11/6、生命環境科学研究科応用生命科学専攻 博士前期課程2年の笹井晋作さんにお話を伺いました。
笹井さんは、ウイルス感染が宿主菌の環境耐性に及ぼす影響を研究しており、2017年4月には、公益財団法人日本科学協会が実施する「平成29年度※笹川科学研究助成(学術研究部門)」にも採択されました。(※課題の設定が独創性・萌芽性をもつ研究、発想や着眼点が従来にない新規性をもつ若手の研究を支援する制度)
●笹井さんの研究内容について教えてください
ピシウム・ポラーレというカビの仲間に感染している新種のウイルスを発見しました。
ピシウム・ポラーレは、北極と南極の低温環境に生息しており、0℃以下でも菌糸が凍らないという面白い特徴を持ったカビの仲間です。
動物に限らず、あらゆる生物からウイルスが見つけられており、カビに感染するウイルスもこれまで多くの種が見つけられてきました。そこで、極地に生息しているカビの仲間からも面白いウイルスが見つかるかもしれない、ということで研究が始まりました。
しかし、私が今の研究を始めるまでは、そもそもピシウム・ポラーレにウイルスが感染しているのか、そして、感染しているウイルスがどのようなウイルスであるかが明らかになっていませんでした。
そこでまず、ウイルスが感染しているかどうかを明らかにするために、ウイルスの感染の指標となるdsRNAがピシウム・ポラーレから検出されるかどうかを調べました。その結果、半数を超えるピシウム・ポラーレがウイルスに感染しているということがわかりました。
まずは、この感染しているウイルスがどのようなウイルスであるかを明らかにするために、ウイルスの遺伝子に着目した研究を行いました。その結果、感染しているウイルスがこれまでに報告されてない、属レベルで異なる新種のウイルスであるということがわかりました。
ウイルスの感染していないピシウム・ポラーレを人為的に作出して、ウイルスの感染したピシウム・ポラーレと比較を行ったところ、このウイルスはピシウム・ポラーレの活動には影響をほとんど及ぼさないウイルスであるということがわかりました。
宿主の活動には影響をほとんど及ぼさないということがわかったものの、高い頻度でウイルスが検出されたことから、このウイルスが極地環境での生存に役立っているのではないだろうかという仮説のもとに、今後の研究を進めていきたいと考えています。
●学部生の時に植物バイオサイエンス課程に進んだ理由を教えてください
初めは、食べることと野菜が好きだという理由から植物バイオサイエンス課程に興味を持ちました。
植物バイオサイエンス課程は、農場で作物を栽培し、実際の農業現場に還元されるような研究や、次世代シーケンサーなどの最先端の解析機器を用いて、植物や微生物で起こるさまざまな現象の研究など、自身の興味関心に沿った幅広い研究をすることが可能です。特に、次世代シーケンサーを学内に置いている大学は少ないと聞いたこともあります。最先端の解析技術で研究を進められるのは、強みのひとつですね。
●大学院生活で一番大切なことを教えてください
学部生と大学院生の最大の違いは自分のテーマで研究が出来るか否かということです。学部時代はあくまで与えられたテーマでの研究であり、大学院になって初めて自分の研究ができます。
自分の研究したいテーマを選び、自分でやりたいことをする。これが一番大切なことだと思います。
私は、人とは違うことをしたいと考えていたために、それまで誰も研究してこなかった新しいテーマで研究を始めました。設定した研究課題は、笹川科学研究助成に採択され、大学院では研究を頑張れば評価されるのだということを感じました。
●どのような人が植物バイオサイエンス課程に向いていると思われますか?
進む課程自体に向き不向きはないと私は考えています。
大事なのは、その人が何をしたいのか。自分の興味関心があり、好きなことを研究して欲しいです。
●高校生や受験生を支える方に一言
高校生に対してかける言葉はありません。遠くから見守ってあげて欲しいと私は考えます。
なぜなら、自分が声をかけたところで何も変わらない。すべてはその人次第だからです。
高校生や、受験生を支える方々へのメッセージは、例えば自分の子どもが勉強してないところを見たときに、「勉強をしろ」と言ったり、「これだけの点数をとれ」など言ってほしくないということです。
結局、勉強をするかしないかは、他人から言われたところでその人次第ですし、無理やり勉強をさせたところで身につくものではありません。
自発的に、これを勉強したいと思い、学ぶものこそが身になる勉強です。
保護者の方々はその子がどうやったら勉強するかを探してあげてほしいです。興味の種を見つけてあげる助けが出来たならば、お子さんは自然と勉強するようになると思います。
〈植物バイオサイエンス課程とは〉
バイオサイエンス・バイオテクノロジー、資源植物学、栽培学、バイオインフォマティクスなどを学修し、資源植物を生活の向上と健全な環境の創成に利用できる専門職業人を養成します。
本課程では、生化学・分子生物学、遺伝学などを基盤として植物機能の分子レベルでの解析・改良などを目指す学問領域と、新しい機能を持った資源植物の開発や植物による有用物質生産、資源植物の性能評価や増殖技術、持続的利用のための栽培技術などを扱う学問領域について、体系的な専門教育を行います。
さらに、獣医学類と共同して行う「食生産科学プログラム」では、「食料」の生産から消費にいたるフード・システムの全体を理解した食のスペシャリストを育成します。
■リンク
【取材日:2017年11月6日】
【取材:右大輝 現代システム科学域マネジメント学類】※所属は取材当時。