2018年9月に行われた日本生化学会大会において「oleamideは筋分化および筋肥大を促進する」という研究発表が評価され、若手優秀発表賞を受賞した小林恭之さん(生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 博士前期課程2年)。

所属する食品代謝栄養学研究室(指導教員:山地亮一教授)では主体性を持って自由な研究ができると話す小林さん、今回受賞した研究や、その道のり、これからの目標など、研究室があるC17棟にて、山地教授とともにお話を伺いました。

小林さんの写真1

ーおめでとうございます。受賞された研究内容を教えてください

小林:今回私が着目したのは「骨格筋」という筋肉です。骨格筋というのは運動機能だけではなく糖や脂質の代謝などの生理的な機能も担う組織です。筋力低下は加齢に伴って起こると言われていますが、厚労省がまとめた運動習慣がある人に関する統計では、年配者より、むしろ働き盛りでデスクワーク中心の20代、30代が運動不足にあり、結果、年齢に関わらず筋力低下が起こり、様々な疾病につながっている可能性があります。私もまさしく大学院生としてデスクワークが多い日々なので、そこを食品成分、サプリメントで改善、予防ができないかというアプローチが今回の研究概要です。

ー小林さんの研究テーマ全体を教えてください

小林:骨格筋は年齢にかかわらず衰えることが分かっています。しかし、なぜ衰えるのかというメカニズムが実はまだ解明されていません。ですので、筋肉低下のメカニズムを明らかにし、そこを食品成分などで回復する道すじを作りたいというのが私の大きな目的です。

山地:アメリカではサプリメントに関して制定されたダイエタリーサプリメント健康教育法というものがあり、研究者がエビデンスとしてそれらサプリのメカニズムを広く社会に提供しないといけません。「これを口にしたら〇〇が増えました」までは分かっているが、なぜ増えたのかというメカニズムをより詳しく解明して説明することは安全性も含めた研究者の責任になってくると考えています。

山地先生写真ー 山地先生が指導する食品代謝栄養学研究室ではどのような研究を進めていますか

山地:小林くんの研究テーマにもある通り、「食品が口から入ったあと、どのように働いて影響を与えるのか」を全般的に研究しています。最近は、「ロコモティブシンドローム」と言われていますが高齢者の運動機能障害からくる疾病リスクをいかに下げるか、また広く世間に周知された「メタボリックシンドローム」の予防など、ロコモとメタボ予防の研究が2本柱です。

ー今回の受賞はどの点が評価されたと思いますか

山地:発表は練習すればうまく出来るものですが、その後の質疑応答がいかにスムーズに納得させる回答が出来たかが今回のポイントだと思います。小林くんは相手の質問に対して、ほぼパーフェクトに答えていたと思います。当然練習はしましたが、とても良い出来栄えだったと私は思っています。

ーパーフェクトな回答ができた要因は何だと思いますか

小林:私たちの研究室には、マスターコース(博士前期課程)だけではなくドクターコース(博士後期課程)の方もおられ、4年生の頃から多くの論理的なアドバイスをもらえる環境でしたし、週に1回「ノート会」という、先輩後輩関係なく議論する機会があります。そういったことが今の自分を作ってくれたと思います。

山地:ノート会など、発表や質疑応答の場では、まずは学生から質問させるようにしています。いくつか浮かぶ疑問をしぼり、論理的に質問するという実践練習が成長の鍵となったと思っています。

小林さんの写真2ー今回受賞の研究を始めたきっかけは

先輩方の先行研究で、長寿で有名な沖縄県産のモズクに筋肉を増やす物質が含まれていることがすでに示唆されていました。それを引き継ぎ、モズクに含まれる成分の中で何が具体的に効いているのかを探索し始めたことが研究の出発点でした。

生理活性物質をモズク抽出物から精製し、機器分析による実験データから生理活性物質がstearamideという物質だろうと推測しました。また沖縄モズクには構造的に相関がある物質が多数含まれており、その中にoleamideという物質も含まれていることがわかりました。oleamideは脂肪酸アミドの中で最も研究されている脂肪酸アミドの一つで、抗炎症作用やアルツハイマーの予防効果なども報告されている可能性を多く秘めた生理活性物質なのですが、これまで骨格筋に対する生理機能の先行研究はありませんでした。そこでoleamideが及ぼす骨格筋量に対する影響とその調節機構の解明を目標と定めました。

