“おいしい食品を、おいしいまま食卓に届けたい。「食」の世界での活躍を考える学生に向けた授業です“

将来、食品に関わる業界での活躍をめざす人にとって、「食品保蔵・添加物論」は貴重な知識を学べる授業です。

この授業は応用生命科学類 植物バイオサイエンス課程(生命環境科学域)の3年生が主として受講する授業。食品はなぜ劣化するのか、どうすれば劣化を防いで「安心安全な食」を食卓へ届けられるか。その“学び”の先にあるのは、大勢の人の笑顔です。

授業開始前、この授業を担当する今堀義洋教授(生命環境科学研究科/研究キーワード:収穫後生理学、応答反応、嫌気代謝、アスコルビン酸代謝)に、この授業の目標や全体像をお聞きしました。

 

■プロフィール

今堀義洋

生命環境科学域・生命環境科学研究科 教授。博士(農学)。「野菜の鮮度保持マニュアル」「食品保蔵・流通技術ハンドブック」「食品鮮度・食べ頃事典」「園芸作物保蔵論」など専門向けの著書も多い。

 

◆応用生命科学類の3年生のほか、緑地環境科学類と獣医学類の学生も受講可能

野菜や果物、お肉や魚。それらの食品は水分や温度、光などの貯蔵環境要因や、酵素、微生物等がもたらす化学的反応によって品質が変化します。食品の劣化はなぜ、どのようにして生じるのか。その学術的背景を知ることから始めて、さまざまな変化をどうすれば防げるかの「保蔵」に関する知識を学んでもらうことが、この授業の目標です。

食品衛生管理者、食品衛生監視員等の資格を取るなどで、将来、食品関連業界での活躍をめざす学生も多い応用生命科学類の3年を主要対象にした授業ですが、本学での「学び方」の特色のひとつである副専攻の趣旨に沿って、同じ生命環境科学域 獣医学類、緑地環境科学類の学生も受講できる授業となっています。

また、工学域や生命環境科学域の学生が選択可能な「植物工場科学副専攻」の受講生、獣医学類のうち「食生産科学副専攻」受講生が受講できる授業です。

 

◆今堀先生は、どうしてこの分野の研究に進まれたのですか?

私がこの分野に進んだのは、食べることが大好きだったからです(笑)。自然の恵みである野菜、果実等の収穫後の鮮度をどうすれば長く保てるか。そんなテーマに惹かれて、大阪府立大の農学部(当時)で収穫後生理学を学び、食品会社の研究員になりました。現在は本学で教育と研究にたずさわりながら、これまで日本食品科学工学会と日本食品保蔵科学会の評議員も務めて、大学と産業界をつなぐ架け橋になりたいと頑張っています。

 

◆身近な食品に起きる現象の、学術的背景を学びます

食品は誰にとっても身近なもの。購入時にはかたかったバナナ果実が、時間経過と共に黄色く柔らかくなるのはなぜか。そんな身近な現象を扱うので、興味を持ちやすいはずです。先人の知恵が生んだ保蔵法の例として干し柿や缶詰の実物を見たり、「キャベツは収穫後も生きている。声を聞いてごらん」と呼びかけるなど、食品の息づかいを実感できるよう心掛けています。

低温保蔵に関する研究ひとつを取っても、食品の生産・貯蔵・加工・流通にたずさわる現場は、知識と技術をブラッシュアップし続ける一方で、絶えず新たな課題に出会っています。食品業界のそういったダイナミックな動きを授業内容にフィードバックすることで、10年後、20年後の「食の安心安全」を支えてくれる人材を育てたい。その想いで、この授業に取り組んでいます。

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それでは授業をのぞいてみましょう。食品の品質が変化する原因を理解してから、それを防ぐ保蔵方法や食品添加物について学ぶ全15回の授業のうち、6回目にあたる「食品と酵素」がこの日のテーマです。

◆酵素反応は食品保蔵の重要テーマ

食品はすべて生き物で、酵素反応によってエネルギーを得ていますので、食品保蔵にとって酵素をいかに上手に扱うかはとても重要なテーマです。酵素の抑制方法には、加熱やpH調整で酵素反応を低下させる、低温等で酵素による化学反応を抑える、酵素と食品の出会いを断ち切るなどがあります。

食品の品質変化に酵素がどう関わるかをみていきましょう。

 

●バナナ果実は「追熟」でおいしくなる

多くの果物には、親木から離しても熟し続ける「追熟」という現象がみられます。緑熟のバナナ果実は、皮が青くて果肉が硬い状態から、徐々に黄色く柔らかく、そして「甘く」なっていきますね。追熟に伴う酵素反応の活性化がその原因です。追熟のピークを、更年期を意味する「クライマクテリック」と呼びますが、その前段階のバナナは果皮が緑色、甘みや芳香もなく、デンプンが多くて、果肉が硬い状態。追熟によって、果肉はデンプンが分解されて糖化することで甘くなり、細胞壁を分解する酵素の働きで柔らかくなります。品質変化といっても、おいしくなるので、ポジティブな変化といえます。

●鳥や動物に「食べ頃」を教えるサイン

デンプンの分解と糖の増加にはアミラーゼなどの酵素が関わります。デンプンがアミラーゼで分解されてブドウ糖や果糖ができます。クライマクテリック段階ではグルコースやピルビン酸などの解糖系中間体含有量が増えて、アルコール発酵が活発となり、バナナ果実特有の芳香を放つようになります。

前回、「クロロフィル(葉緑素)の変色」についてお話した際、皮にシュガースポット(茶色い斑点)が現れるなどの、バナナの化学的変化にもふれました。酵素の働きでクロロフィルが分解される過程で、FCC(蛍光性クロロフィル異化生成物)というものに変わり、紫外線を当てると青白く光ります。FCCは他の植物でも生成されますが、バナナの場合は濃度が高く、熟した黄色いバナナほど明るく光ります。

この蛍光現象は、実は動物や鳥へ「いまが食べ頃だよ」と教えるサイン。追熟によって芳香を放つようになるのにも、同じ意味があると思えます。動物を媒介にして生息域を広げようという「バナナの意図」を感じざるを得ません。

 

●トマトの「完熟」を促すエチレン

植物ホルモンであるエチレンにもふれましょう。エチレンは追熟を促進する働きを持ち、青いトマトが真っ赤に完熟する過程にも深く関わります。保蔵の観点から見た場合、キュウリやアスパラガスなど未熟な状態が食べやすいものは、エチレンによる影響を防ぐことが必要です。

 

●酵素は果物をおいしくする「キーマン」

次は、果物の糖代謝と酵素の関わりについて。ナシやリンゴなどバラ科の果物は、樹上での成熟過程で糖アルコールであるソルビトールを生成するのが特徴で、多くの果物が光合成でつくったグルコース(ブドウ糖)等をエネルギー源として蓄えるのに対して、ナシやリンゴはソルビトールを合成して蓄えます。この糖代謝にはインベルターゼ、シュクロース合成酵素、ソルビトール脱水素酵素をはじめとする多様な酵素が関与。果物がおいしく熟するうえで、酵素は欠かせない「キーマン」なのです。

ゴボウが豊富に含む炭水化物は、分解によって色々な物質に変わりますが、それにもインベルターゼが関わりますし、シュクロース合成酵素やシュクロースリン酸合成酵素も食品と関わり深い酵素として知られています。

難しい酵素の名前が続出しますが、食品保蔵を学ぶ基礎になるので、しっかり理解してください。次回のテーマは「食品と微生物」です。

 

【取材日:2017年11月8日】 ※所属・学年は取材当時