幼いころから自動車が大好きだったという工学域機械系学類(当時工学部機械工学科)OB森 基泰さん。

学部時代には自動車部や学生フォーミュラに所属し、大阪府立大学大学院卒業後は、トヨタ自動車株式会社へ入社。「クルマのエンジニア」になるという幼少期からの夢を叶えられました。

インタビューでは普段の仕事内容から、これからの「クルマ」の変化や、業界の今後の動向など様々なお話を伺うことができました!

 

■プロフール
森 基泰
トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニーボデー先行開発部 第2ボデー開発室
奈良県出身
2010年 工学部 機械工学科卒業
2012年 工学研究科 機械系専攻前期課程修了

●現在携わられている仕事の内容について教えてください。

自動車の車体(以下、ボデー)の設計をしています。自動車のボデーは人間でいうところ「骨格」や「皮膚」にあたります。ボデーは衝突や振動から乗員を守るために軽くて丈夫であることが求められます。人間の骨格がたくさんの骨が組み合わさってできているのと同様で、ボデーは薄い鉄の板(鋼板)を曲げたり伸ばしたりして作られた部品をたくさん繋ぎ合わせることでできています。この一つひとつの部品をつなぎ合わせる技術が「接合技術」であり、最も一般的なスポット溶接を思い浮かべる方が多いかと思いますが、私はこの接合技術の一つである「接着剤」を用いた接合技術を開発しています。スポット溶接と接着剤を組み合わせて使うことにより、ボデーの軽量化、性能向上を狙っています。

通常、ボデー設計の仕事というと、ある開発車種のある部品を担当し、図面を描くのが仕事になりますが、私の場合は、そういった設計者がボデーを設計する際に、すぐに接着技術を使うことができるよう、期待できる効果や使い方などを先行して検討するのが仕事です。だからボデー”先行”開発部なのです。

具体的には、ある新しい接着剤をボデーに使う際、その接着剤を塗ると何が起きるのか?どれだけ強くなり、軽くできるのか?どこにどれだけ塗れば良いのか?などは最初から分かりませんよね。知りたいこと、期待していることを確認するために、まずは小さい試験片(テストピース)を用いて試験をして確認し、次にボデーの一部分を模擬した試験体で確認、その次は実際のボデーを作って確認といった流で、小さいスケールから実車まで順に確認していきます。こうした試験を自ら計画し、効果予測と原理、試験実施、結果解析、考察に至る一連の流れを繰り返します。

なので、まだ分かっていないことを明らかにするために、仮説をたて、試験を計画し、結果を解析、考察するというのは大学の研究室の研究にも通じるところがあると思います。

時には、期待しているような結果が得られなかったり、結果を原理的に説明できなかったりと、もどかしい日々が続くこともありますが、今自分がやっていることがお客様に繋がっていて、いつかこの技術がお客様の役に立つと思うと自分が頑張らなくては!と気持ちも奮い立ち、仕事へのパワーが湧いてきますね。

 

●トヨタ自動車株式会社に入社して、感じたこと驚いたことがあれば教えてください。

入社して一番驚いたことは人が多いということです。

同期だけで約500人、従業員7万人超、海外事業体を含むグローバル全体で33万人もの社員がいます。

大阪府立大学は学部生、院生を含めて7700人程度なので、約府大10個分の人がトヨタに勤めていることになります。部署も200以上分かれているので、親戚や友人に「○○知ってる?トヨタに勤めてるんだけど!」と聞かれても大半は知らないので申し訳ないですね 笑

さらに関係先や仕入先様なども含めると、途方もない人たちとかかわりを持っていることになります。入社して仕事をしていく中で自動車業界の裾野の広さを改めて感じました。

‐府大生も多く入社していますよね。

大阪府立大学からは毎年十数名ほどが入社し、現在も社内に400名ほどの卒業生がいます。年に一度は同窓会『なかもず会』もあり、一緒に仕事をしている上司や関係者が実は府大出身だったなんてことも結構ありますよ。

また、少し話は変わりますが、実際にボデー設計職場に配属されてから知って驚いたことは、仕事で絵を描く機会がたくさんあり、絵心が必要だということです。絵心といっても画家やイラストレーターのように芸術的な絵を描く才能のことではなく、部品の形状や構成が他の人が見ても分かるように短時間でバランスよく描く能力です。最初の研修では、線を真っ直ぐに描く練習や、実際の部品を見ながら描く練習をしました。図面は定規を使ったり、CADで描いたりするものだと思っていたので、手描きの絵を描く機会が多いとは思ってもみませんでした。私の場合、絵を描くのが得意ではないので、もっと絵を描く練習をしておけばよかったなと思いましたね。

 

●過去に研修で海外拠点に赴任されていたと伺いました。どのような研修だったのでしょうか。また、その時感じられたことを教えてください。

私は海外研修で2015年から1年間アメリカのミシガン州にある海外事業体へ赴任しました。業務内容自体はボデー設計で、日本にいる時と大きくは変わりませんでしたが、言葉も違う、文化も違う国でローカルの人々と一緒に業務をしていくことで、グローバル社会で働くとはどういうことかを現地で身をもって学んできました。

