看護学研究科 大川聡子准教授からご自身のアメリカでの生活について寄稿していただきました。
留学を考えている方、ぜひご一読ください!

看護学部の校舎の写真

今年で創立90年になる看護学部の校舎です。

大学本部と教会の写真

茶色の建物は大学本部、奥が大学の教会です。

私は科研費特定支援事業(海外連携型)により1月22日から6月30日までアメリカ、ミズーリ州にあるセントルイス大学看護学部で、客員准教授として研究をしながら一部の講義を担当しています。セントルイス大学のマスコットはおなじみのビリケンで、通天閣にあるビリケンは、アメリカに由来するそうです。

受け入れていただいた先生は、今年1月にゲストプロフェッサーとして本学に招へいしたLee Smithbattle教授です。Lee教授には「アメリカの大学で何が行われているのか、見て帰りなさい」という言葉とともに、Facultyとして教員会議や倫理委員会、大学院や学部の講義・実習など様々な場面に参加する機会を作っていただきました。

研究チームのメンバーの写真

仕事は早いが個性の豊かすぎる研究チーム Lee先生, Jubilee, Ann, Wisitsri。ミーティングは毎回笑いが絶えませんでした。

・海外に渡航して気づいた日本の教育・研究について
英語を話す・聞くことに非常に苦労しています。たくさんの講義に出させていただいたため、渡米後3か月くらいで聞き取りはできるようになりましたが、聞く機会に比べて話す機会は少ないため、話す力はまだまだです。完了形が使いこなせず、ほとんど過去形で話していますし、三人称は時々なくなります。

このような私にも、せっかく来たのだからと講義やプレゼンテーションの機会をいただくことがあります。今回は「自分の研究内容」と「日本社会と文化」、「日本のヘルスプロモーション」について話す機会をいただきました。こんなこともあろうかと、持参した「国民衛生の動向」は非常に役に立ちました。

何度かプレゼンをして得た教訓は、①スクリーンの他にホワイトボードを用意してもらい、聞き手がわかりにくそうだったら図解する、②アドリブは日本語のように簡単に出てこないので、何回か話した内容でも直前にリハーサルをする、の2点です。失敗もたくさんしましたが、相手の理解度や反応をみて話すという、教育の基本は言語が変わっても同じなのだと気付くこともできました。

研究において、日本語の論文は内容がとても良くても英語圏での発信力に差が出てしまい、非常にもったいないと感じています。今後は海外の研究者が日本の何について知りたいのかを考え、英語での発信力をより強化したいと思います。

誕生日を祝っていただいたときの写真

研究チームのみんなに誕生日のお祝いをしていただきました。

・共同研究における困難とその乗り越え方
共同研究を行う際のベースをどこに置くかが、難しいと感じています。物を対象とする研究は、世界どこでもある一定の環境を作って実験を行っていると思いますが、私のように人を対象とした研究は、人口構成や社会制度、生活環境によって同じ対象でも結果が変わります。

また先行研究の進み具合も国によって変わるため、アメリカではAは明らかになっていて、次はBを明らかにしたいという状況でも、日本ではまだAもわかっていない、ということがあります。こうした違いがある中で共通の課題を探るという作業はとても難しく、着地点が見つかるのか不安になることもありました。

しかし、思いもよらぬ意見にはっとさせられたり、当たり前に思っていた日本の状況がとても個別性の高いものだったと気付いたりなど、海外の研究者と共同研究を行う上での気づきはとても多いです。こうした意見のやり取りを通して、対象者をより多面的に理解したいと思っています。

・日常生活におけるセントルイスと日本との相違点
アメリカというよりセントルイスの地域性かもしれませんが、人々が非常に柔軟です。バスは、乗り遅れた人に気づいたらバス停以外でも止まってくれますし、スーパーでベーグルを手に持っていたら、「こっちの方が新しいよ」と変えてもらったこともあります。

学部の実習や学会で食事をご一緒した際に、「これが私の楽しみだから」「これがアメリカンホスピタリティというものよ」という言葉とともに、ごちそうしていただいたこともよくありました。日々、返しきれないご恩をいただいています。

ボランティアコーディネーターMahan氏との写真

家族と離れて暮らす子どもたちに日本文化の授業をさせていただいたEpworth Children & Family ServicesのボランティアコーディネーターMahan氏と

・日本との違いや改めたほうが良い考え方について
日本ほど治安のよい国はありません。特にセントルイスは殺人事件の発生率が全米2位(1位はニューオーリンズ)と高い地域であるため、私は暗くなってから一人歩きをしたことはありません。特定の道路を一人で歩けるかどうかは、どんなに短い距離でも他の人に聞いてから判断しています。アメリカでも、場所によって「夜中の一人歩きも何の問題もない」と言われた都市もありますが、まず初めは、長く住んでいる方の意見をよく聞かれた方が良いと思います。

私がアメリカに滞在してから高校における銃乱射事件が2度あり、銃による犯罪も非常に深刻です。多くの人が集まる場(美術館や卒業式など)では、荷物検査があります。

・人々との触れ合い・出会いについて
あるフォーラムで研究報告をした際に、大阪府立看護短大を卒業生されて、アメリカの病院で看護師をされている方にお声かけいただきました。ニューヨークで「住吉」や「帝塚山」など大阪の地名をお聞きできたのも嬉しかったですし、看護短大の先輩に応援していただけていることも、とても励みになりました。

また私のテーマである10代で出産されたお母さんの支援は、アメリカではより身近で必要性を感じている方も多く「あなたは正しい場所に来た」「日本は少子化なんだから、若く産んだ人の支援を考えた方がいいよ」等々、多くの方々に研究内容を励ましていただけたことも嬉しかったです。

調理実習の準備のときの写真

Epworthでティーンズと日本食の調理実習の準備。イカの解凍準備中。

・留学応援メッセージ
少々厳しい内容かもしれませんが、海外で生活するということは、多くのストレス負荷がかかります。心身ともに健康な状況でないと、日々起こる新たな課題に対応することは難しいかもしれません。日本で何らかの悩みやトラブルを抱えている場合は、解決されてから渡航されるのがベストだと思います。インターネットで日本とのアクセスも容易になりましたが、時差の問題もあり、家族や友人と頻繁に連絡が取れる状況でないこともあります。

こうしたことを踏まえても、海外で長期間過ごすという経験はあった方が良いと思います。人口推計では2050年に日本の人口は3/4になり、海外の人々と仕事をする機会は、現在よりもさらに増えていると思います。留学で様々な国の人々の生活背景を実感できることは、きっとあなたの強みになるでしょう。

有名なアイスクリーム店の写真

Route 66沿い(現在はChippewa St)沿いにある、有名なアイスクリーム店”TED DREWES”。父の日だったこともあり、夜9時過ぎてもこの人だかりです。

またアメリカは「いっちょこの子にやらせてみようか」の閾値が低いのか、「○○したい」と声に出すとその仕事を任せてもらえたり、協力してくれる人が現れます。スケールの大きい仕事も多いです。ここぞと思う人や出来事には、遠慮せずどんどんアプローチしていってください。

困難もたくさんありますが、年齢問わず、短期間で成長したい、新しい世界を知りたいと思う方には、留学をぜひお勧めします。

最後に、お世話になったセントルイスの皆様へ
Thank you for all SLU faculties, staffs, students and friends. I love St. Louis!

看護学部のエントランスホールの写真

看護学部のエントランスホールです。

(Photo by Orawan, Gina, and Jubilee. Thanks!)

【寄稿日:2018年6月22日】
【寄稿:大川聡子(看護学研究科 准教授)】※所属は取材当時