水鳥先生の写真

2018年4月20日(金)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは経済学研究科の水鳥能伸教授。テーマは「奥様は外国人?! ―国境を越えた人の移動と定住を考える―」です。

日本には外国人観光客が訪れ、欧州には難民・移民が押し寄せています。またアメリカではトランプ大統領がメキシコとの国境に現代版「万里の長城」を作ろうと主張しています。状況は異なるにせよ、巨視的に見ると地球規模で国境を越えた人の移動の時代を迎えています。水鳥先生は自著『亡命と家族―戦後フランスにおける外国人法の展開』の内容を元に、難民・移民に伴うさまざまな問題をお話くださいました。参加者の写真

まずは難民と移民の違いを認識するところから。難民とは、本国において迫害を受ける可能性のある人々。移民とは、移民先の国に定住・生活するために本国を去る人々を指します。先生は難民・移民において入国の2つのドアを開くのが“亡命権”と“家族呼び寄せ”だと考えます。

歴史を紐解くと、第二次世界大戦後の欧州諸国の憲法には、難民・移民問題について特徴的なポイントが2つあります。1つは自国の憲法内に“外国人のために亡命権ないし庇護権を保障している”こと。フランスの亡命権の規定は、本国において自由のために戦って迫害を受けた人に対して保障しています。フランス革命以降、フランスでは相手国との関係が悪くなるにもかかわらず、亡命者(反乱分子も)を積極的に受け入れています。自由・平等・博愛の国が、最も重要視するのは自由。自由を侵害された人々を守る政治的伝統がフランスにはあります。一方で難民の保護に関するジュネーブ条約では迫害された人に加えて、迫害の可能性のある人にも門戸を広げました。従ってフランスでもジュネーブ条約を対象とする人たちも「亡命」ということで受け入れています。ドイツもほぼ同じです。

アカデミックカフェ全体の様子もう1つのポイントは、戦争で一家離散するなど被害を被った家族を、戦争終結後に保護・再建する“家族を積極的保護する”規定が欧州各国にはあること。事実婚のカップルや、事実婚で生まれた子どもにまで保護の範囲が広げられています。イタリアの憲法では大家族に関しては特に保護の対象としています。国と国の約束事、条約という面では“難民の保護に関するジュネーブ条約”と“欧州人権条約”。欧州人権条約では“家族生活の尊重の権利”が規定されています。戦後ヨーロッパ諸国ではこうした憲法や条約、それを反映する政治の中で、この2つが大きなポイントです。

このような各国の比較法的研究を我が国の憲法にフィードバックすることが重要だと先生は考えます。私たちにとっても、ご近所さんや配偶者、親族が外国人であることは他人事ではありません。近いうち我が国も移民を受け入れる政策に転換する可能性も否定できません。亡命・移民への政策、家族保護の観点など、他国の事例を検証、議論することの必要性を今回のお話で感じました。

集合写真

<水鳥先生の著作>
『亡命と家族 戦後フランスにおける外国人法の展開』 水鳥能伸 著/有信堂高文社

◆プロローグ
<水鳥先生がこの学問を研究するきっかけ>
もともと先生の専門は行政法。国の税金がどのように使われているかをアメリカを素材として研究しているうちに、行政法の母国と言われているフランスに興味を持ちました。時を同じくして、運命ともいうべき出会いが先生を待っていました。ある1人のフランス人女性と知り合ったのです。彼女こそ、先生の奥様となる女性。これを契機に、先生はフランスに留学することになります。
やがて女性と結婚した先生は、フランスに長期滞在することになります。フランスでは、外国人が3ヶ月以上滞在する場合、滞在許可証が必要で、中でも「10年カード」と呼ばれる正規滞在許可証を持つと10年間正規に滞在できるだけでなく、フランス国内であらゆる職業に就くことができます。先生のようにフランス人の配偶者となればカードを取得できるのですが、現実問題として外国人への発給は困難です。

当時、10年カードを申請するため、朝早くから下町の警察署に行った時に目の当たりにした光景が、先生の学問の方向性を変えました。そこに列をなした大勢の人々。大半が貧しい国からフランスに職を求めに来た人たちでした。――自分は結婚したから10年カードを得ることができるが、この人々の多くは申請を却下され、本国に強制送還される人もいるはずだ。このような人々に寄与できる学問はないのか――と、思案を重ねた結果、行き着いたのが人権、特に外国人の人権問題でした。外国人は国籍を持たないゆえに排除される現実。日本にいると感じなかった、外国人であることの孤独感。外国人の人権にかかわる難民・移民問題や、本国から家族を呼び寄せる権利――つまり家族生活の権利に関心を持つようになり、その後、大学院で研究を続け、2015年に著作を発表しました。

【取材日:2018年4月20日】※所属は取材当時