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【教育PRO記事】高橋哲也副学長インタビュー「“ 垣根のない大学” をめざした、学域・学類改革と教育環境整備を推進」(1)

「初年次ゼミ」で、学びのスタイルが明らかに変化しています

高橋副学長インタビュー、写真

――初年次ゼミを継続的に実施してどのような学力向上や変化がありましたか。

高橋 学生調査は学域・学類制導入前の2009年度から継続していますので、学部・学科制までの時(~2011年) と学域・学類制導入後(2012年~) ではどのように変わったのかについて分析しました。例えば学生調査項目の折れ線グラフで学部1年生2009、同2010、同2011 と学域1年生2012 を比較してみますと、項目として「学生が自分の考えや研究を発表する」「授業中に学生同士が議論する」「授業で検討するテーマを学生が設定する」の3項目が、顕著に上がっています。これは初年次ゼミの効果であるとみることができます。

学生調査の折れ線グラフ

学生調査項目の折れ線グラフ

――学内での比較調査は変化がありましたが、他大学との比較は検証していますか。

高橋 大学IRコンソーシアムで実施する共通調査においても「初年次生を対象とした教育プログラム内容(フレッシュマンセミナー、基礎ゼミなど)」(対象:53大学・約2万人の大学生) の項目については、本学が初年次ゼミを実施していなかった2010年、2011年度に比べて実施後の2012年、2013年度の満足度の数字が急に高くなっています。そのうえで2013年度の1年生調査で全大学と国公立大学グループそれぞれの間で比較したところ、本学の「満足」「とても満足」の比率が大きく上回りました。つまり、学内の数字だけでなく他大学と比較しても初年次ゼミの効果が上がっていることが分かったのです。

――英語教育も学域・学類制になってかなり改革しました。

高橋 大きな改革はクラスサイズを40人から25人以下の少人数にしたことです。また、それまでの4技能を満遍なく学ぶという「総合英語」の授業から、「Academic English」(全学必修) に再編しました。1年次前期のⅠA、ⅠB、同後期のⅡA、ⅡB、2年次前期のⅢ、同後期Ⅳの科目があり、おもに修得する技能目標を、1年次ではリーディング、リスニング、ライティング、2年次ではスピーキング、プレゼンテーションというように明確に身につける技能を設定する形に変えました。その結果を、先ほどの学生調査の項目でみますと、カリキュラム改革によって全体としてプレゼンテーション力と4技能が高まっていることがうかがえます。

課程配属と就職活動の学生回答は、『良かった』『第一志望就職で満足』が6割に

他大学との比較グラフ

他大学との比較グラフ

――大阪府立大学は、卒業予定者(4年生)を対象に学域・学類制導入前後の変化についてのアンケートを実施しています。経過選択制を採っていますので、1年次後期で各課程に共通する専門の基本的な内容を学習し、2年次で課程配属されて、専門的な内容を学習するシステムをとっておられますが、学生調査における課程配属に焦点を当てた項目でどのような結果が出ましたか。

高橋 2015年の卒業生が学域・学類制の1期生に当たるので、ピンポイントで調査しました。878名のうち約6割に当たる518名が「(課程配属は) 良かった」と答えています。一方で、「不満に思う」学生は7・4%と少なかったです。それは配属自体がよくなかったというのではなく、科目の履修に関する内容が不満だったようです。希望する課程に進むことができなかったという理由ではありません。従って、学生の目からは「課程配属」はおおむね評価されるとみていいと思います。

――次に就職活動について、2014年学部卒業生と2015年学域卒業生のアンケートを比較した結果はいかがでしたか。

高橋 12月から1月の時期にアンケート調査を実施したのですが、本学の特徴的な結果として「第一志望であり満足のいく就職先である」の回答が61・7% (284名) もありました。リクルートの全国調査の平均が30%前後ですからかなり高いといっていいと思います。総括すると、2015年度調査(学域生) によれば、本学の卒業生は高い確率で内定を得て就職活動を終えており、しかも第一志望の企業で満足していることが明らかになっています。

以上、学域・学類制導入後の教育環境整備ではまだまだ解決すべき課題はたくさんありますが、おおむね成果を挙げつつあると評価しています。学生と保護者の期待には応えることができているのではないかと自負しています。 

竹堆肥による有機栽培実験の様子1

竹堆肥による有機栽培実験の様子

副専攻の導入とその成果について

――“ 垣根のない大学” をめざすカリキュラムとして、学域・学類制導入でさらに魅力を増した「副専攻」について説明を願いますか。

高橋 「副専攻」は、自分の専門以外に幅広い知を身につけるというキャッチフレーズで進めており、現在、7つのプログラムがあります。(1)グローバル・コミュニケーション、(2)情報システム学、(3)認知科学、(4)DDCフランス語コミュニケーション学、(5)経済学、(6)環境学、(7)地域再生(CR)です。

