前回の記事「3教員座談会/こんな学生を待つ!新課程「経済データサイエンス課程」を語る(1)」

 

新課程ではどのような科目で学びを進めるのか。教員スタッフは。

――宝の山が目の前にあるのに掘り出す人がいない。そういう人を育てたいということですね。では教員陣はどのような専門家が揃っているのか?先生方の、それぞれの研究テーマを教えてください。

鹿野 私は現在、パネルデータ、例えば1000人くらいの人のアンケートデータを用いて、その1000人を5年、10年と毎年、定点観測していくようなデータを扱って研究しています。そういうデータがあると、大学を卒業して、結婚して、子どもができて、みたいなこともずっと観測できるのです。

そうすると、ライフコースというか、例えば大学に入ったタイミングで精神的な状態がどうであるとか、結婚のタイミングで女性の働く時間がどのように変化するのかということを見ることができます。

 私は医療経済学という応用分野で実証研究を行っています。個人や企業などの個票ベースのデータを使って、医療や健康をテーマに研究に取り組んでいます。例えば、人々の健康の決定要因や、最近では精神疾患が家計に与える影響、あるいは日本の国民の医療満足度とその決定要因などです。

先ほども触れましたが、日本ではデータがなかなか公開されませんでしたが、最近はオープンにされ始めましたので、世界中の研究者に注目され始めています。これまでは国際比較しようと思っても日本の部分だけデータがないので、フィールドワーク調査で得たデータを入手して国際比較することは可能でしたが、やはり大きなデータがないと実証分析を行うことは非常に難しい面がありました。

私もこれからがチャンスだと捉えており、最新のデータを用いた研究成果を世界に発信していきたいと思っています。

今、論文を執筆しているのが国民の医療満足度です。私たち外国人から見ると、日本の医療レベルは世界トップクラスなのに、国民が現在の国の医療制度について「ほとんど改革の必要がない」と満足している割合はわずか5%しかないのです。

一方でドイツ、フランス、イギリスなどでは4割から6割の国民が現在の医療制度に満足しています。医療先進国といわれているのに満足度が低いのはなぜかということが要点です。背景はいろいろあると考えていますが、患者側の要因、医療供給側の要因、社会的要因などを徐々に明らかにしていきたいと考えています。

立花 私は、大学院時代から15年ぐらい、金融政策の実証研究を行ってきました。日本銀行が金利を上げ下げしたり、市場にお金を増やしたり、そういった政策が国内経済にどのような影響を及ぼすのかというテーマです。

また最近は研究の幅を広げようと思い、株価、為替、金利などのファイナンスデータを統計モデルにあてはめて市場間の依存関係などを検証しています。

――「経済データサイエンス課程」には、他にも様々な専門分野の方がいらっしゃるのですね。学生の求めるどのようなニーズにもこたえることのできる教員スタッフが予定されているということとですね。

鹿野 はい。多彩な研究をされている方が多くいます。経済学にはいろいろな分野があるのですが、大阪府立大学では各分野がほぼ揃っています。また、経済学とその周辺の分野の研究者、あるいはエコノミストといわれる人たちは、計量経済をまず勉強して、それを使っていろいろなデータ分析をします。今日出席した3人も計量経済学をやっています。

「経済データサイエンス」研究に道を開いた、計量経済学の面白さに気づいたきっかけ

――では、先生方はなぜ計量経済学に興味・関心をもたれたのですか。

鹿野 私は大学生の頃は、計量経済学には全く興味がなくて、学部の時に授業を受けても最初は何が面白いのか分からず、とりあえず単位のために講義を受けていたようなものですし、何のためなのかもよく分かりませんでした。

大学院に入って、経済学の別の分野を研究しようと思っていましたが、それがあまりにも難しく、方向転換をした方がいいと思い直しまして、改めて計量経済学を勉強し直したところ、自分に一番合う学問分野だとその時初めて気づきました。

それに、計量経済学や統計学は民間企業も含めて就職先が幅広いという打算的な思いもありました(笑)。転じて、現在はその研究を職業にしているので不思議なものだと思います。

 私も大学の時は、統計学の授業でレポートを書く時、統計解析の古いタイプのソフトを使っていましたが、すごく不便で難しい分野だと思っていたのです。

しかし、計量経済学という授業を受けて認識が変わりました。その担当教員は労働経済学が専門で、使う教科書は海外のものなのですが、そこで具体的な例として紹介されたのが教育分野や労働分野の様々な実例を使って分析するものでした。新しい解析ソフトも使いやすくて、結果がすぐに出てくるので面白いなと思いました。そうしてデータ分析にどんどん興味がわきまして、現在、実証分析に取り組んでいます。

