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【教育PRO記事】座談会/大阪府立大学の新たな挑戦―”世界に翔く地域の信頼拠点”をめざして~辻洋学長と大学の未来を語る~(1)

 

女性研究者のロールモデルを参考に

―真嶋先生は、様々な職歴を経て大学の研究者になられています。特徴あるロールモデルのお一人だと思います。簡単に経歴を紹介して頂けますか。

真嶋 元々、保健師、看護士として働いていましたが、急速に普及し始めたコンピュータが「看護の仕事を大きく変革するのではないか。そのことに携わりたい」と考え、情報工学の勉強をするため大学をめざしました。社会人で働きながら受験勉強し、香川大学に入学しました。

この時に、学生結婚をして一人目の子どもを妊娠・出産し、育児のため1年間休学しましたが、子どもを保育園に預け、友人のサポートも受け、子育てをしながら大学生活を送りました。修士課程にも進学し、この時から看護情報学や看護教育におけるICT活用に関する研究に従事しはじめました。修了後に神戸市看護大学の助手として就職しました。夫が岡山県で就職しましたので、家族と暮らす岡山の自宅から神戸の大学まで新幹線通勤をして働いたこともあります。

その後、岡山理科大学の大学院工学研究科の博士後期課程に進みました。当時は看護大学が全国的に増え、基礎看護や臨床看護を教える教員の求人は多かったのですが、私が研究している看護情報学や看護教育工学は求人がどこにでもあるわけではありませんでした。博士課程修了後、縁あって福岡県北九州市の産業医科大学に勤務しました。夫と長女が大阪に、私と2歳になる次女は福岡に暮らし、平日は単身赴任のような形で働きました。

2004年に羽曳野市にある大阪府立看護大学の看護情報学分野の公募で採用され、2005年に大阪府立大学と統合した際には、工学部や他学部の先生方との交流が広がり、学内情報教育の強化という方針を受けて中百舌鳥キャンパスに異動することとなりました。「看護、医療における情報システム支援、eラーニング、教育工学」を研究し、現在は看護のケアの方法をeラーニングで学ぶ研究に力を入れています。

学生時代に勉強を続けながら出産・育児をし、女性研究者として直面する妊娠・出産・育児・家事・仕事というハードルを都度乗り越えてきました。そういう私のキャリアが後進のロールモデルとして参考になればと思っています。

 

―学生の時代から育児と仕事をするのは楽ではなかったとは思いますが、笑顔でさらっと振り返られました。女性研究者支援センターの代表にぴったりの経歴とマインドをもつ人ということで、白羽の矢が当たったのですね。

真嶋 前任者の田間泰子先生(教育福祉学類教授) が着目くださり、真嶋という面白い経歴の人がいるという話になったようです。女性研究者の働く環境整備の取り組みを手伝ってほしいと依頼が来ました。もちろん断る理由はなく、そのときからずっと一緒にやってきました。

私が中百舌鳥キャンパスに来たときは、全く女性がいないかのような環境、雰囲気でした。あれからずいぶんと環境整備は進んでいるとは思いますが、現役の院生である清水さんや丸本さんはどのように感じているのかお聞きしたいです。

 

―清水さんは工学、丸本さんは理学ですね。

清水 数理工学分野ですが、周りは男性ばかりです。一方でトイレはきれいなので嬉しいです。

真嶋 トイレはきれいになりましたが、今でも女子トイレは少ないと思います。私が来た頃は女性の更衣室もほぼありませんでした。男性と時間差で着替えるというようなことをやっていました。10年前は、そういった不充分なところが多々あり、それらをひとつずつ整備していきましょうといって始まったのが女性研究者支援センターの事業です。

初めに行った特徴的な取り組みとしては「研究支援員の配置」があります。女性の先生たちが育児や介護と研究を両立するにはとても時間が足りないので、研究時間を確保するために支援してくれる方を付けましょうというものです。研究のデータ整理とか授業の準備、出張のための書類の電子化作成などをフォローして、子どもを保育園に迎えに行く時間には職場を出られるようにと女性研究者をバックアップしました。

さらに女性の相談窓口を作りました。それまでは気軽に相談するところがなかったのです。そのような活動を通して全学的な意識改革が徐々にできてきたように思います。最初のころは、女性の研究者ばかり優遇した逆セクハラだと批判もされましたが、10年くらい活動を続けてきて、徐々に意識が根づいてきたと感じております。