私の場合は、赴任前に北米向けの車両プロジェクトに携わっていたこともあってアメリカへ1年間の派遣でしたが、出身部署や業務内容によってはヨーロッパ、中国、タイ、インド、南アフリカなど様々な地域に1~2年派遣されることもあります。この研修プログラムで全員が海外へ赴任するわけではありませんが、3~5年目の半数以上の若手社員がこの研修に参加します。

海外研修で学んだことは、現地に行って実際に自分で感じることが何よりも大切だということです。
その地に行かないとわからないことはたくさんあって、例えばアメリカでは大きな車が人気な理由を改めて実感できました。

アメリカは国も大きいし、道も広くて大きいクルマでも運転は苦にならないからアメリカ人に人気なのだろう。これはアメリカに行ったことがない人でも容易にイメージできることだと思いますし、私も漠然とそういったイメージを持っていました。
それでも私は大きいクルマより、スポーツカーのような車高の低いクルマが格好良いと思っていました。ところが、実際にアメリカに行って生活をしているうちに、なぜだかピックアップトラックがとても格好良く見えてきて、ピックアップで旅やキャンプに行きたいと自然と思いました。不思議ですが、日本にいるときには気づくことができなかった大きなクルマの魅力に現地で生活していくうちに感じるようになりました。帰国後は今まで同様スポーツカーも好きですが、ランクルなど大きなクルマにも乗ってみたいという気持ちに変わりました。さすがに大きなアメリカ車を道の狭い日本で運転する気にはなれませんが(笑)

行かずにイメージすることが容易に出来たとしても、実際に行かないと分からないこと、実際行ってみると違っていることはたくさんあるのだなと実感しました。

また、生活面でいうと、2,3週間ホテル暮らしをする海外出張と、実際に1年生活をする海外研修では得られるものがまったく違います。1年間生活をしていると、スーパーに買い物に行って顔馴染みのレジの人と世間話をするようになったり、一年の中で、短い四季が存在して、夏は夜9時まで明るく、冬は朝起きても真っ暗で、あたり一面雪で銀世界が広がっていたり、文化的な面でいうと、宗教上の都合で上司が1週間以上突然仕事を休んだり、祝日の独立記念日には街中で真昼間から花火があがったり、フットボールシーズンの試合日には試合開始の何時間も前から駐車場でバーベキューをしていたりと、その国、その地域ならではの国民性や文化を知ることができました。

1年間の赴任を終えて帰国した後は「1年間海外でやってこれた」という自信もつきました。次はいつでもいける自信がありますし、チャンスがあればまたぜひ海外で仕事をしたいですね

 

●仕事の中で大切にされていることがあれば教えてください。

先ほどの海外研修の話と繋がりますが、自分で「現地」に足を運び、自分で「現物」を確認する。現地現物の考え方を大切にしています。
自分が見ていないものは自信を持って話すことができないので、出来る限り自分で見て確認するようにしています。
そのために大切なのがフットワークの軽さだと思っていて、フットワークの軽さを常に意識し、人に動いてもらうのを待つのではなく、まず自分が動くことを大切にしています。

-フットワークの軽さに関するエピソードなどあれば教えてください。

学生時代の話になりますが、学生フォーミュラで週末に東京で自動車会社によるセミナーが開催されるという情報を直前に聞きつけた私は、とにかく宿も取らず着の身着のまま夜行バスで東京に向かいました。セミナー後、セミナーで知り合った学生を通じて、学生フォーミュラの学生が集まる飲み会に飛び入り参加。そこで知り合った学生が、私がその日の宿も決まっていないことを知り、初対面にも拘らず自宅に泊めてくれました。その学生とは、その後連絡を取り合うことも一切なかったのですが、なんと3年後のトヨタの内定式でまさかの再会をしました。

これもフットワーク軽く東京へ出向いたことによってできた縁だと感じていますし、その時の学生とは、今ではとても仲の良い友人の一人となっています。

 

●業界全体を俯瞰して、今後どのような力や視点が必要とされると感じますか。

これは自動車業界に限らないことですが、業界という垣根が低くなっていくことが予想されます。
今、自動車業界は100年に一度の大変革期と言われています。自動車業界で言うと、EV(電気自動車)やAIによる自動運転に代表されるように電機系分野や情報系分野との関わりが非常に強く、深くなってきていますし、新しい価値、新しいビジネスモデルが生まれてきています。

それぞれの分野しか知らない人ではなく、両方、またはそれ以上の知識が無いと生き残りが難しくなってくるでしょう。異分野を融合させられる力や複数の分野のバランスを取る視点が必要とされると感じます。

-学部時代からその思考を見につけるにはどうすればいいのでしょうか。

機械も電気も情報もと3倍の勉強をすることはなかなか難しいことです。
なので、まずは少し学んでみようという姿勢をとればよいと思います。共通科目や教養科目などで自分の専門外のことを学んでみてはいいのではないかと思います!

