長した社員が、日本に戻ってから管理者として活躍することです。
やんちゃで日本の事業所では手を焼くような人が、海外では水を得たように活躍する事例が多々あるそうです。そして海外赴任前よりも何倍も大きくなって日本に帰ってくる。これが人材面でのブーメラン効果です。

関西経済論川嵜修さん03

川嵜さんのお話を伺っていると、水泳部で学んだ、チャレンジすること、困難に面しても状況を冷静に判断し、最後までやり切ること。これらが、その後の川嵜さんの人生を支えているように感じました。

川嵜さん、ご多忙の中のご講演、本当にありがとうございました。

◆株式会社東研サーモテック

昭和2年に関西熱処理業界の草分けとして創業、平成3年に現社名である「株式会社東研サーモテック」に社名変更。一般的な金属熱処理に加え、薄膜形成処理(コーティング)を他社に先駆けて事業化、その後、大きな事業に成長。

また、国内だけでなく、タイ、マレーシア、中国、メキシコにも事業所を保有。特に平成7年に、熱処理業界として初めて海外に進出、設立したタイトーケンサーモ(株)は、従業員数 約1,200人の大きな事業所に成長。

“「Harmony with…」 私たちは価値を協創し、材のセンスを活かします”を企業理念に事業を展開。

◆参考サイト

株式会社東研サーモテック
http://www.tohkenthermo.co.jp/

大学サイト:本学卒業生・名誉教授が平成27年秋の叙勲を受章
https://www.osakafu-u.ac.jp/news/nws20151209/

大学フェイスブック:府大高専「企業研究セミナー」で東研サーモテック社もブースを
https://www.facebook.com/OsakaPrefectureUniv/posts/573195106166816

【取材:右 大輝(現代システム科学域マネジメント学類)】

【取材日:2017年7月20日】※所属等は取材当時