今回は台湾で2018年11月16日~18日にかけて行われた世界屈指のマジックの大会「Taiwan Magic Association 2018」出場者であり、海外のマジシャンから「Unstoppable Akio」の異名を付けられた程に勢いのあるプロマジシャンで、本学大学院工学研究科博士前期課程2年の河田 晟生(かわた あきお)さんにインタビューさせて頂きました。
―高校時代はどんな学生でしたか?
中学ではソフトテニス部でしたが、高校では勉強がとても好きで部活はしていませんでした。能動的に受験生をエンジョイしていたんです。どの科目も愛していたので文理選択や受験科目の選択に頭を抱え、自分だけ特別に全ての教科の授業を受けられないか先生に相談する程でした(笑)
―大阪府立大学に入学をされた決め手は?
実は第一志望は大阪大学でした。私学を含めた第二志望以下は全て合格するも、阪大には力が及びませんでした。どの大学を選ぶか…正直、関関同立の方がネームバリューはあると思っていたのですが、テストの内容は府大が一番難しかったので「岡山県出身の自分が知らないだけで、府大っておもしろいかも…?」と思い府大を選びました。府大は僕にとって「一番謎に包まれた大学」だったので、チャレンジングな選択をしたかったのも大きな要因だったと思います。
―大学ではどのような研究をされているのですか?
文理選択・受験科目の選択同様、「大学で何を学ぶか」も非常に悩みました。選ぶという事はそれ以外を捨てるという事と同義だと思うんです。学ぶ事がとても好きなので、「捨てる」つまり「学ぶ機会がなくなる」事が嫌なんですよね。
高校の時、先生とよく相談した結果、工学系ならその後の選択肢が広がる事が分かり、現在工学研究科 物質・化学系専攻 化学工学分野に所属しています。
研究室ではコンピューターシミュレーションを用いて粉体プロセスを研究しています。実は粉は生活の中で至るところにあるんです。例えば化粧品・医薬品・食品・塗料・粉を使う電池なんかも今研究されていますね。
しかし、粉に関して研究する力やテクニックを持っている人材はまだ少なく、どの分野でも重宝されています。粉の研究は将来的に色々なジャンルの人と関わる事ができ、選択肢がとても多いので、その可能性に惹かれて選択しました。
―マジックを始めたきっかけは?
高校時代、卒業間近まで部活に励む吹奏楽部やコーラス部の友達がとてもキラキラ見えたので、大学に入ったら何か人前に立つ事をしたいと思っていました。
入学後の新入生歓迎会は手話・コーラス・英語・演劇・アカペラなど、色々な部活やサークルを見学して回りましたが自分の琴線に触れるような部には出会えませんでした。
今思うと僕は「この人に付いて行きたい!」と思えるような「魂が震えるほど熱血な人」を求めていたんです。
そして5月のゴールデンウィーク明け、「奇術部」という名前が目に入り、マジックのタネを見破って茶々を入れてやろうと軽い気持ちで見学に行きました。
その時マジックを見せてくれた方はマジックのオリンピックとも呼ばれるFISM日本代表メンバーである当時在学中だったRyu-kaさんでした。世界レベルのマジックを目の当たりにし、思わずその場で「僕にマジックを教えて下さい」と頭を下げました。
Ryu-kaさんのマジックには圧倒的な何かを感じました。そしてこんなにも一つのものを極めた、高みに居るこの人に、とても魅力を感じました。
僕は0か100かでしか動けないんです。中途半端に取り組むということが出来ないんですが、マジックならば、僕は100になれると思った瞬間でした。
―マジックの面白さとは?
