2018年12月14日(金)、I-siteなんば「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは大阪府立大学大学院 工学研究科の森澤和子教授。テーマは「ものづくりとゆとりづくり―最適化技術で優しいものづくり」です。
生産のグローバル化やIoTの導入などが急速に進み、経営やものづくりを取り巻く環境は近年めまぐるしく変化しています。
今回はこれらの変化に柔軟に対応し、省エネ・省資源・高効率で、人にも環境にもやさしい生産活動を行うための最適化の技術や手法について、生産管理技法・システムの開発にも携わる森澤先生よりお話いただきました。
良いものづくりとは、顧客のニーズに合った性能や品質をもつものを早く安く適切な量つくること。日本のものづくりは、高い技術力と確かな品質によって世界中で高い評価を得てきました。
無理のない効率的なものづくりの実現には、必要なものを必要な時に必要な量だけつくる「最適化」の仕組みを構築することが必須。
例えばトヨタ自動車のJIT(Just In Time)生産方式は、これを実現するための独自の仕組みです。そのようなものづくりができている会社だから、世界のトップ企業であり続けています。
最適化技術が、仕事を頑張っている人たちに、自由でゆとりのある時間をもたらすことから、人に環境に社会に“やさしいものづくり”にもつながります。
ものづくりの最適化において、大切なことの一つはスケジューリング(スケジュールを決定すること)。スケジュールとは、時間軸上で設備または資源に1つ以上の活動(仕事や作業)を割り当てた「活動予定(処理順序)」を指します。
代表的なスケジューリング手法として整数計画法やメタヒューリスティクス(タブーサーチ、遺伝的アルゴリズムなど)があります。
ここでは2台の機械による流れ作業型の製造工程を例に「ジョンソン法」というスケジューリング法を紹介します。
【例】
製品a~eは、いずれも2台の機械「機械1」「機械2」で「機械1→機械2」の順で加工されて完成します。各機械での作業時間は製品によって違いますが、時間はあらかじめわかっています。
この5つの製品の全作業をできるだけ短時間で終えるにはどのような順番で加工を行えば良いでしょうか?
最適スケジュールを求めるジョンソン法ではこのように考えます。
(0)x=1, y=5とします。
(1)順番が決まっていない製品の機械1、機械2での加工作業の中で最も作業時間が短いものを探します。
(2)それが機械1での作業なら、その製品をx番目に順序付けし、x:=x+1とします。機械2での作業ならば、y番目に順序付けし、y:=y-1とします。
(3)処理順序の決定した製品を除きます。
(4)順番が決定していない製品があれば(1)に戻ります。全ての製品の順番が決定したら完了です。
後半はサービスを生み出す“みえないものづくり”の例として「スタッフ・スケジューリング」を紹介。スタッフ・スケジューリングとは、スタッフ(作業者)の仕事や作業の予定を決定すること。
今回は看護師のスケジュールを決定する「ナース・スケジューリング問題(看護師勤務表作成問題)」を考えました。
この問題は、非常に多くの制約条件をもつ組合せ最適化問題です。日勤、深夜勤、準夜勤などの各シフトに必要な人数を配置することにはじまり、夜勤回数や勤務日数などの労働条件への配慮、有休申請など看護師からの希望への対応まで、看護師間で不公平にならず、一人一人が無理な勤務にならないための制約条件は多岐にわたります。
そういう条件を考慮しながら、先生たちは開発したアルゴリズムを用いて、ベテランから若手まで25人の看護師の勤務表をコンピュータで出しました。
大変なのが、当日の朝にやむをえず欠勤しますという連絡が看護師さんから入った時。
当日の日勤以降の勤務割当を変更して対処しますが、そのためには、各勤務に必要な人員を確保し、必要な看護の質を維持し、かつ各看護師の勤務日数を決められた範囲内に抑える…など重要で複雑な制約条件を厳守しなければなりません。
ナース・スケジューリング問題は、少子高齢化社会の重要課題です。良好な勤務表をつくることができれば、質の高い看護サービス体制の確保はもちろん、看護師が家庭環境に配慮しながら無理なく働くことのできる体制の確保につながり、医療サービスの充実・向上に寄与できます。
他にも介護サービスをはじめ、乗務員のスケジューリング、時間割作成など、さまざまなスケジューリング問題の解決が期待できます。
スポーツスケジューリングについては、ブラジルのプロサッカーリーグの事例があります。特定のチームが長距離移動を強いられたりアウェーでの試合が続いたりといった不公平な日程を避けるために最適化の手法により年間スケジュールを決定した結果、リーグ全体で移動費用などが約270万ドル(当時の為替レートで約3.2億円)も減ったそうです。
質疑応答の時間では、職場の作業スケジューリングに悩む参加者の質問が相次ぎ、先生からのアドバイスを持ち帰ろうという皆さんの姿勢が印象的でした。
最適化の考えは、ものづくりの場面だけではなく、デスクワークや家事など日常生活にも役立ちます。「日常の小さなコツコツが大きな生産性につながります」という先生の言葉を胸に、日々の段取りを工夫して、無理をせず、ゆとりのある時間を生み出したいものですね。
<先生のオススメ本>
入門オペレーションズ・リサーチ(東海大学出版/松井泰子・根本俊男・宇野穀明著)
【取材日:2018年12月14日】※所属は取材当時