フランスのデカトロン社は欧州最大手のスポーツ用品、アウトドア用品のリテイラー(小売業者)。その日本法人ノヴァデックジャポン株式会社(大阪市西区)でPR(パブリック・リレーション)業務をまかされるのが、本学の卒業生の仲 志乃生さんです。在学中に2年間の海外留学を経験。その国際感覚と語学力を生かして、エアライン業界などで活躍後、「スポーツの楽しさを広める」いまの仕事に就きました。

この先輩にとって本学で学んだことにはどんな意義があったか、社会に出てからどんな経験をされたかを、在学生たちが取材しました。

◆プロフィール

仲 志乃生(なか しのぶ)さん

1995年 大阪府立大学総合科学部 入学
1998年~2000年 海外留学のため2年間休学
2000年 大阪府立大学 総合科学部 人間科学コース 卒業
2001年~2003年 旅行会社勤務
2004年~2010年 大手航空会社 大連支店 勤務
2012年~2013年 京都大学iPS細胞研究所 勤務
2013年~2017年 日系航空会社 勤務
2017年~ ノヴァデックジャポン株式会社 勤務

 


●ご出身の総合科学部は現代システム科学の前身となっている学部ですが、どんなことを学んだかに興味があります。

当時の総合科学部は文系と理系の両方の学びのフィールドが融合したフレキシブルな学部で、いまの現代システム科学域に似ています。文系と理系の垣根を超えて、幅広い学生が集まる雰囲気は斬新で、刺激的でしたね。

父と同じ国語教師を目指していた私は、3年生のときにある先生と出会ったことで、考え方や価値観が大きく変わりました。それが現在は大学院の人間社会システム科学研究科におられる大形 徹(おおがた とおる)教授で、当時は中国の思想・書論などを教えておいででした。大形先生は中国の古代文字である篆書を研究されると共に、不老不死などの神仙思想をご探求。それまで“普通の学生生活”を過ごしてきた私は、先生が紐解こうとする深遠な世界に魅了され、卒論では中国で瑞獣(吉兆をもたらす動物)とされるコウモリを扱ったほどです。

 

●1998年から2年間休学して、海外へ留学するきっかけを与えてくださったのも、大形先生だったそうですね。

3年生のときに大形先生が顧問をお務めの書道クラブに関わるようになり、そこに集まる大勢の中国人留学生と親しくなりました。すると「中国語を学びたい」との欲求が入道雲のように湧き上がりました。そんな私を見て「中国へ留学してみたら」と背中を押してくださったのが大形先生。夏休みの1か月間、黒竜江省ハルビン市の大学へ留学しました。

ハルビンは1月の平均気温が-18.6℃という酷寒の地。そんな街で留学生活を2年も続ける日本人留学生と出会ったことで、軽い気持ちで留学していた私の意識が変わりました。「この人の目には私とは違う世界が見えているに違いない」と確信。もっと本格的に“日本の外の世界”に身を置きたくなって、2年間の休学を決意しました。

休学中の2年間は、まず馴染みのあるハルビンで中国語を1年間学び、次にカナダで英語を半年学んだ後、北京で半年過ごしました。休学することにはあまりためらいがなく、友人や両親にもあまり相談せず自分で決めました。

●2年間の留学を通して、外国語以外の「学べたこと」を教えてください。

最大の収穫は、「枠組みが異なる社会」で生きるには「違う考え方」が必要だと気づけたことです。国外に身を置けば私はマイノリティ。日本では感じたことのない様々な“厳しさ”も体験しました。そのお陰か、物怖じしない性格になり、どこへ行っても“現地の人”みたいにふるまえる剛胆さが身につきました(笑)。このことが、社会に出てからの私をどれだけ支えてくれたか。先日もいまの仕事の関連でフランスへ出張しましたが、地球上のどんな街でも単独行動できる自信があります!

 

●本学を卒業した仲さんは、ある旅行会社にご就職。旅行業界を選んだ理由や当時のお仕事を教えてください。

日本人向けに中国等へのツアーや航空券を販売する会社に就職したのは、多くの人が「違う世界を見る」お手伝いがしたかったから。チケットの購入申込を受けて手配するなどの業務を受け持っていましたが、中国国内でのSARS(重症急性呼吸器症候群)大流行のあおりを受けて、その会社は入社2年目で経営破綻。

まさか新卒で入った会社が破綻するとは思っておらず、呆然とする私を救ってくれたのは、2社目の勤務先となった大手航空会社の大連支店長からのお電話でした。「中国語が得意な女性を探している。大連の空港で働いてみないか」。家族に相談した後、中国へ行くことを決め、遼寧省大連市へと旅立ちました。

