2018年1月19日(金)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは大阪府立大学 大学院 工学研究科 髙橋 雅英教授。テーマは「材料は科学でどこまでかしこくなるだろうか~考える材料の見る夢~」です。

近年、外部の刺激に応答して特性を発揮する「かしこい材料」がどんどん開発されています。

「かしこい材料」とは身近な例でいえば、メガネのフレームなどに使用されている形状記憶合金。力を加えて曲げても元の形に戻りますよね。架空の物語ですがSF映画「ターミネーター」で登場するサイボーグ。自由に形を変化させる液体金属製のボディは、まさに究極の「かしこい材料」です。

「かしこい材料」の開発において重要なキーワードが「自己組織化」。砂漠の砂紋における整列構造や氷の結晶の成長などに見られる、特定の秩序構造を自発的に形成することです。この自己組織化を応用すると、高い機能性材料が開発できると考えられています。

先生の研究の1つ、人体に潜り込むミクロのソフトアクチュエータ(動く部品のこと)。体内の微小管内で人体のエネルギーとなる物質を運搬するタンパク質「モータータンパク質」は非常に有効ですが、移動速度が極端に遅いことが難点。

これに代わる、もっと速くてパワフルなソフトアクチュエータ――薬剤、細菌、水泡、微小粒子を細胞内や生態環境で運搬するデバイス――の研究を行うなかで、皮膚を挟むとシワができ、放すと元に戻るという特性をミクロの世界に応用できないかと考えました。

シワには、シワの凸凹の凹んだところの大きさに合った物だけを掴むという特徴があります。この特徴を利用した上で外部刺激に応答するシワを作ることが可能かどうか、実験が繰り返されました。

内側に高分子が入った特殊なプラスチックのシワの上に50ミクロンの玉を置き温度を下げると、シワはそのまま玉を捕まえて動きました。体温に近い温度で再現できれば、燃料の必要もなく体内を移動できるソフトアクチュエータが実現でき、高機能・多機能な微細構造表面としての褶曲構造の実現が可能となります。

近い将来、マイクロメカニクス、微小ロボット、微小流路、人工皮膚・臓器などへの応用が考えられています。

「新しい材料、新しいコンセプトで、もっと多機能・高機能で人体に入れるデバイスを開発する。我々のかしこい材料への夢はこういうところにあります」と高橋先生。

本編のお話にもありましたが、風邪を引くなどすると、あらかじめ人体に注射されたロボットが、体温が上がるなどすると特定の機能を発動し、ウイルスを体外に排出する。そんな「かしこい材料」が私たちの病気を治してくれる――まるでSF映画の世界を思わせる未来が訪れることを予感させるお話でした。
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また今回のアカデミックカフェでは、分子を選ぶ機能を持った農薬センサーを開発している研究者ルカ・マルファッティさん(サッサリ大学化学科准教授・国際ゾルーゲル学会 理事)をゲストに、ヨーロッパにおける「かしこい材料」の現状について報告いただきました。

ルカさんが在籍する大学があるイタリアのサッサリは、国内随一の美しいビーチを有し広大な自然に彩られた魅力あふれる地域。そんな環境で研究を行っている彼は、ヤギのチーズ、サンゴ、貝殻といった自然の恵みから発想を得たといいます。

これらの共通点は、異なるサイズの穴が開いていること。そこから最先端の材料に穴を開けて使うことを思い付きました。


方法としては、まず鋳型になるような分子を液体の中に入れます。液体が固体になったら、鋳型の分子を引き抜くことができるので、その分子があった所が穴として残ります。

穴の開いた材料の最大の特徴は、穴が開いている分、表面積が大きくなること。例えば材料10グラムの中に、なんとサッカーグラウンド一杯分の分子を付けることができます。

特にセンサーとして使うには、この広い面積に検出したい分子をたくさん付けることができ、センシング(センサーなどを使って情報を計測・数値化すること)する時に感度が上がりとても有効です。

また穴の開いた材料は調節が可能なため、特徴的な形にしたり、穴の中にあらゆる物を入れて機能化することができるのです。

ルカさんの住まいがあるサルディニアは、農業がとても盛んな都市。ここでは農薬をコントロールするのが非常に重要な問題です。パラオキソンという農薬は有効ですが、人間にとっては毒性が高い。そこでこの農薬を超高感度でセンシングする技術が求められています。

農薬の検出には「ラマン」というレーザー光線を使う方法で行いますが、それだけでは感度が出ないので、分子を捕まえてシグナルを増幅するような穴が必要だとわかりました。

そこでこの農薬だけが入れる鍵穴を作る研究を行いました。鍵と鍵穴の関係を分子レベルで実現できるのが「分子インプリント技術」。鍵となる分子を使って、冒頭で説明した要領でビーカーの中で鍵穴を作ります。

この技術の特徴は、鍵の分子を抜いた後に残った穴で、最初の分子だけを捕まえて認識。つまり危険な農薬だけを検出することができます。この穴と、グラフェン(炭素原子とその結合からできたシート上物質)を使用し、新しいセンサーを開発した結果、実際に環境に有害な農薬の検出感度が非常に向上し、実用レベルまで上がりました。

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<高橋先生おすすめの本>

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (フィリップ・K・ディック著 浅倉久志 訳/早川書房)

空想科学を最新科学で解いてみた!! (科学雑学研究倶楽部/学研プラス)

Mad Science――炎と煙と轟音の科学実験54 (Theodore Gray 著、高橋信夫 訳/オライリージャパン)

オタク学入門(岡田斗司夫 著/新潮社)

【取材日:2018年1月19日】※所属は取材当時