2018年度より現代システム科学域 マネジメント学類の中に新設される「経済データサイエンス課程」。この課程では、高度化・複雑化する社会環境において社会経済のメカニズムを理論的に捉え、かつデータに基づいて分析・意思決定ができる人材を養成することをめざします。

では具体的に、どのような教員陣がどのような人材を養成し、そしてどんな人に来てもらいたいのか?経済データサイエンス科目を担当する3人の教員が集い、それぞれの研究テーマや経済データサイエンスに関心を持ったきっかけなども踏まえ、教育・研究・人材養成像などを語り合いました。

[出席者] ※左から

立花 実(たちばな みのる)准教授
【専門分野】金融論
【研究テーマ】金融政策に関する実証研究 等

鹿野 繁樹(かの しげき)准教授
【専門分野】計量経済学
【研究テーマ】マイクロ計量経済学、パネルデータ分析 等

牛 冰(NIU Bing/ギュウ ヒョウ)准教授
【専門分野】計量経済学
【研究テーマ】医療経済学の実証的研究、メンタルヘルスにおける親子世代間の影響、健康保険組合の財政 等

経済データサイエンス課程が設置されることになった、社会的背景について

――では最初に、現代システム科学学域マネジメント学類に、経済データサイエンス(以下、「経済DS」)課程が設置されることになった、社会的背景を教えてください。鹿野先生は牛先生とともに経済DS科目を担当し、新課程のチームリーダー的立場とお聞きしています。

鹿野 「経済DS課程」は、名前の通り「経済学」と「データ」の両方を勉強する課程です。その背景には、データ(ビッグデータ)の分析(観測・記録・解析)ができる人材が国レベルで強く求められているということがあり、最近では経済産業省、総務省などが先頭になって、国を挙げてそんな人材を育てようという動きが強まっています。例えば、今年度から各省庁がデータの分析専門官を配置することが決まるなど、データ分析に関する関心は高まっています。

国の省庁に限らず、民間企業にもその傾向はあり、書店の店頭にはデータ分析に関する本がたくさん出ています。またビジネス界だけでなく、いろいろな分野でデータの分析を行って得られた「統計的エビデンス」(証拠、根拠)で正しいかどうかを判断することが一般的になってきています。

例えば医療分野はデータで効果を示せた薬でないと売れませんが、最近では教育分野でも、なにかのデータに基づいて効果がある教育手法でないと取り入れられないといったことが広まってきています。他にも行政や司法のほか、歴史、芸術、文学の分野においてもデータ分析が取り入れられるようになってくるなど、データ分析スキルのニーズが高まってきています。

よく引用されるのですが、ハル・ヴァリアンというアメリカの経済学者(ミクロ経済、カリフォルニア大学バークレー校経済学教授、Googleチーフエコノミスト)が2009年のあるメディア取材の中で「統計学者こそ、今後10年間で最もセクシーな職業」という言葉を残しています。また西内啓氏の著書『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社、2013年)も注目を集めています。

世界中で不足するデータ・サイエンティスト、日本はデータ分析面では途上国

鹿野 では、データ分析ができる人材の需要が高まる一方、供給の方はどうかというと頼りない面があり、世界中で不足しているのが現状です。ですので、いろいろな国の大学でそんな人材を養成する学部が増えています。例えば、カルフォルニア大学サンディエゴ校では、統計学の分析と経済学の両方を分析できる人材を育てるコースができました。

実状として、この表(次の表)は、データ分析能力のある大卒の数(統計を扱う学部の卒業生)を人口で割ったものです。卒業者一人当たりにすると、アメリカは8.11ぐらいで高くありません。ポーランド、イングランド、フランス、ルーマニアなどが比較的高いのです。これに対して日本はどうかというと、ランクで言えば下の方にありまして、2.66となっています。日本というのは、データの分析ができる人材の輩出という面では途上国であるということが分かります。

大阪府立大学が設置する「経済DS課程」の特色は何か?

