11/13、現代システム科学域の3つの学類の垣根を超えた学域共通科目である「マネジメントとサスティナビリティ」の授業に、大阪府・大阪市IR推進局の井谷さんがゲストスピーカーとして登壇され「なぜ、大阪がIR誘致をめざすのか」というテーマで、大阪の現況とIR(統合型リゾート)がもたらす効果についてお話いただきました。

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●大阪の現状とポテンシャル。

はじめに、大阪の現状とポテンシャルについて、数字を用いて説明していただきました。普段の生活では私たちが住む大阪について数字を用いて分析する機会は少なく、大阪の知らなかった一面を見ることができました。

 

〈大阪の現況〉

大阪府のGDP(総生産額)は約3190億米ドル。これは南アフリカ(3150億米ドル)、香港(3090億米ドル)などの国・地域とほぼ同じです。しかし、2008年に起こったリーマン・ショック以前の水準にはいまだ届いていません。

次に、大阪府における将来推計人口および65歳以上人口を見てみると、2040年には人口130万人減少、65歳以上が36%という推計も出ています。

さらに、長年大阪経済を支えてきている製造業・卸売業の事業所数、従業員数も年々減少しています。

このような現況を打破するような今後の大阪経済を支えていくための新たな視点が必要となっています。

 

〈大阪に活気をもたらすもの〉

その新たな視点として期待されているのがツーリズム・インバウンド観光産業です。

大阪を訪れる外国人観光客は増加しており、2011年から5年間でおよそ6倍となっています。さらに、アジアの年収350~400万程度の中間層人口は今後も増加が見込まれており、インバウンド産業は今後も広がりを見せていくと思われます。

また、インバウンド観光消費は、裾野が広く、ツーリズム産業だけでなく、関連団体やその他産業にまで経済効果をもたらすと考えられています。

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〈大阪・関西のポテンシャル〉

では、はたしてツーリズム産業は大阪経済を支える新たな視点となるのでしょうか。

ここで、大阪と関西の持つポテンシャルについてみてみたいと思います。

大阪と関西のポテンシャルは豊富な観光資源、世界遺産や文化財が集積していることにあります。都道府県別の重要文化財・登録有形文化財の合計件数では関西が上位を占めています。また、関西国際空港は、成田国際空港に次ぐ外国人入国者数を誇っており、日本の玄関としての機能を担っている空港があるということも大きな強みです。

これらのポテンシャルを最大限に引き出せば、ツーリズム(観光)産業を次の旗艦産業に育てられると考えられています。

 

〈大阪がもっと力を入れるべきポイント〉

ツーリズム産業を旗艦産業にするために注目されているのが、MICE(マイス)です。

MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称で、世界的にも注目を集めています。

海外では近年、会議場・展示場が一体的に整備・運営され、周辺にホテル、飲食・物販、エンターテイメント等が近接立地する、いわゆるオールインワン型で、かつ大規模な施設が主流となっており、特に、シンガポールにおいては、公民がそれぞれMICE施設を建設・運営し、IR(統合型リゾート)施設との相乗効果を図り、役割分担及び棲み分けを行いながら様々なMICEを受け入れ、シンガポール全体の経済活性化につなげています。

そんな中、日本の国際会議開催件数のシェアは一貫して低下しており、大阪を見てもアジア大洋州・中東地域の都市別国際会議開催件数ランキングで25位、世界順位で115位と遅れを取っています。

IR(統合型リゾート)など国際観光拠点の形成の動きにより世界的に大阪が注目されMICE機能が強化されるこの機を逃さず対応することにより世界有数のMICE都市をめざし、この目標を達成することで大阪・関西の輝きを取り戻そうと考えています。

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●IR誘致について。

〈IR(統合型リゾート)とは?〉

合法のカジノ施設を含め、国際会議場、国際展示場、家族連れで楽しめるエンターテイメント施設、宿泊・飲食・商業施設などが併設された、国内外の観光客・ビジネス客、地元住民、子供からシニアまで幅広い層が楽しめる、複合型の施設のことです。

海外の事例では、展望プールで有名なシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズもIRのひとつです。

 

〈大阪府のIR導入にともなう懸念事項に対する対策〉

IRの導入には、ギャンブル依存症や、地域の治安についての問題など、いくつかの懸念事項が考えられています。しかし、大阪府、大阪市は共同で全国初のIR誘致の専任組織を設置し、世界のIRにおける対策例を参考にしたり、国の調査に基づいてそれぞれの問題に対する対策を練り上げています。

 

〈まちづくりの効果〉

IR施設での大きな経済効果はもちろん、旅行客がIR施設だけではなく全国各地を訪問することで、それに伴った経済効果や雇用創出効果が全国で現れると見込まれています。

IRがもたらすものは、経済的効果だけではなく、国内外旅行客数の増加やMICEを契機とした交流人口増に比例してグローバル人材が増加するなど、社会面でのメリットも生まれるのではないかと予想されています。

●学生の感想

IR誘致の問題については、ニュース等を見て以前から知っていましたが、今日の授業で改めてIRがもたらす効果を聞くことができ、深く理解することができました。

IRと聞くとカジノのことだと考えてしまいがちですが、カジノはあくまでIRの中の施設のひとつに過ぎないということはもっと知られるべき情報だと感じました。

特に、大阪には大規模のMICEを行うことのできる施設がないということは由々しき事態であると感じたので、IRの誘致は大阪ひいては日本の力を強める切り札になるのではないかと思いました。

 

【取材日:2017年11月13日】

【取材:現代システム科学域マネジメント学類 右大輝】※所属は取材当時。