植物への興味・関心から植物バイオサイエンス研究の道に進み、今は機能ゲノム科学研究グループで「寄生植物」をテーマに研究を進めている清水さん、江川さん。なんと珍しいことに、まったく同じ日に、別々の国際論文誌の論文掲載連絡をもらうという珍事&快挙な出来事がありました。

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そこで、さっそくそんなお2人にインタビュー。同じ分野の研究仲間としても友人としても、そろそろ付き合いが長くなってきたお2人のコントラストを楽しみながら、いろいろなお話をお伺いしました。

 

■プロフィール
生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 博士前期課程2年
(機能ゲノム科学研究グループ)

清水 皇稀(しみず こうき)

江川 美菜子(えかわ みなこ)

 

【高校時代はどんな風にお過ごしでしたか?】

江川  私は和歌山出身で、高校は智辯和歌山高校でした。

江川 美菜子さん

江川 美菜子さん

野球で有名な高校なのですが、私はブラスバンドに入り、トランペットを吹いていました。応援で球場でも吹きましたよ!

植物が好きで、小さい頃は花屋さんになりたいと思っていたんです。高校の授業でオジギソウについて学ぶ機会があり、何回も触っては「なんで葉が閉じるのだろう」と思っていました。調べてみてその仕組みを知った時、感じた植物への興味の高まりを今でも覚えています。

また、農業にも興味が生まれ、食料問題の解決など自分がそれに携わることができれば世界が少し良くなるかなぁという思いを持っていました。

 

清水 僕は兵庫県立猪名川高校へ通っていました。「進学校」という雰囲気の学校ではなかったので、まわりの楽しいことにあまり流されすぎず、ひたすら勉強していた毎日でしたね。

文理選択の時に、自分が最終的に進みたい分野を、経営・建築・農学で悩みました。我ながら幅広すぎるなあと今考えると思います。結構なんにでも興味を持つタイプでした。

清水 皇稀さん

清水 皇稀さん

高校の先生に相談した時に「実験することは大学の環境でしかできないけど、経営や建築なら、自身のやる気さえあれば大学に居ながら別の場で学ぶ事も出来る」という言葉が返って来て「なるほど」と思い、農学を選ぶことにしました。

なぜ農学にも興味を持っていたかというと、小さい頃から何事でも「仕組み」を知る事が好きな方で、生態系全体の仕組みを考えたときに、それらのエネルギーの最下点である「植物」の仕組みを研究するということに興味があったからです。

 

 

【農学に興味を持つ中で、府大の「生命環境科学域」を志願した経緯はなんですか?】

江川  農業や食糧生産に興味はあったものの、トラクターを使って土を耕したり…みたいなイメージの事は自身がやりたい事とは違いました。当時、トランスジェニックや遺伝子組み換えがこれから凄くなるという世の中の風潮があり、「バイオサイエンス」への興味が強かったです。なので農学をさらに幅広くとらえる「生命環境科学」という学域名はむしろ良かったですね。

元々は神戸大学を希望していましたが、センター試験の成績で志望校を変えました。府大のほうがさらに家から近いという理由もありますが、元々能天気な性格なので農学であればどこに行ってもやりたい事は見つかるだろうなぁとは思っていましたね。(笑)

 

清水  農学のイメージってなにがあると思います? 皆さん真っ先に思いつくのは農業なのでしょうが、僕も江川さんと同じでバイオテクノロジーに興味があったので、それができる農学を選びました。生命現象を活用した技術は、何かの材料や薬など色々なカタチに応用されます。ですので、僕も農学という名に拘りはなかったですね。

府大を選んだ理由は、まあ、自宅浪人生活をしてチャレンジした結果、縁があってめぐり合った大学とでもしておきましょう(笑)でも、府大に来てよかったと思っています。他の研究型大学とレベルの違いを感じる事もありませんし、何より他の府大生の応募が少ないのか、学内のプログラムに通りやすいと思っています。のどかな感じというか、何にでもガツガツとチャンスを掴みに来る貪欲すぎる学生が少ないという感じですかね。

たとえば、学内プログラムで3年生の終わりにアメリカ ニューメキシコ州へアントレプレナーシップ教育の現場を体験する事が出来ました。自分が持つ面白いアイデアを如何に投資家へアピールするかを学べ、学生のみならず企業家たちがどのような環境で過ごしているか肌で感じる事が出来たのは大きな財産となりました。

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江川 私も同じように、府大に来てよかったと思っています。この研究室に入れた事は本当に良かったと思っていますし、部活(大阪府立大学軽音楽部)も楽しいです。

部活には違う学域学類の人がいっぱい居てそれぞれバックグラウンドが違いますし、色んな種類の学生と話が出来るのは、総合大学ならではの楽しさだと思います。

 

 

【何の研究をされていますか?】

清水  世の中には「寄生植物」という、その名の通り他の植物に寄生する事で生命を維持する事ができる植物がいます。この寄生植物は農作物にも寄生し、例えば寄生植物の一種であるストライガは世界規模で見ると1兆円程の被害が出しているんです。そういった社会課題もありますので、この寄生植物を取り除くための研究をしています。