鹿野 本学の「経済DS課程」では、経済学の中にデータ分析ができる人材をトレーニングするコースを作ります。ポイントとしては、数学ができる人が統計をやるというタイプの人材ではなく、数理分野のなかにいる統計学者とはまた別な人材を育成すると捉えています。

統計のスキルはもちろん必要で、プラス、経済やビジネスの視点の両方を併せ持った人がいま強く求められており、データ分析のスキルだけではなく、そのスキルを現実の世界にどのように使うのか、ということに目を向けていきたいと思っています。

立花 最近はソフトウェアが発展し、文系といわれる学問分野の学生でもデータ分析ができるようになってきました。ですから数学が得意な学生だけではなく、文系学生でもこの新たな課程でデータサイエンスの学びが十分可能であるということです。

歴史や考古学の分野でもデータ分析が不可欠なスキルに

――確かに、最近は歴史の分野でも、データ分析が使われるようになりましたね。

鹿野 はい。例えば、古い言葉で書かれた古文書を読みとって電子的なデータに起こし、字体や書き方の分析を行っています。古文書で誰が書いたか定かでない文章があったりしますが、一方で、誰が書いたか分かっている文章がある。それを、文法の使い方、単語の使い方などを統計的に比較して大体何%の確率で合っているかとかということが分かるのです。

鹿野 考古学の分野でも新しく発掘された頭蓋骨が、どの人種に当てはまるのかを統計的に判断するというやり方が当たり前になっています。

――幅広い分野で使われているのですね。他の大学でもデータ分析の学科や課程があるのですか。

鹿野 滋賀大学では、今年4月からデータサイエンス学部が設置されました。全般的なデータサイエンスで、もちろん、経済、ビジネス、ファイナンスなどが含まれるだけでなく、それ以外にも気象(天気)、医療なども対象にし、データ全般を扱うのが特徴です。一方で我々は小規模課程として、「経済・ビジネス」だけに着目しています。

ITの発達がデータ分析の研究をスムーズに

――現代システム科学域マネジメント学類の中に、この課程が必要だという認識が高まったのはいつ頃でしょうか。

鹿野 基本的に、経済学や経営学は昔からデータを扱う学問分野でありますが、日本では海外に比べてデータの勉強をしない傾向がありました。海外のエコノミクスやビジネスの学部ではそれは必修で、パスしないと経済学の学位を取ることもできないのです。一方で日本はそれがなくても学位を取れてしまう。そんな環境がありましたので、データ重視の国際水準に合わせたいという認識は兼ねてからありました。そういう意味では国際化に対応するという視点からも、必要性が徐々に問われてきたということです。

 もうひとつの背景には、海外では公式なデータが一般にいろいろと公開されているのに対し、かつての日本にはデータが一般に公開される環境になく、大学の教員をはじめ、博士課程の研究者しかそれらのデータを使うことができないなどという状況もありました。しかし最近は様々なデータの解禁が徐々に進み、学部の学生でもいろいろなデータを卒業研究や授業等で使えるようになってきたこともあります。

――先ほど、立花先生が指摘されていましたが、コンピュータのハード・ソフトウェアが発達したのも、データ分析の研究をスムーズにした大きな要因ですね。

鹿野 そうですね、私が学生だった頃は、簡単な統計を計算するのにもすごく時間がかかりました。今は、フリーのソフトウェアでものすごい分析ができてしまう時代です。そういう意味でIT技術が進んだことはデータ分析研究が普及した大きな要因です。また牛先生がおっしゃっていた、以前と比べてデータがかなり公開され、すぐにアクセスできるデータが増えてきていることも大きいです。ただ記録されただけの、言わば手つかずのデータがいっぱいあるのに、まだそれを分析する人が少ないということです。

【次テーマ】新課程ではどのような科目で学び進めるのか。教員スタッフは。

3教員座談会/こんな学生を待つ!新課程「経済データサイエンス課程」を語る(2)へ続く