さらに、後進を育てすそ野を広げるために作ったのがIRISです。最初は17名のメンバーから始まりましたが、今年は40人もの院生が参加・活動してくれています。最初の頃は、男性の先生がトップの研究室だとなかなか活動を理解してもらえず、研究が中心の大学院生をそんなところ(IRIS)に出せないといわれたこともありました。

就活などで、企業などにアピールできる仕掛けを考えようと、活動実績書も出すようにしています。履歴書にも書けるし、メンバーにとってメリットがあるということで徐々に参加の輪が広がってきました。

丸本 私がいる研究室も女性はひとりなので、更衣室も休憩室も使いづらいということがあります。実験で深夜まで研究することがあるのですが、様々な環境整備について私たち学生の声を届けようとしたら、女性研究者支援センターへお願いすればいいのでしょうか。

真嶋 そうですね、ぜひ。伸び伸びと研究できる環境整備は大事です。例えば、毎年来られる新任の女性教員に対してヒアリングを行っています。学生の声はなかなか届いてこないので、是非とも声を届けてほしいと思います。

また、ダイバーシティ研究環境研究所では、女性研究者の研究力を高めていくことを主眼にマネジメント、英語論文作成、プレゼンテーション、外部資金獲得などの能力を向上するための各種セミナーを行っています。さらに、研究環境の向上をめざし、毎年度当初に部局長へのヒアリングも行っています。ダイバーシティ研究環境研究所は研究力向上、女性研究者支援センターは生活支援やワーク・ライフ・バランスの向上をめざしています。

 私も2013年度から2年間、女性研究者支援事業担当の副学長を務め、大阪府立大学の多様な人材活用の一環として、女性研究者支援の必要性を強く認識しました。

私の専門領域の情報工学に例えると、コンピュータはハードウェアとソフトウェアで動きます。まずハードがないと何も動かないというので、保育所やトイレなどを整備する。でもそれだけではだめで、研究力をつけてもらうための研修や交流できるロジカルな空間など、いわゆるソフト面も整えようということです。その両方がないといけないと考えています。

丸本 私のいる研究棟もトイレの数が男女同じになり、各階に整備されるようになりました。

真嶋 トイレがきれいで清潔になっていったのは非常にいいことです。昨年度から学長たち執行部が先頭に立って、「女性の先生が増えた部局にはインセンティブを」という制度を作ってくださったおかげです。今年は総合リハビリテーション学、経済学、生命環境科学の各研究科に予算インセンティブがつきました。また、総合リハビリテーション学研究科や看護学研究科がある羽曳野キャンパスは女子学生が多いので、多目的トイレを2つ設置して下さいました。

 

―トイレの整備に優先的にお金をかけるというのは、大学全体の意識改革がかなりあったのだと思います。大学運営方針に何か変化があったのですか。

 法人になってからです。それまでは大阪府が大学を直接運営し予算を決めており、大学の意志で弾力的な運用はあまりできなかったのです。法人化というのは「大学が経営の責任を持ちなさい」ということですから、現場の声を受け止めて必要だということであれば、お金を使ってもいいとなりました。もちろん一定の制約はありますが、大学運営に自由度が広がったといえます。さらに、これまでは男子学生比率が高い時代が長かったので、女子学生が増えていけば当然に新たな刺激や気づきが生まれ、私を含め大学運営に携わる人の意識も変わってきたのだと思います。

IRISに参加した動機について

―では、IRISメンバーお二人に、IRISに参加した動機をお聞きします。

丸本 高校生の時から、大阪府立大学にはIRISがあるということをどこかで見かけて知っていました。おそらく小中学校のサイエンスキャンパスか科学塾だったのだろうと思います。小さいころから科学館で遊ぶのがとても好きだったので、いつかは自分が学生スタッフになって子どもたちに科学の楽しさを伝えたいと思っていました。

清水 私は小中高校ずっと女子の一貫校にいて、周りには理系をめざす人が全くいませんでした。理系の大学はどのような勉強をするのかの知識もあまりありませんでしたので、大学受験の時にも情報収集に苦労しました。そういった経験から、IRISの活動では女子高生と交流する機会もありますので、理系の大学生と触れ合う機会の少ない高校生の手助けができたらという思いで参加しています。私と同じ思いをしている女子高生もきっといると思うので、頑張っています。

