りんくうキャンパスにある生命環境科学域 獣医学類(大学院生命環境科学研究科 獣医学専攻)獣医病理学教室を取材し、指導教員の山手丈至教授とバックグラウンドの異なる3名の大学院生にお話を伺いました。

研究方針を議論する大学院生と山手教授

「獣医病理学」とは、様々な動物に生じる病気の原因や進展メカニズムを解明する学問です。

大阪府立大学の獣医病理学教室では、顕微鏡で組織標本を観察することに加えて、毒性病理や疾病モデルを中心とした実験動物を用いた最先端のバイオサイエンスの研究も行っています。学類としては、生命環境科学域獣医学類の中に位置します。

山手教授のほか、桑村充准教授井澤武史准教授のもと、例えば、伴侶・野生動物の自然発生病変の組織診断学や病態解析、実験病理学的にはラットを用いた線維化の病理発生の解明と治療戦術、神経疾患モデル動物の病態・遺伝解析、さらに非アルコール性脂肪性肝炎などの難治性肝疾患モデル動物の病態解析等々、多様なテーマで研究が進められています。

個々の顕微鏡で同じ病変を同時にみることで相互にdiscussionをする

いずれの研究においても、顕微鏡を用いて異常を見つける従来の形態学的手法に加えて、病気の発生に係る異常タンパク質をみつけるための免疫組織化学染色や、さらには病気の発現に係る遺伝子を解析する分子病理学的手法を導入して研究を行っています。

教室の学生個々に自由に使える顕微鏡がある

製薬会社の社員が客員研究員として在籍していたり、様々なキャリアを持つ社会人大学院生や学類生など幅広い人材の指導を行っているのが特徴です。また、動物病理学に関する卒後教育としてのセミナーも年数回開催しています。20名前後の研究者が集まります。

■山手教授に獣医学類の入試の特徴をお聞きしました

大阪府立大学の獣医学類は定員が40名で、前期日程で35名、後期日程で5名を募集します。競争倍率は前期で4倍~5倍、後期は希望者が非常に多く、30~50倍になります。

後期日程の受験者数が多くなる理由は、入試においてセンター試験の割合が少し低くなり、二次試験で逆転が見込むことのできる試験になっているからだと思っています。しかし定員は5名のため、非常に狭き門だということに変わりはありません。

大阪府立大学の獣学分野は、「都市型の獣医学」ということを強みとして表明しています。
特にバイオサイエンスの分野に力を入れており、大阪に古くからある製薬会社に就職を希望する学生もいれば、逆に製薬会社からリクルートのオファーが来ることもあります。

豊富な獣医病理学に関する図書がある

■多様なバックグラウンドを持つ社会人大学院生が在籍

また取材したこの日は、大学院生3人が研究室に在室し、さまざまな動物の多様な組織標本を映像として大画面に映し、この細胞が、どういう細胞に由来するのか?病気にどのように係るのか?そして、どういう異常が顕微鏡標本から読み取れるのか?などを議論していました。

研究でお忙しい中、時間を作ってくださった、3名のインタビューを紹介させて頂きます。

左からPervinさん、山手教授、倉持さん、古賀さん

前からA(animal)、横からH(Human)となる「人と動物の絆」を表すモニュメント

◆倉持瑞樹さん(大学院2年)

私が進学先として、大阪府立大学の獣医病理学教室を選んだ理由は、2点あります。

ひとつは、りんくうキャンパスの新設が7~8年前であり、私が学類(当時は獣医学科)受験した時期と同じであったこと。新しい施設で勉強、研究ができることに大変心が躍りました。

もうひとつは、実家で飼っていた犬や猫の病気を自分の手で何とかしてあげたいと思ったことでした。府大に入ってから様々な勉強をする中で獣医病理学と出会い、病理の観点から病気を直接診てあげることができるという点に魅力を感じ、この研究室を選びました。

将来どのような職業に就くかはまだ決めかねていますが、大学院で学んだ基礎研究の能力を活用し、研究と臨床の両方の側面から獣医療を支えていきたいと考えています。
※獣医学類は6年のカリキュラム、大学院獣医学専攻は4年のカリキュラムです。

ピペットを用いて試薬を調整する

マイナス80℃で試料を保存する

◆古賀 真昭さん(大学院4年)

私は、北海道の帯広畜産大学で獣医病理学について学んだ後、地元関西に戻り製薬会社に就職しました。

会社で医療用医薬品の開発に携わるうちに、再度病理学について深く学びたいという気持ちが強くなり、大阪府立大学の大学院に進むことを決意しました。現在は在職しながら勉強、研究を続けています。

今後は、大学院での研究を通して得られた知識や技術を会社の業務でも生かしていきたいと考えています。

蛍光免疫染色で観察するために凍結切片を作製する

冷凍した組織を蛍光顕微鏡での観察用に10マイクロメートルにカットする

◆Pervin Munmunさん(研究科4年)

私は、バングラデシュで獣医学の大学教員をしているのですが、博士課程への進学として、2013年に大阪府立大学へやってきました。

国際的に見ても、日本は獣医学において非常に研究が進んでいる先進国であり、バングラデシュには大阪府立大学の卒業生も多くてとても有名でしたので、府大を選びました。

博士号の取得後、母国へ帰った後は、大阪府立大学で得た知識・能力をさらに広めて行きたいです。教員として、学生に研究や検査方法を指導することはもちろん、動物の死後に、その病因を探索するために病理組織検査をするということを広めていければと考えています。

病変のある試料を3マイクロメートルにカットする

ミクロトームでカットした薄切試料をプレパラートに載せる

◆リンク

大阪府立大学 獣医病理学教室
http://www.vet.osakafu-u.ac.jp/path/

【取材日:2017年7月28日】
※所属・学年は取材当時