私は学部・大学院時代は機械一筋でやってきたので、今から他分野のことも少しずつ学び始めようとしているところです。

また、先ほど挙げた大変革期の最中で、社会の変化のスピードがとても速いと感じます。
社内でも社会の変化に遅れることなく、お客様のニーズにタイムリーに応えていくために、「スピード」を意識した開発が求められています。これからの自動車業界は決して安定したものではなく、従業員皆が危機感を持って新しい技術、新しい価値の創出にチャレンジしています。スピード感を大事に、変化に取り残されないように自分がどんどん変わっていくのだという気持ちを持たなければならないと思います。自動車業界を目指す方は、安定ではなくチャレンジという意識が必要です。

●在学中はどのような学生でしたか。また、府大に進学されたきっかけ、自動車業界に進まれるようになったきっかけを教えてください。

幼少期からクルマが好きで、道行くクルマの名前をすべて言えるようなこどもでした。
その頃から、クルマ好きということはまったくぶれずに、中学生の時にはクルマのエンジニアなる、トヨタに入るということを将来の夢として掲げていました。

トヨタに入ってクルマのエンジニアになるという夢があったので進路選びも迷うことはありませんでした。理系に進み、大学も工学部機械系。トヨタに就職する道がある大学を探しているなかで、大阪府立大学にめぐり合いました。

学部生のときは部活動にも熱心に取り組みました。
1回生から自動車部に入部し、3回生では自動車部の主将をも務め、その時、自動車部のこれまでの活動と並行して学生フォーミュラチームも立ち上げました。
学生フォーミュラの存在は高校生のときから知っていて、大学生になったら学生フォーミュラをやろうと決めていました。学生フォーミュラチームのある大学を選んでいたつもりだったのですが、いざ府大に入学してみるとなかったので驚きました。笑

入学後は、1回生のときから学生フォーミュラを立ち上げたいと周りの先生や学生には話していたのですが、なかなかメンバーが集まらず実現できませんでした。1度はチーム立ち上げを断念しましたが、3回生のときにようやく一緒にやろうという仲間に出会い、チーム立ち上げが実現しました。そこからの2年間は学生フォーミュラに全てを捧げ、何度も壁にぶち当たり、メンバーの離脱やチーム崩壊の危機を乗り越え、4回生の時にメンバー8名と共に府大として大会出場を果たしました。今も府大の学生フォーミュラチームが活動していると聞き、嬉しい限りで、応援したいですね。

 

●大学で学んだことの中で、直接的もしくは間接的に仕事に活かすことができた知識、経験、体験などありますか。

学部生のときに学んだ材料力学は業務でもよく使うので大学で使ったテキストを今でもデスクにおいています。大学で学んだ基礎知識と仕事は根底の部分で結びついていることが多いです。

研究室は、伝熱工学研究室で、燃料電池に関わる流体の流れの研究に取り組んでいました。
目では見えない流れのメカニズムを解明するため、燃料電池内部を模擬した流路でレーザーとカメラを使った可視化実験を行い、実験装置の設計・組立から実験計画、結果解析・考察に至るまで幅広くやらせていただきました。当時の研究が現在の仕事に直接関係しているわけではありませんが、実験計画を立てたり、結果を解析・考察したりする力は大いに活かせています。在学中の6年間は、学業と部活動を通じてたくさんの方々に出会い、先輩、同期、後輩と苦楽を共にし、研究室の教授をはじめたくさんの先生方にご指導いただきました。その6年間の全てが今の自分に確実に活きています。

これから「クルマ」はどう変化していくのでしょうか。個人的なお考えで結構ですので、お教えください。

社長の言葉の受売りですが、クルマは、数ある工業製品の中で唯一「愛」がつく言葉です。「愛車」という言葉はあっても「愛飛行機」や「愛テレビ」という言葉はありません。
今後IT技術の進化などでクルマにAIが搭載され、人とクルマのつながりがさらに強固になれば、自身の身代わりや家族同然といったこれまで以上に「愛」を感じるものになるのではないでしょうか。

自動運転については、技術的課題だけでなく法整備などの課題もたくさんあるので、すぐには自動運転のクルマが街中を走り回る世界は来ないでしょう。しかし、確実に言えることは、100年に一度の変革期にあるクルマは、今後ますます進化し、これからの進化したクルマが世にでることで、今までクルマに乗れなかった人が乗れるようになり、今まで行くことができなかった場所に行くことができるようになり、もっともっとたくさんの人々の生活を便利にしていけると信じています。

新しい技術、新しい価値をのせた「愛」あるクルマが社会を変え、人々の暮らしをより便利で豊かなものにする。

そういうクルマ作りに今後も最前線で携わっていきたいです。

 

●最後に、大阪府立大学の学生にエールをお願いします。

学生生活は4年でも、6年でもとても短いです。やりたいことがあればどんどんチャレンジしてください!
それが勉強でも、バイトでも、部活でも、プライベートなことでも何でもやると決めたら一所懸命に。
何事にも一所懸命に取り組むことが、一生懸命に繋がるのだと私は思います。
やらない後悔よりやって後悔!やって後悔しても、それを経験として次のステップに進んでいけます。悔いのない学生生活を送るためになんでも全力でチャレンジしてみてください!

 

【取材日:2018年1月25日】【取材:マネジメント学類 右大輝】 ※所属は取材当時。