(4)DDCフランス語コミュニケーション学の「DDC」は、ダブル・ディグリー・コースのことで、大学院において、フランスの学術交流大学との共同指導によって、日仏双方の二つの学位を取得する道が開かれています。文字通りフランス語のコミュニケーション、プレゼンテーションスキル獲得をめざすコースです。フランスの大学と本学が協定を結んでいることもあり、辻学長のイニシアティブで始まりました。大学院生になって長期留学しても、語学力の不足で講義についていけない、研究発表ができないなど、苦労する現状があります。それに対処するため、学士課程の3年次、4年次に新たに「DDCフランス語コミュニケーション」を学ぶことで、1年次から4年次まで継続してフランス語の授業を受けることができるようになっています。授業は少人数で、フランス語を深く学ぶことができます。

(6)環境学は前学長のときに作られたプログラムで、環境人材の育成をめざして、環境に関する基礎的・学際的な講義科目、環境活動を実践する演習科目、既存の文系・理系学類の開設科目を活用し、人間科学、社会科学、自然科学の幅広いアプローチにより、人間の生活空間を取り巻く環境とその人間、動植物等の生態系への影響について基本的な理解を促す教育プログラムです。本学の環境学は以前から特色があり、環境に関する科目が数多くあります。学域・学類制になる前から副専攻として開講していました。受講する学生は多く約150人となっています。

(7)地域再生(CR)(以下、CR副専攻)は、2012年の学域・学類制導入の後、2015年度に開設されたプログラムで、地域の実際の課題を、その現場で実践的な演習を通して学習する副専攻です。CRは、「Community Regeneration」の頭文字で、「地域再生」を意味します。この授業は、本学の教員の他、現場で活躍する実務家や自治体の人たちなどが多く参加するため、受講する学生は地域で活躍するマインドを身につけることができます。

竹堆肥による有機栽培実験の様子2

竹堆肥による有機栽培実験の様子

2013年度から17年度までの5年間、文部科学省により採択された「地(知)の拠点整備事業」(大学COC《センター・オブ・コミュニティ》事業) において、本学と大阪市立大学の共同事業「大阪の再生・賦活と安全・安心の地域創生をめざす地域志向教育の実践」が行われましたが、この副専攻がこの事業の中核に位置づけられました。

本学は公立大学なので、基本的にまず地域のことをよく知って地域課題を解決しようという志向をもった学生を育てるのは使命の1つです。大学を地域コミュニティの中心にして、街づくり・大学づくりを実現する考え方がこの副専攻の中核コンセプトになっています。

1年次後期に「地域実践演習」というCR副専攻の演習科目があります。この演習では、まず地域の課題を知ろうということで、現場に出向いて地域の人たちと一緒に活動します。現在、13クラスが開設されており、1クラス15人以下で演習を行っています。

テーマの一例を挙げると、「大阪湾における次世代漁業の検討」、「地域コミュニティによる学習支援」、「地域実践から学びあう~堺の取り組みの可能性」などがあります。最後に挙げた「地域実践から学びあう~堺の取り組みの可能性」では、高齢化が進んで住む人が少なくなった公営住宅などでコミュニティをどのようにつくるのかについて従来から本学の教員が自治体と一緒に取り組んでおり、その現場に学生が入っています。また、「障がい者スポーツ支援活動の実践」をテーマに東京パランピックで活躍が期待されている「ボッチャ競技」の実施支援、「はびきのいちじくプロジェクト」、「竹堆肥を使った有機栽培実験」、また昨年度の事例では、消防の仕事が若者に分かってもらえていないとの理由で、消防の広報を、若者目線で考えるという活動がありました。活動内容は非常に多彩です。このCR副専攻は、昨年初めて修了生が出ました。今年度末で約60名になります。一般的に副専攻は最後まで修了する学生は少ないのですが、この副専攻については170名程度の履修から始まって、最終的に50名程度が修了します。

―― 副専攻は、「専門以外に幅広い知を身につける」といっても教養を深めるのがねらいだと捉えると間違ってしまいますね。

高橋 教養だけではないです。特に、大阪府というのは全国でも課題の多い自治体です。北部と南部に格差もありますし、場所によっては人口減少による過疎も始まっています。産業的には中小企業の課題もあり、大企業が東京へ本社を移転するということもあります。そういった地域をどのように再生させていくのか、どのように地域コミュニティを維持・発展させていくのか、できるだけ多くの学生に関わってもらい、課題意識をもってほしいと思っています。これは、学域・学類・課程で卒業をめざす主専攻ではできない学びなのです。

 

【略歴】高橋哲也(たかはし・てつや) 理学博士。高等教育開発センター主任、副学生センター長などを経て2009年から副学長( 教育・入試担当)、教育推進本部長。大学教育学会理事、「学士課程教育における共通教育の質保証」代表。専門は数学。日本数学会教育委員会委員長。フルマラソンに挑戦中、目標は3時間半切り。

【取材日:2017年11月27日】※所属は取材当時