「経済データサイエンス」は私たちの身近な経済を把握するのに大変役立ちます。例えば、消費税率については政府が何回も引き上げ導入を延期していますが、消費税率をどのタイミングで、どこまで引き上げるかを決めるには、景気を停滞させてはいけないという視点も重要です。

そこで、経済データ分析を通じて、消費税率の引き上げが景気にどのような影響を与えるのかを事前に予測します。政府はそれにより、科学的根拠に基づいた政策提案ができるようになるのです。他にもビジネス、医療、年金、介護、金融、労働、教育など身近なあらゆる分野で活用できますので、経済データ分析はとても興味深い学問分野だと思います。

鹿野 計量経済学は医療の発想と非常に似ていて、何かを与えたときに何か起こるのかということを見極める学問です。新しい薬を開発してそれを患者に投与したときと、投与しなかったときと、どのように健康状態が変わり、変わらないのかという考え方と、ある経済政策を計画してそれを実行したときと実行しなかったときに経済の変化がどのように違うのか、マーケットがどのように変わるのかということを考える部分が非常に似ていると思います。

 医療の分野で最近注目されているのが費用対効果分析で、海外ではイギリスが研究を一番進めています。先進国ではどこも医療費が大変高騰しており、問題になっています。経済学では資源は有限であるという視点から、どこに限られた資源を投資するべきか、コスト算出と効果予測はどうかなどが問われます。特に高齢化社会を迎える日本ではこれからニーズが強く高まる分野です。

立花 私は学部3~4年生のころ「金融とマクロ経済」のゼミに入ったのですが、ゼミの先生の専門が実は計量経済学でして、先生が担当していました計量経済学の講義を履修しました。それが、計量経済学との出会いです。とても難しかったのですが、ゼミ担当教員の講義なのでともかく一生懸命勉強をしました。

計量経済学の学問自体は難しいのですが、その知識を使って実際にデータ分析をする過程で面白いなと感じることがあります。例えばデータから新しい事実を発見したときには、「あ、見つけた!」という喜びを感じることができます。

また、先ほども話が出ましたが、一人の研究者が実際の政策に影響を与えるのはなかなか難しいのですが、自分を含めていろいろな人の研究成果が塊となって政策に影響を与えることもあります。幸運にも私もその経験をしたことがあったのですが、その時にはやりがいを感じました。

鹿野 経済データの分析を研究するうえで面白いのは、第一発見者になることができるということで、とてもエキサイティングです。例えば、世間ではこう思われているのだが、詳しく調べてみると本当は違ってこうなっているとか、そういったことを根拠に基づいて明らかにすることができます。

それは、プロの学者でなくとも、学部の学生が書いた卒論でも可能であるということが面白い分野だと思います。

 たしかに私の大学時代の指導教官が、現役の大学生の卒論でもトップジャーナルに載ることができる、やれないことはないとおっしゃられたことが印象的です。

鹿野 「経験がものを言わない」というとおかしいですが、若い人でもベテラン研究者に勝つことができる分野であるといえます。

「経済DS」の科目では、どのような内容、目的の講義が予定されているか?

――若いからこそ発見できたということがあり得る研究分野なのですね。では先生方がそれぞれ担当される経済DS科目では、どのような内容、目的の講義をされる予定ですか?

鹿野 私は1年次向けの入門のレベルと2~3年次向けの上級科目の両方を担当する予定です。1年次でデータを初めて扱う人たちの授業で、データのどこに着目すればいいのか、どういうことが読み取れるのかという初歩的なところから教えていこうと思っています。2~3年次はやや技術的というか、数学的に厳密に、そういったところを教える予定です。

 私は、「経済DS演習」という授業を主に担当します。演習の目的はデータ分析を実践的に学んで、スキルを身につけることです。鹿野先生の基礎科目などで学んだ経済DSの手法などをもとに、統計ソフトを実際に使って分析を行います。

あとは、学生がそれぞれ興味を持っている研究テーマについて、自分自身がデータを取ってきて分析をすることができるよう指導したいと思います。

鹿野 基本的な授業は大きい講義室で行うのですが、それだけだと実際にデータ分析ができるようにはならないので、グループ演習の形も取り入れたいと思っています。
もう1点付け加えると、私の基礎授業の中では、実際の経済やビジネスの問題を、どうやって統計学、データ分析で解決してきたかについて教えようと思っています。データ分析が役に立つものだということを腹に落としてもらおうと思っています。

【次テーマ】経済DS課程で学ぶ学生にはどのような力を身に付けてほしいのか

3教員座談会/こんな学生を待つ!新課程「経済データサイエンス課程」を語る(3)へ続く