片山さん 写真①

中瀬生彦准教授率いる細胞機能制御化学研究室でDDS(ドラッグデリバリーシステム)に関わる研究を進める片山未来さん(理学系研究科 生物科学専攻 博士前期課程2年)。

片山さん留学中 写真
片山さんは文部科学省「官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム 第7期生」に選抜されてイギリスのカーディフ大学に研究留学した経験を持ち、また英語で自身の研究を語るスピーチコンテスト「Falling Walls Lab Tokyo 2017」では「がん細胞への薬物送達ペプチド」をテーマに、ペプチドを“忍者”に例えたスピーチで全国3位に入賞するなど、様々な挑戦を重ねてきました。

とはいえ、サークル活動やバイトもしながらの学生生活6年目を迎えています。さて、府大の大学院生はどのような生活をし、どんな研究生活を行っているのでしょうか?!詳しくお伺いしました。

 

◆どうして府大に入学されたのですか?

高校は同志社女子高校に通っていました。大学までの一貫校なので約9割の学生が同志社大学にそのまま進学しますが、高校2年生の進路調査の時に「決して安くはない学費を払い、4年間で本当に私が学びたいものはなんだろうか」と、はたと考えました。希望学部を埋めるときに、自分は何を学びたいかがまだピンとこなかったんです。

片山さん 写真②
悩みながらも、生物の遺伝の授業で赤と白の花を掛け合わせるとピンクになる事を思い出し、「生物のあの授業面白かったなぁ…」とぼんやり思っていた時、豚インフルエンザが蔓延し、学級閉鎖によって文化祭までも中止に。初めてウイルスの脅威を感じました。

ワクチンを作れば更に強いウイルスが出てきて、人間とウイルスは常にしのぎあっています。その時をきっかけに感染症を止める学問に「やりたい事はこれだ」と感じました。

最初の受験は失敗したものの、1年の浪人期間を経て、予備校のアドバイザーに勧められ、府大の生命環境科学域 自然科学類(現在の理学類)に入学しました。学びたいことが感染症制御学だったので、獣医学類や応用生命科学類にも進みたかったのですが、成績との見合いの中で自然科学類を受験しました。

自然科学類では生物・物理・化学を1年次に広く学び、2年次でそれらの中から自分の進みたい課程を選択します。(選抜はあります)いまの研究テーマを考えると、自然科学類を志望して結果良かったと今では思っていて、浪人時代と大学1年次に「自分が本当に学びたい事」は何なのか、真剣に考える時間があった事がプラスとなりました。

 

◆どんな大学生活を送ってきましたか?

学域生のころは実家の京都から片道2時間かけて通っていました。年次が上がって研究室に配属されてからは、大学の近くで一人暮らしをしています。

高校では家庭科部で料理やパッチワークなどをしていたので、大学ではファッションサークル「E=」(イーイコール)に入り、洋服や小物を作りファッションショー・展示会の企画・出展をしました。

幼稚園の頃からティッシュでリカちゃん人形のドレスを作ったりと、モノづくりが昔から好きだったんです。舞台衣装なども作りましたが、普段着の制作が楽しかったですね。

残念ながら今日の服は既製品ですが(笑)


大学院に入ったすぐの昨年に、スピーチコンテスト「Falling Walls Lab Tokyo 2017」に参加しました。学内通知を見つけて、手を挙げてみたところ私以外誰も参加したい人がいなかったのか、各大学で一名の出場権をすぐに手に入れることができました。

府大のいいところってこんな風にチャンスが多いところだと思うんです。規模も大きく分野も多岐にわたる大学ですので学生にも様々なチャンスがあるのですが、良いチャンスがポータルに上がっているのに、興味ない皆さんも多いというか…もちろん勉強・研究・アルバイト・部活・サークル忙しいとは思うのですが。

ここで1位になればベルリンの国際大会にタダで行ける!それが私の大きなモチベーションでした(笑)。1ヶ月の短期勝負、もう無茶苦茶に頑張ったのを覚えています。

結果は残念ながら3位でしたが、スピーチ直後やその後の懇親会の場で、海外の審査員の方から「Ninja!Ninja!」と慕ってもらえたのは嬉しかったです。同じく参加したスピーカーの方々は難しい研究内容を分かりやすく例えるのが非常に上手で、とても勉強になりました。

 

◆どんな研究をしているんですか?