2004年当時、中国沿海部には急速な発展の波が押し寄せ、大連も大きく変貌する途上。お馴染みの牛丼店やファーストフード店がある一方、路地裏には日本でいう“昭和の臭い”が漂い、最初の1年半勤めた大連周水子(しゅうすいし)国際空港ではコンピュータシステムが未導入だったため、チェックイン券等の業務もすべて手作業でこなしました。2年目以降の4年間は、現地に増えつつあった日系企業へのチケット販売を行う営業職に従事。意欲的に働いた日々でした。そんな大連での生活も、会社の経営不振問題で暗転。人生2度目の勤務先の破綻、再建による失職を経験しました。私もさすがに落ち込んで、失意のうちに帰国。しばらくは新たな就職先を探す気力もなく、「とりあえず」のつもりで派遣登録したことが、京都大学iPS細胞研究所で秘書として働く“次のステップ”につながりました。

●所長の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されるなどで注目されるiPS細胞研究所は2010年4月の設立。仲さんが勤め始めた2012年頃はまだ立ち上げ段階だったのでは?

そうです。あまり設備もなく、人も少ない状態のときから勤め始めて、研究所が成長していく過程を目撃できました。私は山中教授が阪大から招かれた先生に秘書として寄り添ったほか、資金面の管理をしたり、人材採用に関わるなど多彩な役割をまかされました。登録先からの派遣だったため、最初のうちこそiPS細胞の何たるかさえ分かっていませんでしたが、再生医療を進展させる研究だと知るにつれて、その一端を担うことが誇らしく思えました。しかし、雇用条件の変更を打診されたとき、「ずっとその条件では難しい」と考え、やむなく次の勤務先を探すことになったのです。

 

●次にお勤めの中国系航空会社でのお仕事と、2017年に現在のノヴァデックジャポンへ移った経緯を教えてください。

2013年から勤めたのは中国初の民間LCC(格安航空会社)が千葉県成田市に設立した日本法人で、エアライン業界へ戻れること、中国語を生かせることが魅力でした。そこではデジタルマーケティングと連動する広告宣伝の仕事を担当。中国企業に対して日本人が持つイメージを払拭しようと、日本人が登場する国内風景の写真をなるべく使うなどの工夫をしました。

やがて「もっと幅の広い表現がしたい」と考えるようになり、ご縁があって現在のノヴァデックジャポンに。ここはフランスに本社があるデカトロン社が設立した日本法人で、デカトロン社が世界でも屈指の規模で展開する多彩なスポーツ用品、アウトドア用品を国内のファンへご紹介する拠点です。私の肩書きはコミュニケーションマネージャーとなっていますが、デカトロンと日本の皆さんをつなぐ情報発信全般を受け持つ仕事だとお考えください。

これまでの業界とかけ離れてはいますが、「誰かを笑顔にする、元気にする」ためのお手伝いという想いは一貫しています。外資系だけに社長がフランス人であるほかスタッフも実に多国籍。英語でコミュニケーションする場面も多く、これまで培った語学力やグローバル感覚がとても役立っています。

スポーツを愛する皆さんの情熱にお応えする多彩なアイテムを展開するデカトロン。その魅力は大阪市西区の「DECATHLON LAB(デカトロンラボ)」で体験できますから、興味がある方はお越しください。

●いま振り返って、「大阪府立大学で学んでよかった」と思うのはどんな点ですか?

府大に入らなければ大形先生や留学生の皆さんとの出会いもなく、いまの私はなかったでしょう。「違う世界」にふれたことで視野が広がり、素敵な経験をたくさんできました。学生時代にもう一度戻ったとしても、同じことをするでしょうね。職歴では苦労もしましたが、挫折や失敗も含めた色々な経験が人生を豊かにしてくれます。

 

●私たち学生へのメッセージはありますか?

「こうしなければ」なんてルールで自分を縛らず、好きな道を迷わず進むことをお勧めします。「好きなことが見つからない」という人もいますが、なにか「凄いこと」を見つけなければと考えているのでは。いますぐできる「好きなこと」を素直にやってみる。そこから始まるように思いますよ。


 

《取材した学生の感想》

〈マネジメント学類 右大輝〉
現代システム科学域の前身となった学部の先輩に仲さんのような素敵なOGさんがいらっしゃることを知り、嬉しくなりました!私自身4月から社会人になるのですが、たくさんの「違う世界」に触れ成長できるよう頑張ります!

〈電気電子系学類 宇佐美一樹〉
いろんな経験をしてこられた大学の先輩のお話は、聞いていてとても楽しかったです。「好きなこと」に正面から向き合うこと、僕も実践できたら良いなと思っています。

〈緑地環境科学類 川勝大誠〉
今回はとても貴重なお話を聴かせていただき、自分が思っている以上に世界は広く、また自分自身で色んな場所に行って知識の幅を広げたいと思いました。これからの学生生活でも多くの知識を増やしていきたいです!

 

 

【取材】
工学域 電気電子系学類 宇佐美 一樹
生命環境科学域 緑地環境科学類 川勝 大誠
現代システム科学域 マネジメント学類 右 大輝

【取材日:2018年1月29日】 ※所属等は取材当時