3/27(火)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは大阪府立大学 高等教育推進機構の堀江珠喜教授。テーマは「東野圭吾と大阪」です。


東野圭吾は大阪生まれの大阪育ち、大阪府立大学工学部を卒業した、現代日本を代表する推理小説家です。しかしその作品が全国区に受け入れられることをめざしたため、大阪弁を用いた作品は意外と少ない。その中で“これぞ大阪弁の魔力!”と感心されられる東野作品を題材にその効果について、堀江先生からお話いただきました。

 

今回のアカデミックカフェには、多くの東野ファンが集結。講演に入る前、自己紹介を兼ねて、参加者が自分のオススメ本を紹介するコーナーがあるのですが、東野作品への想いを的確に伝える人あり、語り過ぎて制限時間をオーバーする人あり。いつもにも増して熱を帯びた時間になりました。

まずは東野作品の功績から先生の考察が始まりました。

1つは東野自身が理系出身の作家ということもあり、文学とは縁遠い理系の男性たちをもファンとして引き込んだ、数少ない作家であること。

もう1つは、東野作品には笑いあり、涙あり、ハラハラドキドキあり…というように、あらゆる傾向が存在すること。

最初に選んだ作品が自分の好みに合わない場合は、その一度だけで敬遠してしまうこともありますが、初めて読む人は適当に3冊選んで読んでみることがおすすめ。自分好みの作品に出会えると、そのままファンになるかもしれない。それだけ裾野が広い作家と言えます。

それでは本題である東野作品と大阪弁について。過去の東野作品から大阪弁のセリフを引用するなどして解説いただきました。

(1)笑い

まず1つ目は“笑い”。東野作品の短編集『浪花少年探偵団』から、教え子と先生のやり取りです。

教え子:「実はなあ、先生に頼みたいことがあるねんけど」
先生:「あかん!」
教え子:「まだ何もゆうてへんで」
先生:「聞きとうないからや。どっちみちしょうもない頼みやろ。一日中ソフトボールさせてくれとか給食にステーキを出してくれとか」
教え子:「あのな、僕もうすぐ中学生やで。何が悲しゅうてそんなしょうもないこと頼まなあかんねん」
先生:「けど、似たようなことやろ?」
教え子:「全然違うわ。実は先生に探偵やって欲しいねん」
(短編集『浪花少年探偵団』より引用)
標準語で話すと「実は先生に探偵をお願いしたいんです」で終わってしまいます。「聞きとうないからや~(以下、略)というような言葉遊びを、標準語でくどくど書くと効果はありませんが、大阪弁だとエンターテイメントとして笑いを生み出し、提供できる。そしてちょっと(字数稼ぎに)長く書ける(笑)」と先生はおっしゃいます。笑いを生む力が大阪弁にはあります。

(2)親しみ
大阪弁で“親しみ”をイメージする時、思い浮かぶのは「アホ」という言葉ではないでしょうか。関西人が日常会話でアホというのは、話す相手の頭が本当に悪いからではなく、“可愛いやっちゃ”などと親しみを感じるゆえ。ですから「アホボケカス何しとんねん!」もお約束のフレーズ。もちろん相手と信頼関係が構築できていることが大前提ですが、大阪弁は言葉のちょっとしたニュアンスで親しみを生みます。

(3)相手を支配する力
いわゆるマインドコントロール、自分のペースにうまく巻き込む力。ここで例として挙がるのが、東野作品『幻夜』(※あらすじは文末)に登場する悪女・美冬が雅也を操る場面です。

「きれいごとをいうのはやめよう、雅也。2人で戦い抜いていくと約束したやろ? 周りは全部敵。あたしらが生き残っていくためにはお上品なことはしてられへん。私は大丈夫。雅也が味方でいてくれたら戦い続けられる。だから雅也、私を裏切らんといて」
(『幻夜』より引用)

普段は標準語で話す美冬ですが、雅也を説得する時だけは大阪弁。親しみを感じさせる口調で静かに、でも時には

語気を強めて、雅也の心に入り込んで巧みに説得します。そして雅也を説得する際、美冬はこの“あたしら”を連発し、2人の連帯意識を高めます。このように美冬の説得力に満ちた言葉は大阪弁だから可能ですし、またそれを理解できるのは、大阪人の特権だと先生はおっしゃいます。

余談ですが、作品冒頭の舞台が関西である『白夜行』では、雑誌連載時の関西人同士の会話は標準語で書かれていたのに対して、一冊の本として出版された時は、大阪弁に書き換えられています。またドラマ化された『幻夜』での美冬と雅也の会話では、大阪弁は採用されず、「雅也、愛してる」の台詞が連呼されたそう。親しみや迫力といった大阪弁ならではの表現はドラマでは再現されなかったようです。ちなみに原作では「愛してる」という台詞は出てきません。


地元に住む参加者にとっては“大阪弁とは何ぞや?”という、普段なら気にもとめないくらいネイティブなテーマに、東野作品を通じてこそアプローチできた、深くて貴重な時間になりました。講義で強く印象に残ったのは、堀江先生が早口で繰り出すテンポの良い話術! “これこそ大阪弁!”と感じずにはいられない、まるで漫才の舞台を見ているようでした。

 

<『幻夜』のあらすじ>

阪神大震災の時に出会った美冬と雅也。雅也は直後に紛れて、借金返済を要求する叔父を殺害するのですが、それを見ていたのが美冬。2人はやがて上京。美冬は自分の成功のために、雅也を利用します。美冬の周辺で起こる事件、出来事の裏では、美冬の指示通りに雅也が暗躍。操られるだけの雅也とは対照的に、美冬はサクセスストーリーを歩むのですが…。

 

■講義内で紹介された作品

『幻夜』(東野圭吾/集英社)

『白夜行』(東野圭吾/集英社)

『浪花少年探偵団』(東野圭吾/講談社)

『あの頃ぼくらはアホでした』(東野圭吾/集英社)

『団鬼六論』(堀江珠喜/平凡社)

【取材日:2018年3月27日】※所属は取材当時。