ーいろいろな候補物質のなかでoleamideに着目するまでのプロセスでどんな苦労がありましたか

小林:本当に苦労した日々でした。はじめは技術的に未熟なところもあり、先輩の先行研究を再現しても同じ結果を出せず、安定しない結果を繰り返す日々でした。必死にもがいているうちに実験にも慣れ、4年の冬くらいには手応えを感じるようになりましたが、そこまでが壁だったように思います。

小林さんと山地先生の写真ー山地先生から見て、その壁を超える前と後で変化を感じましたか

山地:物質を同定する際はNMRという機器で構造解析していくのですが、それがキレイにでなかったものの質量分析計でその物質の質量がわかりました。そこから「この物質ではないかな」と推測して特定まで進めたのは、彼ならではのセンスと能力です。先ほど出た技術的な未熟さの壁を超えたあたりから特にメキメキと変わってきたように思います。また、仮説を実験に展開できる能力もついてきたと思います。

ー在学中に国際学会でも発表されたのですか

小林:はい、チャンスがあって口頭発表の準備をしていたのですが、出発当日に台風21号(※)が来て関西国際空港から飛行機が飛ばず、残念ながら出席できませんでした。そのかわりに今回受賞した日本生化学会大会への準備が存分にできたので、結果的に良かったと思っています。(※2018年9月に近畿地方に大きな被害をもたらした大型台風)

ー今後、進みたいジャンルは

小林:博士後期課程に進み、博士の学位を取得するつもりです。私自身、どの業界に進むのかはまだ決めていませんが、この研究テーマを見つけてから新しいことだらけで未熟な部分を感じることも多く、どこに進むにしてもいろいろなものが足りていないように思っているので精進が必要です。

小林さんの写真3ー応用生命への興味のきっかけなど、高校時代のことを教えてください

小林:バレーボール部に所属し、土日構わず部活漬けの日々でした。応用生命への興味は、これというきっかけはないものの、いつからか漠然と生命系に進むとは決めていました。周りに生命系に進むという人が少なかったことも、きっかけの一つかもしれません。また、iPS細胞という言葉も耳にするようになってきた頃なので、この分野がこれから来るかもとも思っていました。今となっては自分にマッチした環境を選んだなと思っています。

ーどんな大学生活でしたか

小林:高校から続けて、バレーボールのサークルに入っていました。高校も大学もバレーばかりしていた印象ですが、そのサークルにはドクターコースの方が数名おられ、色々な話が聞けました。その影響もあって、今ドクターを目指すという道を選んだのかもしれません。また、そのサークルのつながりで獣医師や他の分野のドクターの意見を聞けたことも良い経験でした。その多様性豊かな環境が今の自分につながっていますね。

ー最後に、これからこの分野に進もうとする後輩にメッセージを

小林:私は、浪人もして「大学に入学するまで」のハードルが高かったので、入学当初は燃え尽きた感がありました。しかし入学はゴールではなくスタートだと、今なら強く思います。特に、その後にある研究室配属が自分の将来を決める非常に重要な選択になります。この選択や判断を適当にやらないように授業をしっかり聞いて、それぞれの分野を理解することが重要だと思います。授業をしっかり聞いていれば考えも広がりますし、やりたいことも定まっていくように思います。

山地:生命機能化学はありとあらゆる生物の生命機能を利用しようということがコンセプトで「バイオを化学する」というスローガンをもっています。植物や微生物そして動物と、あらゆる生物を対象にできるので選択肢は広くあります。そのどれかを学び将来社会で何かをしようというビジョンを漠然とでも持っている学生が来てくれれば良いですね。偏差値で大学を選ぶのではなく、なにか夢や目的を持って来てもらえれば、1年生からのスタートダッシュも早くなるし、目標により早く近づくことができると思います。

【取材日:2018年12月5日】※所属・学年は取材当時