始めたばかりはやはり技が出来る楽しさ、嬉しさですよね。
そんな風に考えていたまだまだ新米だった僕をRyu-kaさんはよくヒルトンホテルなどの仕事に連れて行ってくれました。セレブたちの前でマジックをする事になるのですが、汗は出るし手は震えて、時には失敗することもありました。
でも、場数を踏むにつれて自分の力が上がっていくのを感じたんです。そして技ができるだけでなく、芸事・エンターテイメントとしての「終わりのないマジックの深さ」にも気付けました。
その後は大会の魅力に取りつかれましたね。
初めての大会は「アジア代表」・「国内大会優勝者」・「入賞確実といわれる期待の星」という精鋭が3人も出場していましたが、Ryu-kaさんのサポートもあって初出場は4位。
舞台の上ではもちろん、準備をしている2・3ヶ月前から緊張しっぱなしでしたが、この結果を受けて、自分は決して入賞圏外ではないんだと思ったんです。近い将来勝てるに違いない。そこから大会に全力を出してみようとスイッチが入りましたね。
―Taiwan Magic Association 2018を振り返って
現実は甘くはなく、スイッチが入った後も負けが続きました。僅差で負ける事もあり、本当に悔しい日々が続きましたが、歴代の入賞者・ライバルが出場する中挑んだ2018年8月の国内大会で本当に、本当にやっと優勝する事が出来ました。
審査員特別賞としてアジア圏の国際大会UGM MAGIC CONVENTION 2018へ出場。そこでの入賞をきっかけにTaiwan Magic Association 2018に出場する事が出来ました。まさにUnstoppable状態。ここまでは漫画みたいな展開でサクセスストーリーなんですけどね(笑)。ここまでは。
Taiwan Magic Association 2018では小さいミスはあったものの良いパフォーマンスが出来ましたが、トロフィーを持って帰ることはできませんでした。
全力を出し切った演技だったが故に2、3日とても落ち込んでいましたが、何故自分が入賞できなかったのか、帰国してすぐに審査員や当日会場に居た人達に連絡を取りフィードバックを頂きました。
すると審査員から「Akioの順位は入賞一歩手前だった。僅差で敗れたんだ。」との言葉を頂いたんです。
名立たるマジシャンたちが出場していた中で自分は決して場違いな存在ではなかった。自信を頂きました。そして「何が足りなかったのか」と振り返り、自分のマジックにはまだまだ弱点がある事に気づけたんです。
もしこのTaiwan Magic Association 2018で良い評価を頂いていたら、自身の最大の目標であるJAPAN CUP 2019優勝に向けたマジックの更なる昇華を考えていなかったと思います。勝ちが続くと現状の自分のままで通用すると思ってしまうんですよね。
とても苦い敗北ではあったのですが、トータルで見ると収穫は非常に大きかったです。Unstoppableを止めてくれて良かったとも思っています(笑)。やはり大会出場はやめられないですね。現在も、3月に開催されるJAPAN CUP 2019に向けてブラッシュアップを進めています。今度は手ぶらじゃ帰ってきませんよ!
―これから府大を目指す人に向けて一言お願いします
自分の本気エンジンを100%に持っていける「もの」・「こと」・「ひと」に出会って欲しい、探して欲しいと思います。時間は誰しも同じだけ過ぎていくわけで、100%のエンジンは50%のエンジンよりも必ず素敵な学びを、経験を、知識を、考えを生み出してくれるものです。勉強でも部活でもバイトでもなんでもそうですが50%で取り組むのは人生の時間も労力もとてももったいない。
でも、それを見つけることもなかなか難しいとも思うんですよね。
そんな時はフットワークを軽くすることをお勧めします。やるかやらないか考えても、やらない理由ばかり出てきてしまうので、まずはトライ。フットワークの軽さは同じ時間でも多くの世界を見る事が出来るので、きっと皆さんの琴線に触れる「これだ!」という出会いがあるはずだと僕は思います。
―河田さん、ありがとうございました。
取材当日、トランプマジックをいくつか披露してくれました。技のすごさ、不思議さはもちろん、河田さんのトークにその場にいた全員が夢中になり大盛り上がりでした。これからも世界に翔いていってください!
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【取材日:2018年11月22日】※所属・学年は取材当時