今回は教育PRO 大阪府立大学特集号に掲載された
「学生支援のコンセプトは『〈多様〉〈融合〉〈国際〉』、 様々な学生が包摂(インクルージョン)できることが大切~吉田敦彦副学長(学生担当)へのインタビュー~」をお届けします。


――学生センターの組織運営のモットーを。

吉田 大阪府立大学では〈多様〉〈融合〉〈国際〉を大切にした運営を行っています。この3つは大学の理念でもあり、学生支援においても大切な視点にしています。

吉田副学長の写真

吉田副学長(学生担当)

 <多様>の視点から

1つ目は<多様>です。今の学生は本当に多様なニーズをもっています。特に▼障がい学生▼ジェンダー▼留学生▼休退学や学生相談( 経済困窮、メンタル、キャリア) に訪れる学生、こういった学生たちにきちんとした支援が行き届き、より生き生きと学べるキャンパスになれば、全ての学生たちにとっても魅力的で多様性あふれるキャンパスになると思っています。

今年度から新たにスタートした取り組みに、「性的マイノリティ」「LGBT※ 」をより広く解釈した「SOGI(ソジ、SexualOrientation Gender Identity)」の視点での支援があります。性的なパートナーとしてどんな人を好きになるかというのが性的志向(Sexual Orientation)、自分で自分の性をどのように認識しているかというのがジェンダー・アイデンティティ(Gender Identity)です。その傾向というのは、人それぞれ違っていて十人十色。男性/女性の二分法だけでなく、レインボー・カラーのように多彩なものです。

この視点は、ひと昔前と比べ、学生たちが大学に入ってくる時点で、かなり馴染んできています。というのも、2年前に文部科学省が小・中・高校にそういう視点を大事にするようにとの通達を出しましたので、案外、高校までのほうが進んでいます。ですので、すでにそういったことを自覚・認識しながら、性的に多様な学生たちが大学に入学してきており、我々大学人にとっても非常に大事な視点であるという認識から、本学では全国の先駆けとしてSOGIの観点でのガイドライン(指針) を策定し、具体的活動を進めています。特に西日本では私立・国公立大学の先頭を走っていると自負しています。 

全国の大学に先駆けて進めてきた、障がいのある学生への対応 

障がいのある学生たちへの支援も重要です。2016年4月施行の「障害者差別解消法」を受けて、特に国公立大学は法的義務として本格的に取り組む流れができてきましたが、本学の場合は法制化の前から「アクセスセンター」という支援専門のセクションを立ち上げて動いてきました。また社会福祉学部があった時代から障がい者特別選抜入試を続けており、全国の大学でも先進的な入試として注目されています。今の時代は「発達障がい」など目に見えない障がいをもつ学生が増えており、アクセスセンターで支援する学生も多様になっています。

このように本学は「LGBT」だけではなく、性的多様性という点でも、また障がいという点でも、このキャンパスで過ごす多様な学生を包摂(インクルージョン) するということを大切な視点としています。

吉田副学長の写真

<国際>の視点から

2つ目には<国際>という視点があります。3年前に中百舌鳥キャンパスの中に留学生寮(国際交流会館I-wingなかもず) をつくりました。留学生とオンキャンパスで交流できる施設です。

海外からやってきた後の留学生を支援する部署というのは、他の大学では国際交流セクションなどが担当するケースが多いと思いますが、本学では我々学生センター(学生課)が留学生も区別せず「同じ学生」として支援できるように努めています。窓口での英語相談にしても文書にしても、他の大学では国際交流のスタッフ(専門家)に任せることも多いと思いますが、学生課スタッフが自らの意識で国際化をしていかないといけないということで、英語研修を受け、日英表記の様々な文書を作ったりしながら、留学生もインクルーシブに支援できるような体制を作ってきました。

<融合>の視点から 

< 融合> という視点については、「府大人」というワードを積極的に用いて大阪府立大学の学生であるというアイデンティティーをしっかり持ち、一体感をもって愛校心を高めていくというコンセプトにしました。その心は、例えば、クラブ活動で対外試合をするときなどに発揮されます。特に大阪府立大学は3つの定期交流戦をもっています。同じ大阪の大阪市立大学との交流戦、そして都立大学時代から長きに渡り交流している首都大学東京との交流戦。さらに関西の3府県立(京都、大阪、兵庫) の大学とも交流戦を行っています(関西六公立戦)。これらの交流戦はいずれも開会式やその中の応援合戦からヒートアップします。単に自クラブの戦績をあげるだけではなく、大学同士の名誉を背負った対抗戦に大学・各クラブが一丸となって取り組んでいます。

