前回の記事「3教員座談会/こんな学生を待つ!新課程「経済データサイエンス課程」を語る(2)」

前々回の記事「3教員座談会/こんな学生を待つ!新課程「経済データサイエンス課程」を語る(1)」

 

◆経済DS課程で学ぶ学生にはどのような力を身に付けてほしいのか

――学生にはどのような力を身に付けてほしいとお考えですか?

 経済DSを料理に例えると分かりやすいと思います。そして、学生に求められる能力が見えてきます。

「経済」は料理におけるレシピ、「データ」は材料、「データサイエンス」は実際の調理方法に当たります。まず興味のある課題を解決しようとしたときに、経済学のレシピを解読することから始まります。そこには、経済学の基礎、専門科目と応用能力を養うことが求められます。

次にレシピを再現するための材料として、実証分析のもと、データを集める必要があります。データはどこにあるのか、それはどのようなデータなのかを見極める必要があります。

さらに材料であるデータの特徴に応じた最適な調理法を選びます。この調理法を選ぶ力が、経済DSを学ぶ人たちに求められる力です。

またデータ分析を通じて、「何を見つけたか」という事も大切ですが、「なぜそれを見つけたのか」という経済のメカニズムに関する理解と議論の能力が重要なので、ぜひそれも身につけてほしいと思います。

立花 そうですね、単なるデータ分析だけでなく、経済学にも興味を持ってもらいたいですね。経済学を通じて、データの背景に潜むメカニズムや理論を学ぶことができます。「経済学」と「データの分析方法」の2本柱をしっかり勉強し、それらを有機的に結び付ける能力が望まれます。

鹿野 単にデータの分析だけを勉強してしまうと、与えられた問題を解くことができるけれど、問題を立てることができません。社会や自分が所属している身近な組織で起こっている意味のある課題を、まず「これは課題である」と見いだす、そしてそれがなぜ起こるのかという仮説を立て、周りに伝えるにはどうしたらいいかなどは経済学の役割です。

そこで醸造された問題をデータ分析で明らかにする。何かアウトプットが出てきたら、それをどのように見るかというところで、また経済学が生きてくるのです。つまり、入口と出口の部分で経済学が必要になって、その間に入るのがデータ分析なのです。

教養が豊かで芸術や歴史、医療などにも幅広い関心のある高校生に門をたたいてほしい

――入学してほしい高校生は、いろいろな分野に幅広く関心を持っている人を求めているのですね。言いかえれば、教養が豊かで、芸術や歴史、医療などにも関心のある人ですね。

鹿野 そうですね。10数年前になりますが、ノーベル経済学賞のフォーゲルとノースという人が、歴史の研究に計量経済学を初めて取り入れたとして評価されました。彼らの業績以来、1000年以上前のデータを集めて、いろいろな分析をすることが当たり前になってきています。

――考古学や歴史文献学の領域に計量経済学が大きな役割を果たすようになった。それによって、歴史的に未解決の課題の解明につながることもあるのですね。

鹿野 ある学者が日本の江戸時代のある村のデータを取ってきたのですが、それをどういう方法で入手したというと、寺が持っていた宗門人別改帳(しゅうもんにんべつあらためちょう)があり、それをデータにして研究したというのです。そのデータは、今でいう国勢調査のようなものです。それを使って、その当時の状況、例えば、飢饉が起こった時に村人はどのように対応したのかなどを分析研究しています。

またヨーロッパでは、キリスト教会が地域のいろいろな記録を持っていて、それをデータにして何か、当時のことを分析しているケースもあります。

 私の大学院時代のゼミには歴史学専門の人がおられ、計量経済学の手法を勉強しておられました。研究発表も内容は歴史のことですが、分析手法はデータを用いた実証分析で課題を明らかにしていました。

立花 分析の対象は人、社会、組織、歴史などですが、分析する手法に関しては数理的な分析が使われますので、人や社会に関心があって、なおかつそういった数理的な分析を厭わないような学生が向いていると思います。分析対象は従来文系的と考えられるもので、分析手法は理系的なものを使います。

そういう意味では「経済データサイエンス」というのは、本学が掲げる文理融合を体現する学問のひとつだと思います。

経済DS課程で養成される人材は、どのような種類の仕事で活躍できるのか?

