2017年7月、「持続可能な現代社会の創造に向けて」と題した平成29年度現代システム科学域連続セミナー全6回のうちのひとつとして、「データからみる世界と日本の経済・社会の本当の姿」と題したセミナーが行われました。

吉田素教 教授(現代システム科学域 マネジメント学類)が講師を務め、日本人が苦手とする傾向が強い「大局的視点」から、世界経済、日本経済、日本財政、さらに世界の各民族が持つ価値観などに関する本当の姿をデータに基づき解説しました。

吉田素教 教授01

「日本は赤字国なのか?」「日本は借金大国なのか?」「日本は大きな政府の国なのか?」「日本で産み出された付加価値(所得)は社会のどういった分野に使われているのか?」「日本社会は本当に他者への思いやりを持った社会なのか?」「世界と日本の社会経済が今後目指すべき姿は?」といった問題を、世界各国との比較を通して、また過去から未来に亘る時間軸の中で考えました。

会場には、この「現代システム科学域連続セミナー」の中で過去最多となる143名の聴講者がご参加されました。

それでは、講演の様子を一部紹介していきましょう。

■データから、社会、経済の真の姿をいかに掴めるか

まず、超長期の視点で経済的覇権の推移を眺めてみましょう。世界各地域の経済力を超長期の視点で眺めた場合、古代から近世の終わりに至る歴史の大部分において、経済のKing はアジア地域だったのです。

一方、現在の世界経済をリードする欧米地域は大航海時代や産業革命を経て、ほんの百数十年前、すなわち、1800年代後半あたりで、アジアの経済力を凌駕していったというのが経済的覇権の推移に関する実態であります。また、この1800年代後半には中国ではアヘン戦争、日本では戊辰戦争・明治維新が起こっています。この世界におけるパワーバランスが変わった時期にこうした大きな政治的出来事が起こっているということを頭に留めておいてください。

続いて、世界各国の現在の経済状況をフロー、ストックの両面から眺めてみましょう。

実は、G5の先進国においてフロー(1年あたり)で経常黒字を出している国はドイツと日本だけです。しかし、そのドイツと日本では違いがあります。収支を貿易・サービス収支と所得収支に分けて考えた場合、ドイツは(相対的に)貿易・サービス収支の国、日本は(相対的に)所得収支の国と言うことができます。つまり、日本は財を売って儲けている国というよりもむしろ、海外に投資をして儲けている国になっているということです。

次に、ストック面を見てみます。実は、純(net)金融資産の額は日本が世界最大になっています。一方、純金融負債の額が世界最大である国・地域はアメリカ、ヨーロッパなどです。すなわち、日本は国全体でみると、フローで経常黒字、ストック面でも純資産国なのです。

吉田素教 教授04

ここで会場の皆様に質問させてください。
【フローで日本は経常黒字の国であることをご存じであった方?】
【ストック面の日本は世界一の純金融資産国であることをご存じであった方?】
⇒ “2〜3割が挙手。”

日本が民主主義体制を執っていく以上、こうした社会、経済の基本情報は100%に近い状況で周知されていなければなりません。そうでなければ、選挙等を通じて、各国民が適切な意思表示を行うことなどできないと考えられます。

前述のとおり、日本のフロー状況は国全体で出た黒字部分を海外に貸し出している状況です。ストック(金融資産)状況も公的セクターでは純で金融負債がある状態ですが、民間セクターでは逆に純で金融資産がある状態です。そして、公的セクターと民間セクターにおけるこれらの絶対値を比べると民間セクターにおける純金融資産の絶対値の方が大きいので国全体では純金融資産国になっています。

フローで見て、日本の経常黒字状態は30年以上、またストック面で見て、日本が純金融資産額において世界一である状態は20年以上続いています。すなわち、現時点で日本という国は、帳簿上では、世界において稀に見る経済パフォーマンスの良い国です。

