「障がい者スポーツ指導論」の授業を取材させていただきました。この講義には総合リハビリテーション学類(地域保健学域)の、理学療法学専攻・作業療法学専攻の学生が受講しています。

この講義では、理学療法士や作業療法士の資格を持ちリハビリテーションの世界で活動する中で、「障がい者スポーツ」に関わる時のための基本理解として、障がい者スポーツの歴史や組織、障がい区分などの基礎知識について学ぶとともに、障がい者スポーツが及ぼす心身面への影響など、指導者としての役割を認識していくことが主な目的です。

また、車いすバスケットボールやボッチャなど、各種の障がい者スポーツを実際に体験して理解を深める授業です。

2018年3月に行われた冬季パラリンピックで、日本は金3銀4銅3 合計10個という結果でしたが、皆さんはどのような競技が行われていたか覚えていらっしゃいますでしょうか?

答えはアルペンスキー、バイアスロン、クロスカントリースキー、パラアイスホッケー、スノーボード、車いすカーリングの6競技。ですが、それぞれの競技は選手の障がいの度合い等によって様々なクラス分けがされています。

そういった側面が障がい者スポーツの特徴の一つ。そしてたくさんの選手達が活躍する裏では、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)含めた多くの医療関係者がそのサポートに回っています。

この授業は奥田邦晴教授が講師を務めます。奥田先生は理学療法士であり、障がい者スポーツへのバイオメカニクス技術の導入などを研究テーマとする大阪府立大学の教員/研究者でもあります。

その研究アプローチからボッチャに携わり、ボッチャ選手のトレーニングを科学的にサポートしてきました。その縁もあり、現在は一般社団法人日本ボッチャ協会の代表理事も務められています。

奥田先生は、自身のキャリアや障がい者スポーツとの関わり、区分や種目などの基本情報、理学療法士や作業療法士がそれらにどう関わっているかなどを中心に、2コマ(90分1コマ×2の連続講義)に渡ってじっくりと語り伝えました。

このレポートでは、それら講義のトピックスをお伝えしたいと思います。


■障がい者スポーツのオリンピックとは

国際オリンピック委員会が「オリンピック(~ピック)」という名称を許可している障がい者スポーツ大会は実は3つあります。知ってますか?

・デフリンピック
4年に1度世界規模で行われる聴覚障がい者の為の総合スポーツ競技大会。
ろう者(Deaf)+オリンピック(Olympics)の造語でろう者のオリンピックという意味を持つ。

・スペシャルオリンピックス
知的発達障がい者の自立や社会参加を目的として日常的なスポーツプログラムや成果の発表の場としての競技大会。勝つ事は目標としておらず、アスリートが自己の最善を尽くす事を目的としているため、「ディビジョニング」という特殊なルールが設けられる。

・パラリンピック
国際パラリンピック委員会が主催する身体障がい者(肢体不自由、脳性麻痺、視覚障がい、知的障がい)を対象とした競技大会の中で世界最高峰の障がい者スポーツ大会。聴覚障がいは対象とならない。

また、皆さんが一番耳にする「パラリンピック」の夏季の種目は、22競技あります。

アーチェリー・バドミントン・ボッチャ・カヌー・自転車競技・馬術・5人制サッカー・ゴールボール・柔道・陸上競技・パワーリフティング・水泳・ボート・射撃・シッティングバレーボール・卓球・テコンドー・トライアスロン・車いすバスケットボール・車いすフェンシング・ウィルチェアーラグビー・車いすテニス

どうでしょう?どんな競技かイメージがつきましたか?
ほとんどの種目が健常者でも行われる競技名と同じのため、それらはイメージしやすいと思うのですが、「ボッチャ」と「ゴールボール」は分からない方が多かったのではないでしょうか。

しかしこの2種目の競技こそ、日本は強豪なのです。
ゴールボールは2012年ロンドンパラリンピックで金メダル、ボッチャは2016年リオデジャネイロパラリンピックで銀メダルを取っています。

ゴールボールに比べて、ボッチャは最近あったリオ五輪で銀メダルを獲得した際にマスコミにも大きく取り上げられた事もあって認知度は高くなってきているのですが、まだまだこれから伸びしろがある競技とも言えます。

・ボッチャについて
http://japan-boccia.net/about/
(日本ボッチャ協会Webサイトより)

 

■障がい者スポーツとクラス分け

障がい者スポーツと一言で言っても、アスリート達の障がいは人それぞれ。それゆえ競技に平等性を持たせるため、障がいの種類や程度により細かなクラス分けが行われます。

このクラス分けを行うのは理学療法士の資格を持つ、クラス分け委員。通称クラシファイヤーと呼ばれます。私もその1人です。

障がい者でありながらアスリートでもある彼らは、勝負に勝つ為には自身のクラスが低い階級(障がいが重い)である事を望みます。その方が勝負には有利になるからです。ですので、クラシファイヤーは彼らをクラス分けするため、常に高いレベルでのエビデンス(根拠)を求められます。大切かつ責任が大きい役割です。


■ボッチャの競技人口と奥田先生の願い

2016年度の日本ボッチャ協会登録選手数は全国で158名。東京、大阪、愛知、福岡などの大都市がやはり多く、日本海側の都道府県では0という数字が珍しくありません。

東京パラリンピックに向けてボッチャの競技人口を増やすため、みなさんが故郷に帰った時にはぜひ障がいがある方を含めみんなにボッチャを広め誘ってほしい。オリンピックとは違い、パラリンピックにおけるPT・OTの仕事はまず選手の発掘です。スポーツへの参加、アスリートとして活躍することで、大きな自信、自己実現になります。

みなさんの一言が障がい者の社会参加に繋がるのです。

 

■勉強ばかりしなさいとは言いません

私が障がい者スポーツに関わるようになったのは趣味のダイビングがきっかけでした。20代の頃はダイビングに夢中になっていて、ある日ダイビング雑誌を読んでいた時、広島でダイビング用のウェットスーツが浮力を持つ事に着目し、リハビリとしてウェットスーツを着用したスイミングを行っているという記事を見つけました。

理学療法士であった私は疑心を抱きつつ、このリハビリ指導している方に連絡。広島まで見学に行ったことがきっかけでこのスイミングのノウハウを学び、ひょんな事から大阪で、毎週金曜日の夜に患者さんに指導をする事になったのです。

人生が変わる物事やきっかけは必ず訪れます。それは勉強だけしていると実は見逃してしまいがち。私が今の仕事をしているのは自分の趣味がきっかけでした。ですので、学生の皆さんにはやる事をやった上でしっかり遊び、色んな人と関わりを持ってほしいと思います。


障がい者スポーツの概要や心構えを学んだ学生達は、その後は体育館に移動し、片岡正教講師の指導のもと競技用車いすの乗車体験も行ないました。

通常の車いすと違い、競技用車いすは小回りをきかせる為に車輪がハの字で外側に向いています。学生達は悪戦苦闘しながらコースを走り、授業は終わりを迎えました。

2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、そのときこの場で学んでいた総合リハビリテーション学類の皆さんはどのように大会や競技に関わっているのでしょうか。これからの活躍が楽しみになる、府大総合リハビリテーション学類ならではの講義でした。

 

【取材日:2017年12月6日】※所属・学年は取材当時