「環境心理学」は、身の回りにある環境を構成する社会的・物理的要因と、人の心理・行動との関係について考え、人や社会にとって望ましい環境とはどのようなものなのか、その実現には何が必要なのかを論じる学問。

その入り口を学べる講義が、環境システム学類の2年生を対象とする「環境心理学」です。

この講義では15回の授業を通じて、人間の心理や行動と環境との関係を環境心理学の観点から理解し、人と環境のやりとりから生じる問題を改善するための視点を修得することを目的としています。

担当教員は、環境心理学や建築環境工学が専門で一級建築士の資格も持つ飛田 国人 准教授。取材したこの回は「環境配慮行動について」をテーマとして、90分の講義が行われました。

◆環境配慮行動とは?

「環境配慮行動」とは、省エネ行動ともいい、エアコンの温度設定を気にかける、照明をこまめに消す、ゴミの減量に取り組む、などの意思・行動をさします。

環境配慮行動を阻害・促進する要因はどのようなものか、促進するにはどのようなアプローチが必要か、などの視点を、

・囚人のジレンマ
・計画的行動理論と環境配慮の二段階モデル
・環境配慮行動の促進手法

の3つの切り口から説明しました。

では実際に、飛田先生の授業をのぞいてみましょう。

◆囚人のジレンマ

環境問題解決の困難さを考えるのにちょうど良いモデルが、この「囚人のジレンマ」です。

このモデルは経済学の分野で生み出されたもので、捕まった犯罪者2人にそれぞれ同じ条件で刑の軽減を持ちかけた場合、もし2人が情報を交換し協力できれば双方にメリットがある結果となるのですが、それができない環境下ではそれぞれが自分に有利となる行動を選び、ついには2人とも損をする結果となることを表したモデルです。

経済学の分野には、人は合理的な生き物で1人1人が利益の最大化をめざせば社会全体の幸福も最大化するという考え方がありました。しかし「囚人のジレンマ」は、個々が自分の幸福ばかりをめざしていると全体として良くない結果になるということを明らかにしました。

これを、環境配慮行動である「ゴミの減量化」に当てはめて、自分と他人の行動で考えてみます。自分ひとりくらいがゴミの減量をしなくても影響ないだろうと、個々が自分の利益を最大化しゴミの減量をしなくなると、環境問題の解決は見込めなくなります。

また、多くの人たちが努力して環境配慮行動を行って得られた利益を、自分は労力もコストもかけずに享受する人のことを「フリーライダー」と呼びます。

このフリーライダーを減らしていくことも環境問題の共通の課題になっています。

みんなが自分の利益ばかりを求めてはいけないということが根源にあっても、個々の利益を求めない姿勢を貫くのは非常に困難です。この困難さを打開するために「心理学」が役に立っているのです。

◆計画的行動理論と環境配慮の二段階モデル

心理学的アプローチでは、環境問題を解決するために「人々に環境配慮行動をしてもらわないといけない」ということを目的として、

・ 環境問題に対する人々の心理と行動を理解
・ 人々の環境配慮行動を促進する方法の考案

の2点に着目します。

心理学では、人の行動を推測する概念に「態度」というものがあります。この「態度」とは、人がある対象に対してとる行動を説明・予測するための概念であり“感情” “認知” “行動への準備傾向”の3要素につながるとしています。

例えば、「臓器移植」で説明すると【感情】臓器移植は嫌だ。【認知】臓器移植は問題が多い。【行動】臓器移植はしない。という風に整理できます。

このように、「態度」を調べれば人の行動を推測ができると初期の心理学では思われていました。

しかし、1934年にLaPiereが行った、旅行先のレストランで実際に受けたサービスと、後日同じレストランで実施したアンケートの回答が一致しなかった結果が出た調査によって「態度だけでは人の行動は予測できない」ことが証明されました。

環境配慮行動にも同じことが言えます。

1986年にNeumanが、省エネ行動実施の程度とその人が大切にしている価値観の関係を調査したところ、環境は大切だという価値観を持つ人(態度)でも、省エネ行動実施の程度が多いわけではない(行動)ことが証明されました。

その後の研究で、環境配慮行動には態度に合致する行動を行うか否かを評価する「行動意図」というものが間に働くことが分かってきます。さらに、合理的行動理論や実効性可能評価などの概念が加わり「計画的行動理論」が生まれます。

さらに研究は進み、1994年に名古屋大学の広瀬氏によって「環境配慮の二段階モデル」が提唱されます。態度(目標意図)には環境認知(環境リスク、責任帰属、対処有効性)が働き、また行動意図にも行動評価(実行可能性、便益費用、社会規範)が働くといった二段階の心理モデルです。

このように、環境配慮行動には多くの阻害要因があることが研究によって分かってきたのです。

◆環境配慮行動の促進手法

では、環境配慮行動を促進するにはどうしたら良いか?それは、いま見てきたような環境配慮行動の心理学的な阻害要因をどのように除いていくのかがひとつのポイントとなります。

さきほどの2段階モデルのさまざまな諸表の因果関係を調べるために、様々な調査が行われました。

対処有効性認知と実行可能性評価の調査として、1982年にWinettが54件の家庭の電気使用量を1)何もしないグループ、2)日々の電気使用量をフィードバックするグループ、3)節電のモデルプランをビデオで示すグループに分けた調査を行いました。

その結果、フィードバックとモデルプランを示すことは節電の環境配慮行動に有効的であることが証明されました。

また、対処有効性認知と責任帰属認知の調査として、1984年にKantolaが203件の住宅の電気消費量を4グループにわけ、4パターンのフィードバック方式による調査をしました。

認知的不協和群(「省エネは義務だと思うと回答があったが、省エネ行動をしていませんね」とフィードバック)のパターンに効果が見られましたが、効果は2週間ほどしかありませんでした。

 こういった調査から、フィードバック方式は行動意図や目標意図が形成済みであることが前提で、かつエネルギー消費量のように効果が目に見えない時に有効で、行動とのタイムラグが小さいタイミングで実施することが環境配慮行動に有効であることなどが分かってきました。

また、便益への策として1971年にBurgesが映画館の上映後に散乱するゴミ対策の調査を行った結果、「個人の行動に対して報酬を与える」ことが最も効果があったという結果が出ています。

これらの調査からは、「環境配慮行動を継続すること」はなかなか困難なことがわかります。ちなみに、今では多くの自治体で実施されているゴミ袋の有料化ですが、これはフリーライダー抑制策として非常に有効な環境配慮行動の促進手法なのです。

いずれにしても、環境問題の解決には人々の協力が不可欠です。どうすれば協力を得られるか、どのようなアプローチが有効か、その考察に心理学が寄与しています。

ではまた続きは次回に。

【取材日:2017年7月14日】 ※所属は取材当時