多くの方々がよく耳にする報道を聞いているだけでは、国民各人がこういった事実を理解することはなかなか難しいことかもしれません。そのため、国民一人一人が自らデータを調べ、勉強を積み重ね、社会と経済全体の真の姿を掴もうと努めることが大切です。

吉田素教 教授02

■未来を読む目でもポイントは同じ

日本経済の現状は非常にパフォーマンスの良い状態です。しかし、視点を将来に移してみると、日本はとても厳しい状況に置かれていることがわかります。そのため、2年前に私が行った、日本経済と日本財政の持続可能性に関するシミュレーション分析を紹介します。

このシミュレーション分析の本質的結論は次のとおりです。現在の社会運営の在り方を現状のまま継続していった場合、公的セクターの負債残高の対GDP比率の増加は止まらなくなり、最終的に、この比率は発散経路を辿ることとなります。すなわち、日本経済と財政が破綻状態に陥ることとなります。

一方、当該分析では、政府が適切に資産課税を徴収することを行った場合、この破綻を回避できるというシミュレーション結果も得ております。また、他の経済学者における同種の分析においても、日本経済、財政の破綻を回避するためには、私の推奨する政策手段とは異なりますが、大幅な増税や歳出カット等が必要であることが主張されております。

この破綻問題を引き起こす主要因は二つです。一つは少子高齢化の伸展です。もう一つは、国債頼みの財政運営により、国債の利払いが累増していくことです。いま手を打たないと手遅れになると考えられます。

この「社会の将来を予測する点」においても、社会、経済全体の現況を掴む場合と同じことが言えます。非常に大変なことではありますが、「単なる情報の受け手」である状況から脱却し、自ら勉強し、世界のメカニズムを理解していこうと思考しない限り、国民各人が将来を見通すことは叶わないでしょう。

吉田素教 教授03

■大局観と時系列の視点

さて、ここで、私が人間にとって大切であると考える、ものの見方、考え方について説明させていただきます。

第一に「社会全体を大局的に見る」ことが大切です。人間はものごとの一部分だけを見がちになってしまうのが現実ですが、その現実を打ち破り、ものごとの「一番の外枠を見る習慣」を身につけてください。

第二に「時系列でものを見る」、すなわち、ものごとの過去、現在、未来に亘る推移を見るということも大切です。これら二つを実践すると、「社会メカニズム」やものごとの「因果関係」が徐々に見えて来るようになるでしょう。

最後に、合理的無知という概念を紹介します。これは、個人単位で見た場合、正確な情報を得るためのコストが大き過ぎるため、各人は『合理的に』無知を選択するというものです。多忙な現代においては、多くの方々は合理的無知に陥り易い状況にあります。しかし、一般に流布されるニュースをただ見ているだけでは「事実」や「ものごとの全体像」は見えてきません。

ここで、私達、日本人の特性を客観的に理解するために、少し古いですが、2005年の世界価値観調査のデータを見てみましょう。この調査で報告されているデータに基づくと、日本民族の特性を次のようにまとめることができます。

1)短期的利益に走る
2)権威や権力の社会的役割を理解していない
3)社会に対する責任感が弱い
4)情報はマスコミ頼み

このように、正直、残念な結果になっています。なお、世界価値観調査とは別の調査においても、日本人は他人にあまり関心を示さない傾向にあることが報告されています。よって、これらの調査結果も踏まえれば、私達日本人は、他の民族よりも一層、合理的無知状況に陥らないように気を付ける必要があると言えるでしょう。

繰り返しになり恐縮ですが、勝手に耳に入ってくる情報だけに基づき意思決定を実施することは非常に非効率、つまり、危険です。

国民各人が、社会の各経済主体の意図を推量することを通じて、そうした情報は特定のグループを利するために広く流布されているのかもしれないという視点を持つことは、自己かつ社会防衛上、非常に重要な作業です。当該視点と自らの勉強および思考により培った知識に基づき、効率的な意思決定を実践する・・・。

この積み重ねにより、民主主義が適切に機能するようにしていくことが大切です。

【取材日:2017年7月15日】