 

―具体的に子どもたちに科学の面白さや楽しさを伝える活動をしてみて、どんなことを感じましたか。

丸本 “ 未来の博士育成ラボ” という、堺市の中学生が府大に来て、実験計画を自分で組み立て、研究活動を行うプログラムがあるのですが、そこのティーチング・アシスタントをしました。みんな1つの考えにとらわれない自由な発想で取り組むのがとても刺激的でした。

清水 私は、昨年10月にサイエンスキャンパスという科学イベントを担当しました。対象は小学校全学年でした。このイベントを担当するにあたり、IRISのメンバー3人が事前に予備実験を行って計画を詰めていったのですが、専門領域がそれぞれ違う3人なので同じ実験を考えるにも全く違う視点や発想があり、新しい気づきがたくさんありました。

また、小学生対象なので専門的で難しい話は避け、身近にある材料、今回の場合はハンドスピナーを使って説明をしたところ、子どもたちから思った以上の反応が返ってきて驚きました。初めての経験だったのですが、子どもたちからこんなにも返ってくるものが多いのかと嬉しくなりました。もっともっといろいろな子どもたちと関わって、科学の楽しみを一緒に感じていけたらいいなと思っています。

 参加された子どもたちはお二人以上に何かを感じたはずだし、きっと記憶に残るのではないかと思いますよ。

清水 保護者の方も前のめりに耳を傾けてくれますし、たくさん質問もしてくれました。思った以上の反響にとてもやりがいを感じています。

 違う専門や違う視点の人と話すのはとても大切なことであると思っています。先ほど、「世界に翔く地域の信頼拠点」をめざして「多様」「融合」「国際」の3つを大切な視点にしていると話しましたが、この「融合」がいろいろなイノベーションを起こす起爆剤になるのではないかと思っています。

日本の科学研究は地盤沈下しているといわれますが、視点を変えて1つ1つの良い研究を眠らせず、そして組み合わせることがこれからの日本がめざすべき方向のような気がします。皆が自分のところだけ深めていくだけではなく、それを融合していくことを大学の中で進めていくと、新しい価値、イノベーションが生まれてくるのではないかと思います。IRISの活動もそのヒントをくれると思っています。

 

―女性研究者が働きやすい職場環境づくりに大変理解のある辻学長、女性研究者のロールモデルとして先頭を走る経験豊かな真嶋先生、そして理系女子学生がとても元気な大阪府立大学に、これから多くの高校関係者が関心を持つだろうと思います。

【取材日:2017年11月14日】※所属は取材当時。

 

【略歴】
辻 洋(つじ ひろし)
1978 年、株式会社日立製作所に勤務。この間、米国・カーネギメロン大学客員研究員。2002年、大阪府立大学大学院工学研究科教授、その後、現代システム科学域長、理事・副学長を経て、2015年から現職。専門は経営情報システム。博士(工学)。海釣りや家庭菜園を楽しむ。

真嶋 由貴惠(まじま ゆきえ)
広島県出身。広島県豊田郡川尻町役場、国立呉病院、神戸市看護大学助手、産業医科大学産業保健学部助教授、大阪府立看護大学看護学部准教授(2005年から大阪府立大学看護学部)。現在、学長特別補佐、ダイバーシティ研究環境研究所長、人間社会システム科学研究科現代システム科学専攻・現代システム科学域知識情報システム学類教授。博士(工学)、看護師、保健師、養護教諭。

【IRISとは】
IRIS は2011年、大阪府立大学の女性研究者支援事業の一環として、女性研究者支援センターが研究や科学の楽しさや面白さを伝えたい理系女子大学院生を募集し、学長から任命を受けてスタートした。チーム名は「I’m a Researcher In Science」の文字と、中百舌鳥キャンパスがある堺市の市花「アイリス」にちなんで、第1期生が名付けた。
サイエンスの世界ではまだまだ少ない女性のロールモデルとして、大阪府内各地で小中高生を対象に科学実験教室「IRISサイエンス・キャンパス」を、オープンキャンパスで中高生、受験生を対象に「めざせ! 理系女子コーナー 先輩と話そう」を開催している。学生自ら企画、運営するこれらの活動は、IRIS自身のサイエンスコミュニケーションの実践と学びの場となっている。7期目となる今年度は40名が活動中。