今年で25年目を迎える「関西経済論」ですが、今年度の2回目となる4月25日は、本学 工学部 数理工学科を卒業し、現在はクックビズ株式会社(以下、クックビズ) 代表取締役社長CEOである藪ノ 賢次(やぶの けんじ)さんに登壇いただきました。

講演をされる薮ノさんの写真

講演の様子①母方のご実家が寿司屋を営んでおられ、幼いころから身近に飲食業界の賑わいに触れることの多かった藪ノさんですが、大学卒業後しばらくは、携帯電話販売の自営業をされていました。そんな中、大変活気があり盛り上がっていた外食産業が人手不足に陥り、離職率も高くなっていることに問題意識を持ち、「食にかかわるすべての人の成長を実現する」というミッションを掲げ、「食を人気の職にする」、「飲食業界の離職率を3割以下にする」ことなどを目標に、2007年12月にクックビズを起業されました。

そして起業するからには安定的な経営をと、「10年以内に株式上場」と言う大きな目標を掲げ、9年354日目の2017年11月28日にマザーズに上場されました。ただ一般的に上場には少なくとも3年は要すると言われている中、藪ノさんをはじめとする経営陣は非常な苦労をされたようで、東京証券取引所での上場セレモニーで「上場の鐘」を高らかに打ち鳴らした時の喜びは、ひとしおだったとのことです。

スライドの写真そして、上場したことで社会的信用度が増し、資金調達や採用面などで有利になっただけでなく、社会から求められるクリーンな経営とは何かを常に意識しながら、Founder(創業者)、Stockholder(株主)、CEO(最高経営責任者)の異なる視点をバランスした経営判断を行えるようになったとのことです。「欲望に負け、これら3つのどれかにバランスが偏ってしまうと、会社としてのバランスが崩れてしまう」、「株主総会では、あらかじめ定められたマニュアル通りに話をするのではなく、自分自身の言葉で株主の方々と対話を行うことで、良い信頼関係を築けている」というお話が印象的でした。

このようにして、今や国内最大級の飲食求人サイトとなった「クックビズ」で成功された藪ノさんですが、常にその眼は日本だけに限らず、世界で起こっている食に関するさまざまなトレンド、変革に向けられています。今回も前日まで、視察のため東南アジアに出張だったとのことです。そして講演では「Food Tech」を紹介されました。

「Food Tech」とは、文字通りFood(食料)とTechnology(技術)の融合です。

講演の様子②近年の異常気象による食糧不足、その一方、飲食店で発生しているフードロス、あるいは環境への負荷が少ない植物由来の肉の開発など、さまざまな社会課題の解決を、テクノロジーを駆使し行おうというのが「Food Tech」です。既に植物由来の食材開発を行っている米ベンチャー企業には、ソフトウェア業界の雄でマイクロソフト創業者のビルゲイツが資金援助を行っているとのことです。

そして本学の植物工場研究センター(http://www.plant-factory.osakafu-u.ac.jp/)も「Food Tech」の事例として紹介されました。

このように世界的に注目を集めつつある「Food Tech」ですが、日本、そして関西は、観光(インバウンド)や人手不足解消のためにこれを活用すべきとの提言で講演は終わりました。

その後、質疑応答が行われましたが一般聴講者からの講演内容に関する質問に加え、工学域の学生からは起業に関する質問もありました。その何れに対しても丁寧に回答され、藪ノさんの人柄を感じさせると共に、聴講者は充実した時間を感じることができました。

植物工場見学をされる藪ノ社長の写真講演の後、Food Techの一例としてご紹介いただいた植物工場研究センターを熱心に見学、経営者の視点だけでなく、工学部出身者らしい鋭い技術的な質問もされている姿が印象的でした。

藪ノさん、ご多忙の中、母校でご講演いただき、誠にありがとうございました。

 

 

【取材:川口 泰輝(工学研究科 博士前期課程 航空宇宙工学分野 2年)】
【取材日:2019年4月25日】※所属等は取材当時