1/25(金)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。今回のカタリストは、工学研究科教授で大阪府立大学工業高等専門学校 校長も務めている東健司教授。テーマは「地震対策への自信とは? ギネスブックにも載った“水あめみたいな金属”」でした。

東健司教授 講演の様子

金属でありながら室温で水あめのように伸びる超塑性Zn(亜鉛)-Al(アルミニウム)合金を用いて、風から地震の揺れまで対応でき、さらにメンテナンスフリーで使用できる制震ダンパー装置の開発・実用化について、当日、2/8(金)、3/8(金)の3回にわたってお話いただきました。

一般的に金属とは“硬い”という固定観念がありますが“水あめのように伸びる金属”とは一体なに? と首を傾げる方も多いはず。それは、1984年に東先生が発見した亜鉛アルミ合金で従来の10万倍も速く伸びる高速“超塑性”技術によるもの。この技術の開発は世界初の快挙で“世界一よく伸びる金属”として1985年以降のギネスブックにも記載されています。

超塑性現象がビスマスとスズの合金で見つかったのは1934年。硬い材料でもゆっくりと長い時間をかければ、数百倍にも延ばしたり広げたりできることが判明しました。しかし超塑性を持つ金属は成形に時間がかかりすぎ、民間での応用ではコストが合わずに使えないデメリットも。そこで成形する速度を高める方法を世界で初めて発見したのが東先生でした。

テーマは「地震対策への自信とは? ギネスブックにも載った“水あめみたいな金属”」

先生は、応力とひずみ速度と温度との関係を研究することで、超塑性物質は極めて均一に変形するという本質を明らかにしました。その上で、普通の金属は結晶粒を小さくすると強度は上がるのに、超塑性物質では逆に強度が下がってしまうという現象の解明にも取り組みました。その結果、超塑性物質の変形が結晶粒と結晶粒の境界、つまり粒界がすべることにより生じることがわかりました。この概念を「粒界塑性」と言います。

そこから超塑性の性質を生み出す材料プロセスの重要性が認識されました。圧延や押し出しという従来の材料加工プロセスを調整することにより、結晶粒の大きさが小さくなり、しかも均一となって、高性能の材料に生まれ変わります。

先生が超塑性の特性を制震ダンパーに利用できると思いついたのは、地震の発生がきっかけでした。当時、金属ではなくゴムや油圧を使った器具で揺れを防止していましたが、現場では必ずしも有効ではありませんでした。しかし先生と企業が共同で開発した「ナノ結晶室温高速超塑性材料」は、地震の揺れを吸収する部分に使われ、超塑性の“水あめのように伸びる”性質を利用して、地震のエネルギーを吸収します。圧迫死が多い地震において、建物のなかに安全な空間を確保し人々の安全を守ります。

超塑性物質は、エネルギー吸収能力に優れ、大変形を受けた後も性能が劣化せず、受けたダメージを自己回復して半永久的に使用可能というメンテナンスフリー機能など、従来製品では望み得ない性能を達成しました。その反面、解決すべき問題は高価であるということです。

今後の課題は価格面だといいます

大きな地震が日本列島を襲う昨今、安価で高性能な制震デバイスを核とする制震技術の普及は、人々に安心・安全な生活を提供します。超塑性物質を使った製造コストの低い制震ダンパーの一般実用化を現実のものとすべく、革新的・実用的な開発・材料プロセスの研究が進められています。

地震のような自然災害に対する社会的要請に応え得る産業技術は、より多様化・総合的になっています。そのためには、マルチスケール組織制御に基づく材料工学の新規な設計思想が必要。特に今後の材料創製には、化学や物理の基礎理論は不可欠で、新たな視点として原子・電子のアトムスコピックレベルから、構造物のマクロレベルまでのマルチスケール感が求められています。

東先生をお迎えして3回に渡って開催されたアカデミックカフェ。テンポの良い語り口から発せられた情報は、先生が30余年という長きにわたり研究を重ねた、まさに世界基準!

今回のカタリスト 東健司教授

楽しくて、刺激のある3日間でした。質疑応答やディスカッションの時間を長めに設定されたのも、現場で参加者の皆さんとの対話を大切に考えられたから。その中でも先生が皆さんに熱を帯びてお話されていた言葉を最後に記します。

「若くて元気に、何でもしようと思うなら、好奇心が必要! 身の周りの事に何でも興味を持つことです。大切なのは遠慮なく質問すること。これが人生を豊かにしていきます。これまでと違う事を体験できるのはハッピーです。そういう事を持つことができるから人は幸せになれます。まず“なぜだろう?”と疑問を持つこと。そこから全てが始まりますよ!」。

東教授をかこみ集合写真

【取材日:2019年1月25日、2月8日、3月8日】※所属は取材当時