化学工学分野の8つの研究グループのひとつである「装置工学グループ」では、「粉」に関するさまざまな研究を積極的に行っています。おそらく受験する高校生にとって未知の世界……はたして粉の研究とはどのようなものなのか、同グループを率いる綿野哲教授に話をお伺いしました。

【教員プロフィール】
■綿野 哲
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻 化学工学分野 教授
1991年大阪府立大学大学院工学研究科を修了。本学工学研究科の助手、講師、助教授、米国ニュージャージ工科大学客員教授を経て、2005年4月より現職(教授・工学博士)。2015年4月より副工学域長を務める。専門分野は、粉体工学、化学工学。粉体工学会理事、製剤機械技術学会評議員、アジア粉体工学(Asian Particle Technology)国際組織委委員(IOC)、国際微粒子学会(IFPRI)理事を歴任。表彰・受賞、著書、学術論文など多数。現在、新規な機能性粉体材料(医薬品・化粧品・食品・電子材料など)の研究開発に従事。

 

■固体・液体・気体に次ぐ「第4の相」、粉体
― まずは装置工学グループについて簡単にご紹介いただけますか?

われわれ装置工学グループで扱っているのは粉体、つまり粉です。
一般的に粉と言えば「ものすごく小さい固体」という程度の認識だと思います。しかし、実は扱い方によって気体のようにも液体のように振る舞うというユニークな性質を持ち、固体・液体・気体に次ぐ「第4の相」とも言われています。一方、粉はわたしたちの身の回りにあるあらゆる製品に利用されています。特に最近では、高機能・高性能な製品に対するニーズの高まりから、目的に合わせた新しい粉の開発が各方面から求められています。そこでわれわれは機能性粉体の創成を目的として、粉体プロセスについて基礎的な検討から応用・実用化に至るまで、さまざまな角度から研究を行っています。

― 具体的にどのような製品にどのようなかたちで粉体が使われているのでしょうか。

単に使われているということで言えば、例えばスマートフォンの電子部品にはほとんど何らかのかたちで粉が使われています。例をあげるとキリがありませんが、実際に私の研究グループで企業と共同研究している一部を紹介すると、まずは医薬品ですね。副作用はもちろんのこと、ありとあらゆるチェックを経て一つの薬が完成します。例えば服用した際に、体の中の狙った場所で溶けて吸収されるかということがポイントとなります。というのも、薬は水に溶けにくいものが多い。そこで粉を小さく砕いて表面積が増やして溶けやすくするなど様々な工夫を施します。もしくは、同じ薬でも粉の状態のまま肺に直接届かせる粉末吸入剤の場合、粉の大きさを0.5〜0.7ミクロンとかなり小さくする必要があります。しかし小さくすればするほど取り扱いが難しくなる。そこで粉を中空粒子という中が空洞になった形状にすることで、質量を変えないままサイズを大きくすることで、取り扱いやすくなります。
他には、化粧品に関する共同研究もあります。化粧品にはシミを隠したり美白にしたりなど多種多様な目的がありますが、それらに応じて粉の大きさや形状を変えます。例えばツヤ感を出したい場合は、光を正反射する板状の粉(板状粒子)を使用し、逆にツヤ感を消す場合は、拡散反射する球状の粉(球形粒子)を使用します。
それ以外にも、電気自動車向けの全固体電池や、新しい食感のスナック菓子、パウダー状の洗濯洗剤、静電塗装塗に使う塗料など、様々な研究に取り組んでいます。

■徹底した基礎研究+豊富な共同研究
 ― 「粉体」と聞いてもあまりピンときませんでしたが、身の回りのさまざまな製品に使われているんですね。

化学工学は基本モノづくりなので、何かしらの製品に関わることになりますが、とはいえどちらかと言えば縁の下の力持ちです。最終製品まで関わる機会が多いのは「粉体」の特徴だと思います。自分たちが手掛けた商品をコンビニで見かけることも多々あります。

 

― 企業との共同研究が多いですか。

多いですね。年間で少なくとも20件、水面下で進行しているものも含めると30件ほどあります。そのすべてが企業側から持ち込まれたもの。大抵は自分のところで開発してみたけど失敗したりうまくできないと相談にこられます。駆け込み寺的な存在ですね。だから難易度の高い課題が多いです。
もちろん共同研究だけではなく、モノづくりに直結しない基礎研究に関しても並行して行っています。むしろそっちはアカデミックな研究者としては基礎研究がベースで、それにプラスして実際のモノづくりに近い部分で共同研究があるというイメージです。

― 研究は基本的に実験がメインですか。

そうですね。3分の2が実験で、残りの3分の1がコンピュータによるシミュレーション。われわれの研究は単に粉を作るということだけではなく、それがどうやれば「効率的に作ることができるか」ということにも大きな軸にあるので、シミュレーションを重ねることでメカニズムを解き明かすということも必要です。
分かりやすい例をあげれば、何種類かの粉が混ざっているような薬の場合、どこをとっても均一に混ざっている必要があります。でも粉はそれぞれ大きさも形状も異なるので、単に大きな容器に粉を入れてかき混ぜるだけでは偏りができます。それをどうのように混ぜればいいか考えるために、100万分の1秒単位で粉同士がどのようにぶつかり合い、次の瞬間にどちらの方向へ動くかといったことを計算します。非常に複雑ですが、粉のおもしろい部分でもあります。

 

 

■自分の技術がいかにして世の中に貢献できるか
― ちなみに綿野先生はどうして粉体の分野に進まれたのですか。

4回生の研究室配属の時、別の研究室を志望していたのですが、ジャンケンで負けました。半ばやけっぱちになって、当時体育会系クラブの主将をしていたので、一番クラブをやりやすいところにしようって感じで今の研究室を選びました(笑)。でも、いざ研究を始めると想像していた以上の「粉」のおもしろさに気づき、この分野の研究の道に進むことを決意しました。

― 現在、装置工学グループにはどのような理由・動機で入ってくる学生が多いですか。

化学工学の中では一番人気の研究室なので成績の良い学生が多く、医薬品や化粧品がやりたいという明確な目標をもって入ってくる学生が多いようです。うちは共同研究もたくさん行っていますし、今後の成長が期待される分野でもあるので、みんなやりがいをもって研究に打ち込んでいます。私自身も、自分の技術がいかにして世の中に貢献できるか、そういう夢を語れない人は大学にいる資格はないぞ、と学生たちに言っています。

― 最後に、装置工学グループとしてどんな学生が来てくれることを期待しますか。

向き不向きという観点では、実験が好きでモノづくりに興味がある学生が向いていると思います。研究の世界では、どこの大学出身とかではなく「どのような仕事したか」ということが唯一の評価。常に向上心を持ち、何事にも興味を示すことができる、ガッツと忍耐力のある学生が来てくれるとうれしいですね。

 

【取材日:2017年11月15日】※所属は取材当時。