江川  寄生植物の中でも私達が所属する青木ゼミ(機能ゲノム科学研究グループ)では「オロバンキ」と「ネナシカズラ」を主に扱います。

私はオロバンキを研究対象としているのですが、私の扱うオロバンキの1種は国内には自生しておらず、もし国内で流出してしまったら日本の農業環境へ多大な被害を及ぼす事から、府大と神戸大しか取扱いができない輸入禁止植物なんです。それを研究対象として扱えるのは、府大で学ぶ1つのメリットかもしれません。

そんなオロバンキではありますが、最初に見た時は思わず「かわいい!」と思ってしまいました。あ、でも、元から寄生植物に興味があったわけではありません(笑)。

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清水 僕も最初から興味があったわけじゃなかったなぁ。寄生植物を見た時は、「とりあえずやってみるか」くらいのモチベーションでした(笑)。

僕は、江川さんが紹介してくれた2つの寄生植物のうち、もう1つの「ネナシカズラ」を研究対象にしています。寄生植物を取り除く事がゴールですが、この分野の研究は1950年代からスタートしているにも関わらず未だ詳しい事は分かっていません。

現時点ではこの「寄生植物を知る」というステージなので、まだまだこれから研究するべき事が多い分野ではあり、将来の新規性がものすごく高い分野のひとつです。

 

【今回お2人の論文が、ほぼ同時に別々の国際論文誌に掲載されたとの事ですが、どのような点が評価されたのでしょうか】

江川  一言でいえば「新規性」です。清水君と私は同じジャンルの研究をしているのですが、アプローチが違ったため、別々にアクセプトされました。

functional_genomics07私は寄生植物の栄養の輸送器官に着目し研究していました。他の植物から栄養を取る寄生植物ですが、どのような細胞を通って栄養を運んでいるかはまだ解明されておらず、調べてみて普通の植物とは違う栄養輸送をしていることが解りました。

この違いが寄生植物の寄生植物たる所以であり、今まででは知られていない事実として評価されたんです。

 

清水  代わって僕はネナシカズラと宿主のくっついている部分の細胞・遺伝子に着目しました。どんな細胞があり、どんな能力があるのか、これもまた誰も調べたことがなかったんです。細胞が成長していく過程でどんな遺伝子が動いているか、変化しているかを調べた時に、お手本となる植物とは違う現象が起きている事を発見したんです。

 

江川  清水君は本当にメリハリがあるとうか、スイッチが入った時の集中力が凄かったですよ。最初は変な人だなぁと思っていたのですが(笑)、そんな彼だからこそ今回の発見があったと思います。

 

清水 いやいや(笑)僕は江川さんは優しい人だなと思っていましたよ。でも彼女は手先がとても器用で、試料の扱い方が凄く優しいんです。そんな丁寧な研究スタイルだからこそ、今回の功績を残せたと身近にいてとても感じています。

 

【今後の進路はどうお考えなのですか?】

江川  私は日本酒メーカーに就職が決まりました。単純に飲む事が好きなのと、植物(米)が関わるので縁あって採用頂いたんです。同じ分野の仲間を見ると、食品や化粧品業界への就職が多いですね。

 

清水  僕は博士課程に進むことを決めました。functional_genomics06もうちょっとネナシカズラを研究しようかなと。
今までは寄生植物の細胞と遺伝子に着目して研究していたのですが、次は寄生植物と宿主が繋がった箇所からどのような仕組みで栄養を吸収しているかを研究しようと思っています。

このジャンルはまだまだ未開拓なので、自分が研究した事が世の中に名を残せるように頑張りたいですね。

 

 

【最後に、この分野をめざす後輩や受験生にメッセージを】

江川  高校生の時は、大学に入ったらそこで自分の人生はおおまか決まるものだと思っていました。でも、これまでの研究生活や今回の就職活動を通じて、自分は「なんにでもなれるんだ」と可能性を感じる事が出来ました。

大学を選ぶ際に、その先の就職などを考えるよりも、「やりたいこと」や「学びたいこと」を感性に任せて決めた方がいいんじゃないかなと今は思います。だって、好きじゃないと研究は続かないですから。

 

清水  確かに。面白そうな事ならなんでもやっちゃえばいいと思いますね。こんな事言うのもなんですが、高校の先生の言う事が100%正しいわけではないですし。

高校の時は理科の資料集をみて「こんな魔法みたいな事が出来るんだ」とよく思っていました。パッと見た時に意味が分からないものに出会った時、不思議だな、凄いなと思う事で「面白いと思う力」は養われると思うんですよね。

最近研究が忙しくてそういう事を思えなくなる時もあるのですが、大事にしたいなと思います。

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指導教員の青木考教授と

 

<参考ページ>
・機能ゲノム科学研究グループWebサイト
https://www.kohaokilab.com/

・植物バイオサイエンス課程Webサイト
http://www.biosci.osakafu-u.ac.jp/plantbio

 

【取材日:2018年1月11日】※所属は取材当時。