第44回アカデミックカフェの様子1

2018年5月18日(金)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは生命環境科学研究科 獣医病理学教室の山手丈至教授。テーマは「病(やまい)を科学する ― 細胞の正常と異常とは?」。当日は健康に興味のある方々が集まり、先生のお話に耳を傾けていました。

第44回アカデミックカフェの様子2
「病理学」という学問を皆さんはご存知ですか? 病理学とは、病気になった原因や、患者の体内でどのような変化が起こるのかなど、その過程を探る学問。重篤の症状なのか、急性か、慢性か、基礎医学を全て網羅し、経過(病理発生機序)を理解した上で治療法を見極めるのです。顕微鏡で細胞を見ることによって、どういう原因で病気が起きたかを探る、さながら探偵のような仕事です。

病理学があってこそ、病気の予防・治療・診断というのが可能になります。山手先生が専門とされる「獣医病理学」は犬、猫、牛、馬、鳥や魚などのさまざまな動物の病の本質を追求し、それに基づいて病気を治療し、予防に活かす学問です。

「病理学」のポイントは“細胞の正常と異常”を理解すること。獣医は全ての動物の正常を理解しないと、異常(病気)を知ることができません。そのために細胞の1つ1つがどういう顔をしているかを顕微鏡で探ります。またその動物の病気が人間にとって“どの病気に相当する”のか、“違う”のか、を比較・検討する“比較病理学”は、“病気の予防診断”とも呼ばれます。

第44回アカデミックカフェの様子3
参考として、病の事例、中世ヨーロッパで大流行した牛の病「牛疫」が紹介されました。18世紀の北西ヨーロッパで、牛疫によって約2億頭の牛が死亡しました。顕微鏡で細胞を見ると、死亡した牛は「パラミクソウイルス」に感染していることがわかりました。臨床症状は血液や粘膜組織を含んだ激しい下痢と脱水。病理学的変化は、口腔や腸の出血性の変化。粘膜上皮やリンパ組織に多核巨細胞が見られました。大変な感染症だと判断したFAO(国際連合食糧農業機関)は、1992年に世界牛疫撲滅計画を発表。開発途上国でワクチンを根気強く打ち続けた結果、2010年OIE(獣医国際組織)の総会でウイルスの撲滅宣言が出されました。人間が地球上から撲滅したウイルスは2つあります。1つは人間の天然痘。もう1つが、この牛疫です。

そして次に、良く見る事例を細胞レベルで見た時の解説がありました。皆さんは犬や猫が怪我をするとどういう行動をするかご存知でしょうか? そう、傷口を舐めますよね。ではなぜ舐めるのか? 怪我をするとマクロファージという細胞が集まります。この細胞からはTGFベータが産出し、身体にある線維芽細胞に作用して筋線維芽細胞を作ります。この細胞が傷口に対してコラーゲンを産出し、線維化して傷口を修復します。これが怪我の治るメカニズム。細胞レベルのコミュニケーションは、多細胞生物の不思議な現象の1つです。第44回アカデミックカフェの様子4

病理学を学ぶ者、教える者は、経験・知識・論文調査・議論・実験を長年にわたり積み重ねることで、正確な診断力をアップさせることが必要であり、1つの病気について異なる視点で考え、発想力・想像力豊かな研究者であることが必要だと先生はおっしゃいます。

人間も動物も病気になります。身近な動物の病を理解する上で、病理学における「細胞の正常と異常」という概念を知ることが、私たちはもとより、ペットである動物も健全に暮らすヒントになるのではないかと考えさせる時間でした。

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<先生のおすすめ本>
山手先生おすすめの本
『こわいもの知らずの 病理学講義』(仲野 徹 著/晶文社)
https://www.shobunsha.co.jp/?p=4390

 

 

【取材日:2018年5月18日】※所属は取材当時。