2019年3月31日、大阪府立大学I-Siteなんばにて、3月末にて退官される石井実教授・副学長の最終講義が行われました。会場には石井先生の学友や研究者仲間、教え子たちが全国より集まり、旧交を温めていました。

◆石井実教授 最終講義 概要
日時:2019年3月31日(日)午後2時30分~午後4時
場所:大阪府立大学 I-siteなんば2階C1-3
主催:大阪府立大学環境動物昆虫学研究室、大阪府立大学昆虫学研究室同窓会

開会の挨拶は生命環境科学研究科長 川口剛司教授。「これからはお好きな昆虫採集に出かける機会も増えるかと思います。そのためにも健康にご留意され、ますますこれからの大学のためにひと肌脱いでいただきたい」とあたたかい言葉が贈られました。


講義のテーマは「里山のチョウたちと半世紀~多くの人たちに支えられて~」。

1951年に横浜の下町で生まれた石井先生が里山のチョウたちに関心を持ち始めたのは、小学生高学年の頃。チョウ好きのT先生の標本箱に輝く紫色のチョウにひとめぼれした石井少年。

小中高校時代はチョウ仲間と神奈川県内の里山で採集を楽しみ、大学時代には国内外へ採集旅行へ。充実した授業や野外実習などを通じて、次第に動物生態学への興味を持つようになりました。

京都大学大学院の理学研究科(動物学専攻)に在籍し、「チョウの生活史の組み立てに関する研究」をテーマに、イチモンジセセリの移動調査や「ギフチョウの蛹期間を制御する環境要因に関する研究」(学位論文)などに従事。またボルネオ調査隊に参加し、ココアモスの産卵行動に関する研究、熱帯地域におけるチョウの季節性に関する研究などを経験し、「京大日高敏隆研究室で過ごした大学院時代は人生の宝物」と述懐しました。

1985年、大阪府立大学に入職。多くの学生を教えた先生ですが、“むしろ一緒に楽しんだ”という想いが強いと振り返ります。主なテーマは昆虫類の生活史、群集の多様性と変化、種と生息場所の保全に関する研究など。当初は基礎研究が多かったのですが、次第に自然保全生物学的な研究が増加。企業との共同研究や、環境省など行政からの受託研究も行いました。

講義の後半は、チョウの分布の拡大について。ナガサキアゲハを例に南方系昆虫の分布拡大の要因を究明した研究事例を紹介。

また大阪府内におけるギフチョウの分布から、大阪北部におけるギフチョウ個体群の保全に関する研究へと話がおよびました。個体群衰退の要因としては植林の伸長、里山林の荒廃、採集者の集中などが考えられていましたが、加えて、近年は今後はニホンジカの増加による森林植生の過剰採食も深刻になって懸念されています。

先生が愛してやまないチョウと里山。私たちが思い描く田舎の原風景は、時代と共に失われつつあります。燃料革命・肥料革命により里山が放棄され、荒廃し、野生生物の衰退が顕著になってきました。

それでも大阪府北部には里山がたくさん残っています。能勢町の三草山もその1つで、中腹の良好な里山に名が「三草山ゼフィルスの森」の愛称がつけられています。

石井先生が会長を務める大阪みどりのトラスト協会が、1992年からチョウを指標とした里山の植生管理事業とチョウ類のトランセクト調査を開始し行い、石井研究室がチョウ類のモニタリング調査を行ってきました保全が行われています。

広い意味での里山(=里地里山)は日本全土の約4割を占め、この里山の問題を解決しないと、日本的な野生動植物、動物は、次々に順番に絶滅危惧種になっていく現実。

石井先生はこのようにお話を締めくくられました。

「私は小学生の頃にチョウと里山に出会い、最初は彼らを知るために採集や観察、研究に喜びを感じていましたが、里山の崩壊とともに彼らが急激に衰退。私の基礎研究が彼らを救うために役立つ時が来るとは思ってもみませんでした。

里山のチョウたちにお世話になったので、恩返しのつもりで、今後も彼らと彼らの生息場所の保全の研究や活動に力を入れていきたいと思います」。

最後の想いを伝えると、会場からは万雷の拍手が沸き起こりました。石井先生の功績を讃える拍手、感謝の拍手。

石井先生と関わりのある皆さんから発せられたあたたかな時間でした。

先生のかつての教え子からの花束贈呈の後は、職員はじめ研究室の皆さんが用意したお祝いのくす玉が登場。それを先生が割ると、なんと中から大量のチョウがひらひらと舞い飛ぶサプライズ!チョウを愛する石井先生らしい締めくくりでした。

閉会の挨拶は、緑地環境科学専攻長の上甫木昭春教授が務められ、その労いの言葉を後に、石井先生は聴講者からの拍手に見送られ、会場を後にしました。

 

【取材日:2019年3月31日】※所属は取材当時