また、この<融合>という視点では、学生団体が自主的に準備を重ねて主催する、中百舌鳥キャンパスの「友好祭」「白鷺祭」、羽曳野キャンパスの「杏樹祭(あんじゅさい)」という大学祭があります。また大学本部が主催して地域住民に楽しんでいただくために、4月の桜咲く時期に実施する「府大 花(さくら) まつり」も定着しています。新学期が始まったばかりの時期ですから、学生たちにとっては、新入生歓誘にも絶好の機会になることもあって積極的な参加が増えてきました。これらのような大学あげてのお祭りも、非日常の空間を使ってみんなで何か一つのことに取り組むという形で絆を深め、一体感のある「融合」を醸成するのに大きな役割を果たしています。

また本学は、4学域13学類、7研究科を設置し、公立大学の中では、首都大学東京、大阪市立大学に次ぐ3番目に規模が大きな大学(3つのキャンパスに学生数約7,700人) です。大学の規模が大きくなればなるほど部局ごとに独立して、垣根を作ってしまう傾向があります。本学が過去の7学部から4つの「学域」という大きなくくりに改革したのは、学部の垣根を取り払って融合した大学になろうという強い意志があるからです。

当事者学生と共に作り上げた「SOGIガイドライン」 吉田副学長の写真

――先程の「SOGI」の視点は<多様>であり、<融合>でもあると理解できますね。

吉田 先ほど紹介したSOGIのガイドラインの正式名称は「大阪府立大学SOGIの多様性と学生生活に関するガイドライン」で、そこでは性指向や性自認を理由とする差別・偏見のない大学をめざすことを宣言しています。大切なことは、それが一部のマイノリティの人だけに関わるものではなく、すべての学生にとって生きやすいキャンパスをつくることになる、つまり全学生・教職員に関わるものであるという視点です。その意味でも1つポイントだと思っているのは、本学にいる当事者の学生たちが作ったサークル「フダイバーシティ」と連携し、当事者でもある学生の声を聴きながらガイドラインの中身を作ってきたことです。

現在そのガイドラインに基づいて活動を推進する「フダイバーシティープロジェクト」がスタートしています。ダイバーシティ(性の多様性) の声やニーズを、大学運営側に届け、協働しながらダイバーシティ施策を推進するプロジェクトです。このプロジェクトのモットーは「学生主体で大学と学生の架け橋に」。キャッチフレーズとして「すべての人々が、性の多様性を『他人事』でなく『自分事』として捉えられる大学をめざし、『性は十人十色』というメッセージを発信する」と謳い、活動しています。

また、個別の施策も1つ1つ検討し、進めています。例えば更衣室。自分自身が自認する性、ジェンダー・アイデンティティに基づいて利用できる更衣室をめざし、検討を始めています。それを受け止める側が、正しく受け止めることができるのかということが重要ですので、慎重に、説明会を重ねながら進めています。ガイドラインを絵に描いた餅にしないように、「これが全学的な方針ですよ」と教職員にも丁寧に伝え、理解を得ているところです。

ちなみに昨春の大学祭「友好祭」では、「フダイバーシティ」のメンバーが共感する学生たちと共に企画・出展しました。他にも学内外のイベントに様々な協力を行ってメッセージを発信し続けています。

全ての学生が一緒に学ぶことができる環境をめざした「アクセスセンター」 

―― 「アクセスセンター」についても説明いただけますか。

吉田 障がいのある学生に向けて支援をする中心組織として、1年間の準備期間を経て2016年4月から本格的にスタートしました。専門職の精神保健福祉士も配置しています。例えば授業での情報保障として、耳の聞こえない学生に向けてボランティア学生によるノートテイクだけでなく、手話通訳でのサポートも行っています。ゼミなどの対面な授業などの場合は、手話の方が有効だからです。

――手厚いサポートを心がけていますね。

吉田 何らかの形で生きづらさ、学びづらさを抱えている学生からの声を聴きニーズに応えようとしています。最近、本学の学生にも増えている発達障がいのある学生に対するサポートにも取り組んでいます。アクセスセンターができたことで、そのような潜在的に隠れて見えなかったニーズがきちんと見えてサポートできるようになってきました。そういう点では困難を抱えて悩んでいる学生の支援が少しずつできるようになってきたと思っています。障がいのある学生も同じキャンパス、同じ教室で一緒に学ぶことができる環境を作っていくことは、すべての学生にとって学びやすい環境を作ることだと考えています。

【次回テーマ】留学生アドバイザーの新設について

【教育PRO記事】吉田敦彦副学長インタビュー「学生支援のコンセプトは〈多様〉〈融合〉〈国際〉」(2)へ つづく

※ LGBT: 女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、トランスジェンダーの各単語の頭文字を組み合わせた表現。