――経済データサイエンス課程でこれから養成される人材が、どのような種類の仕事でどの分野で活躍できるのかというイメージの一例を教えてください。

鹿野 データを使える人に関する社会のニーズが高まり、普通のサラリーマンのような方々の間でもデータ分析が必要になってきていています。

例えば、私は大阪府立大学の社会人大学院で教えていますが、彼らは仕事でデータの分析が必要で、そのトレーニングのために大学院で学んでいるというケースが数多くあります。従って、経済DS課程をめざす高校生の皆さんが将来的に企業で働くときに、実際に自分でデータ分析も行いつつ、いろいろな人が行ったデータ分析の結果もしっかりと理解して、自分の所属する企業の利益のために、公務員だったら行政施策のために、活用できることがとても大切だと思います。

「データサイエンス」というネーミングだけだとすごく数学的なイメージがあるのですが、理系みたいなことだけをするわけではないので、文系の人であってもその敷居は高くないと思います。

――理系・文系というような区別はしなくていいということですね。

鹿野 そうですね、何か解かないといけない問題があって、それを解決するためには、文系であろうが理系であろうが関係ないはずです。

立花 また、公立大学である本学の入試には必ず数学が入っていますから、それをクリアして入学できた学生にはデータ分析の素養が十分にあると思います。文系の受験生であっても大丈夫です。

 今後ますます、情報化、データ化の社会が予測されますので、経済データサイエンス課程で養成された人材は、これからの社会で一層重宝されると思います。

先ほども触れました費用対効果やコストパフォーマンスの算出が、医療だけでなく様々な分野においても大いに生かすことができますし、開発担当員やコンサルタントなど、様々な立場でも経済DSを活用することはできますので、科学的根拠に基づいた国や企業の投資計画への提言なども行うことができると思います。

入学してくる高校生は今のうちに何を勉強しておいたらいいのか?

――大阪府立大学で経済DSを学びたい高校生に、今から準備しておいてほしいことやエールをお願いします。

 ぜひ新聞を読んでほしいと思います。私も、学生時代から日経新聞を読んでいました。意味の分からないところがいっぱいありましたが、金融だけでなく、政治、経済、社会のキーワードが出てきます。最近なら〝働き方改革〟〝A I(人工知能)〟など、時代に合ったキーワードが出てくるので、「社会がいま何を求めているか」が見えてきます。

立花 私からは関連する本を2冊紹介します。2冊とも数式を一切使わずに分かりやすく解説していますので、高校生にもお薦めです。

1冊目は、「データ分析の力――因果関係に迫る思考法」(伊藤公一朗著、光文社新書)です。オバマ大統領が、大統領選挙の時に、より多くの資金を集めるためにどのようなWebサイトのデザインにしたらいいのかを、経済政策やビジネスで用いられているデータ分析の手法を使って決めたという例などが紹介されています。

2冊目は、『「原因と結果」の経済学――データから真実を見抜く思考法』(中室牧子・津川友介著、ダイヤモンド社)です。例えば、テレビをよく見る子どもは本当に学力が低下するのか、という問題などに答えています。

 アメリカの大統領選挙の話題が出ましたが、オハイオ州を制した人が、大統領選挙で勝利するとジンクスのように言われています。なぜかといいますと、その州の人口、人種の構成や産業の分布が全米の平均値に近いことから、「アメリカの縮図」とも呼ばれているからです。

鹿野 データサイエンス的に言うと、オハイオ州が、アメリカ全土の片寄りのないないサンプルになるということですね。そのことが、データ分析で裏付けられるということです。

――日本だと、静岡県が日本全体のサンプルというか標準の都道府県だといわれますね。例えば、新しい商品が日本全体で売れるかどうか、まず静岡県で試してみるという話を聞いたことがあります。静岡で流行ったら、日本全体で流行るといわれています。これも、経済データ分析で解明できると面白いですね。

鹿野 こういった身近なニュースをデータサイエンスで解明できることになりますと、この学問分野に関心が高まりますね。講義やゼミのなかで一緒に考えることができれば、学生にとって刺激になるのではないかと思っています。そういった展望を考えると本当にワクワクします。

【取材日:2017年7月13日】※所属は取材当時