WindMill Club(※)は、毎年琵琶湖で開催される鳥人間コンテストで“優勝”することを目標として、手作りで一から人力飛行機の機体を作り上げている、大阪府立大学の学生団体です。成り立ちは地元の方々や行政と共に出場をめざしたこともあり、出場名はその産官学一体のチーム名である「大阪府立大学 堺・風車の会」として、例年エントリーしています。
(※)正式名:Human-Powered Aircraft Works WindMill Club

2018年度の機体「AZALEA」の写真

▼「堺・風車の会」やWindMill Clubの成り立ちや歴史はこちらから
http://www.sakai-fusha.com/shinkan2018.html

今回は、8月下旬に独自に行われた記録飛行会の密着取材レポートをお届けしたいと思います。

●鳥人間コンテスト、まさかの落選

過去6度の優勝経験があり、20年間ほぼ毎年出場していた鳥人間コンテスト。そんなコンテスト常連チームであるWindMill Clubが、今年度、まさかの書類選考落ち。機体完成間近になっての落選の通知に、チームのメンバーは現実を受け入れられずにいました。

「2018年度の代はここで終わることはありません。我々らしいフライトを実現する方法を模索して行きます。」

代表の尾崎翔太さん(生命環境科学域 自然科学類3年)は堺・風車の会のブログでこう宣言し、自分たちだけで日本記録に挑戦する「記録飛行」に臨むことを決めました。

●「琵琶湖に沈んで終わりたい」と挑んだ記録飛行

独自で記録飛行を行うと決めたのは良いものの、初めは何をすれば良いか全くわからないという状況だったそうです。それでも、琵琶湖上空での飛行許可を得るために関係各所に連絡し、交渉を重ねました。
物事は簡単には進まず「本当に飛ばせるのか」と不安になることもあったそうですが、各所の協力もあってなんとかフライト決行にこぎつける事ができました。

8月26、27日のいずれか条件の良い瞬間でフライトを狙う予定でしたが、折り悪く台風接近が重なり、27日のみとなってしまいました。チャンスは一度きり。慎重に慎重を重ねて、念には念を入れて準備をしなければなりません。

●思いを乗せて羽ばたけ

機体を組み立てる様子

フライト当日、作業は未明から始まっていました。といっても、実際チームは2日前から現地入りし、この3日間ほとんど寝ていないというメンバーもいたそうです。

取材者が現地入りしたのは27日の午前4時。ちょうど、機体を組み立て始めるところでした。機体名は「AZALEA」、堺市の花木ツツジの英名から名付けられました。バラバラの状態から翼、胴体、プロペラなど、それぞれのパーツが慎重に組み合わされていき、徐々に機体が完成していく姿に、高揚感を覚えました。

●取材者が現地入りして2時間後 

―AM 6:00

風見鶏の写真

遊覧船乗り場の屋根上に取り付けられた風見鶏

機体に対して向かい風となる湖から陸に向かって吹く“湖陸風”があることが離陸時の理想のため、離陸は陸と湖の温度差が生まれる早朝に試みます。

予定ではAM 6:30頃に湖陸風が吹くだろうとの予想でしたが、相手は自然、そう上手くはいきません。

かれこれ2時間、風見鶏がこちらを向くのをひたすら待ちました。

 

−AM 8:15

スタンバイするパイロットの小島さんの写真

ついに湖陸風が吹き始め、チームは慌ただしくなってきました。自転車を漕いでウォーミングアップしていたパイロットの小島拓朗さん(工学域 電気電子系学類3年)も、顔つきが変わり、いよいよ離陸するぞという空気が漂ってきました。機体に搭乗、ペダルに両足を固定し、いよいよ離陸準備に入ります。

フライトの様子を撮影するため、ドローンによる空撮隊や湖上にてパイロットを救助するダイバーもスタンバイし、ついに離陸最終段階に入りました。

−AM 8:30

一同が静まり返る中、響き渡る尾崎さんの「いきまぁーす!!」の叫び声。
パイロットの小島さんがペダルを漕ぎ始めると、機体後方に取り付けられたプロペラはゆっくりと回転し始め、次第に機体がまっすぐ敷かれた誘導レーンの上を走り始めました。

その速度はどんどん加速していき、機体はふわっと地面を離れ、驚くほど綺麗に宙に浮きました。

防波堤を越えて湖上へ飛び出すために必要な高度2mは軽々クリアし、これはいけるぞと取材者も感じました。

ところが、機体が湖上へと飛び出した直後、予定していたルートを大きく外れ、どんどん右に旋回していきます。一体何が…?!

そう感じた瞬間、パイロットの小島さんから無線が入りました。

「操縦桿が外れた!!」

機体はどんどんと旋回していき、このままでは湖岸に衝突してしまい危険だと判断した小島さんは、ペダルを漕ぐのをやめ、自ら湖上に着水させました。

練習では起こったことすらない、原因不明のトラブル。離陸して1分も経たずにそのフライトは幕を閉じました。

 

とても悔しい結果となってしまいましたが、取材者が驚いたのは着水した後の機体です。その機体は、コックピットこそひしゃげているものの、その他の部分はほとんど破損せずに保たれていました。人が乗って空を飛ぶために軽さを追求してもなお、その強度が高く保たれた機体を目の当たりにし、航空工学が専門でもある私(取材者)は、この機体を“手作業”で作り上げたWindMill Clubのメンバーに心の底から感動しました。

前例のないチャレンジに挑んだ先輩達の勇姿を見て、間違いなく後輩たちは刺激を受けたはず。その意思、そのDNAは受け継がれ、そんな彼らがこれから作り上げる来年度以降の機体、そしてWindMill Clubの活動にも注目していきたいと思います。

■参考記事

琵琶湖であった「もう一つの鳥人間」 大会常連校が単独で挑んだ夏(朝日新聞 大野宏彦根支局長の密着記事)
https://withnews.jp/article/f0181003001qq000000000000000G00110401qq000018084A

【取材:川口 泰輝(工学研究科 博士前期課程 航空宇宙工学分野 1年)】
【取材日:2018年8月27日】※所属は取材当時