DDS(ドラッグデリバリーシステム)※です。簡単に言うと「薬剤を、患部のみに正確に届ける研究」をしています。

※DDS(ドラッグデリバリーシステム)
体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御しコントロールする薬物伝達システムの事

研究の様子
学域2年の時に細胞生物学という授業を受けていました。教科書の小さいコラムにDDSの記事があり、率直に「この技術、すごいな」と思った事が今の研究に繋がっています。

現在、抗がん剤は生物由来のタンパク質や遺伝子を利用することによって、薬効を高め、副作用を抑えることのできるバイオ医薬品の開発が進んでおります。しかし、サイズが大きいが故に細胞の膜を通過できないなどの課題があり、日の目をみることのできない薬剤候補が世の中には沢山あります。

私達の研究グループでは、あるタンパク質性「毒素」の細胞膜の透過性に着目し、バイオ医薬品等の抗がん剤をがん細胞へ運ぶ「薬物運搬体」として活用する方法を現在研究中です。

私達の研究が成功すれば「あと少しで目標に到達できるくすり」の研究を後押ししてあげる事ができるんだと思い、日々頑張っています。

 

◆これからどんなチャレンジをしたいですか

DDSの次にワクワクしたキーワードは「産学連携」でした。

研究していて「今の研究が実を結び、はやく薬になってほしい」と日々思うのですが、大学での研究が実用化される道のりはとても長く、大学や研究機関での成果を産業界に結びつけるためには「産学連携の強い力」が必要だと実感しました。

そんな、大学の研究と企業を結び付ける橋渡しの人になりたいと思い、いろいろと進路を模索した結果、縁あって来年からは企業で知的財産職に就く事になりました。先進国では特許の仕組みは整っていますが、途上国などでは知財機能が未成熟な国もあります。しかし途上国でもモノを売る為に知財機能を一から整える、そんな仕事ができると思って入社を決めました。最終的には知財を通して、グローバルな視点でアカデミアの研究と企業の橋渡しをしたいと考えています。

 

◆高校生に向けてのメッセージ

んー、意識するのは難しい事だと思いますが、1日1ヶ月1年を無駄にしないで欲しいなと思います。今自分がしている事が何に繋がるのか。このまま流されていいものなのか。楽しくも苦しい日々の中で、1つ1つ立ち止まって考える時間を取ってほしいですね。

また、やりたいことは簡単には見つからないものなので、日常の中でもあえて疑問を抱く事がやりたいこと探しの原点だと思います。疑問を感じ、深く考えてみることで「!」は生まれます。

留学先にてディナーの写真
また、私がまさにそうなのですが、好奇心が旺盛な人こそ一度立ち止まる時間が必要だと思います。例えば、私も「トビタテ!留学JAPAN」やサイエンスコミュニケーション、スピーチコンテストなど、学内外のプログラムに色々参加してきましたが、やはりそのプログラムに参加できるのはベースに自分の研究があるからだと気が付きました。研究と学外の活動のバランスが崩れてしまって、何にどれだけのエネルギーを注げばよいのか、優先順位の付け方に苦しんだ時期もありましたが、研究こそ「今自分が一番しないといけないこと」と設定し、認識を改めた結果、研究と挑戦の両立ができるようになりました。

好奇心だけで進むと思考が散らかる時があるので、都度立ち止まって「今自分が一番しないといけないこと」は何なのか、優先順位を付けることが大切です。

 

◆今の研究を引き継ぐなら、どんな学生に託したいですか?

そうですね、「がんに苦しむ患者さんを救いたい」という気持ちはもちろん必要なんですが、ひとつひとつの工夫・挑戦・進化にアイデアを取り入れて、それらを「おもしろい」と思えないと自発的に研究はできません。ぜひ好奇心旺盛な人に引き継いでほしいです。

日常を興味関心が強く過ごせる人、そして研究に熱中できる人を中瀬研究室では待っています!

【取材日:2018年8月2日】※所属は取材当時。